95.王宮訪問
城の門前にいる。大きな門だ。衛兵が数人立っていて、不審な目でこちらを見ている。勢いで来たけど、どうしようね?
「大きいねぇ~」
「にゃ~」
沙羅と小太郎は呑気に城を見上げている。
「どうするにゃ?」
「どうするって、取り次いでもらうしかないでしょう」
「誰が行くにゃ?」
「マーブル商会の会頭はあなたでしょう」
「うにゃ……行ってくるにゃ」
衛兵と話をしてからマーブルがトボトボと帰ってくる。
「紹介状がないと取り次いでくれないそうにゃ……」
そういえば、最初に会った時のマーブルもこんな弱気だったな。押しが弱すぎる。仕方ない、口出しするか。
「俺たちマーブル商会は王宮からの使いから言われて来てるんです。後で俺たちを追い返したとなれば、落ち度はそちら。お咎めを受けるのはあなたたちですよ。伺いだけでもしてきたらどうですか?」
衛兵が話し合いを始め、結局王宮内にお伺いをたてに行った。
「おぉー、あきっちが頼もしく見えるにゃ~」
「貴子様にも強気だったよねぇ」
別にいつも強気なわけじゃない。押すべきところは押さなきゃ駄目ってだけ。
しばらく待つと身なりのいい初老の男性が、ぱっちょんの店に来た使いの人と護衛の数人を連れて現れる。
使いの人がマーブルを確認して初老の男性に頷く。
「ようこそおいででくださいました。さあ、こちらへ」
初老の男性が笑顔で話しかけてくる。衛兵はさっきと打って変って下にも置かない態度になったな。
王宮の勝手口のほうに案内され、大きな食堂のような部屋に案内された。
「私は侍従長を務めるハーンと申します。この度は急ぎでわざわざのお越し痛み入ります」
侍従長と言えば王宮ではトップクラスの権力持ち。王様に接する人の中でも一番近い人だ。これは幸先がいいぞ。
と、俺が思っている反面、マーブルはあまりの大物にビビッている。
はぁ……仕方ない。
「侍従長様ほどのお人にお取次ぎいただけ、恐縮至極でございます。主に代わりお礼申し上げます。私はアキオミ。アキとでもお呼びください。こちらが私どもの会頭、マーブルでございます」
「マ、マーブルと申します。い、以後お見知りおきを」
「マーブル殿。そう、恐縮なさらず。ケルン伯爵より献上された品は大変すばらしいもので、陛下と王妃様がお使いになり、いたくお気に召しましたご様子。今後も王宮でお使いになりたいと仰せになりましたので、使いを出した次第です」
王宮で使いたい!? それは大口の取り引きになるんじゃないか? 沙羅と顔を見合わせる。沙羅も驚いているようだ。マーブルは……駄目だ、あまりの内容に驚きフリーズしている。
はぁ、仕方がない。
「必要な品と数量はどのくらいご入り用でしょうか? 今回新たに仕入れてきた品もありますが、ご覧になられますか?」
「ほう。では、見せていただけますかな」
マーブルを肘で突っつき始動させる。
「各一式ずつ、お出しすればよいかと」
「わ、わかったにゃ」
石鹸は前回の安物に加え、少し高い洗顔用の石鹸も用意してある。タオルやバスタオルも各種用意した。
後は食器関係を充実させている。あえて無地ではなく、派手な食器を大量に用意してある。カトラリーセットもピンキリで木製から金属製まで充実させた。そのほかに調理器具も用意してきた。こっちは料理人向けだ。
「ふむ。料理長を呼んできてくれないか? 侍女長もだ」
そう言って人をやり、しばらくするとコック姿の男性と初老の女性が来た。
「なにようかな? この忙しい時に呼び出すとは」
「至急、お呼びだとか?」
「お二方、忙しい時に申しわけない。私では評価できぬので、専門家のお二人に来てもらった。こちらを見たもらいたい」
大きなテーブルに所狭しと並べられた品を見せる。
ここは説明が必要だろう。マーブルに代わり商品の説明をしていく。実際に手に取ってもらい使い心地、肌触りも確認してもらい質問にも答えていく。
「ふむぅ、儂の知らん調理器具がこれほどあるとは。ドワーフの中でも超一流の職人が作ったものと見える。この食器一つ見てもわかるとおり、色鮮やかで形も歪みなく完璧な品だ。こんな素晴らしい食器を儂は見たことがない」
「石鹸は素晴らしいの一言です。前のも良い品でしたが今回のはおそらくエルフの秘伝を使ったものでしょう。タオルなども高級な素材をふんだんに使った一級品。これほどの品はそうお目にかかれません」
「それほどですか?」
「「それほどです!」」
うん。いい感じだ。
三人が相談を始める。こちらもマーブルと話をする。
「ど、どうするにゃ?」
「中途半端な値段じゃなく、明らかに高い値段設定をしよう。安物では王宮も納得しないだろうから吹っ掛けてやればいい。馬鹿みたいな値段でちょうどいい」
「お、怒られないかにゃ?」
「それだけの品を持ってきてるって顔をするんだ。おそらく、大口の取引になる。今回持って来た分で足りなくなるおそれもある。その場合は後日納品ということにするんだ。そして、値段が高い代わりにおまけ、あるいは要望を聞こう。大口なら多少の値引きも可だ。でも、ここでの値段が今後の値段の指標になるからね。安売りは絶対駄目。値段交渉は任せたからね」
「わ、わかったにゃ。おまけはどうするにゃ」
「おまけはフルーツの缶詰辺りでいいと思う。俺のほうから切り出すよ」
「フルーツの缶詰をただでやるにゃか! もったいないにゃ~」
「損して得取れって言葉がある。食器などで十分以上に儲けが出るし、消耗品は今後ずっと取引が続く。フルーツ缶詰もその一つになれればいい」
「わ、わかったにゃ。がんばるにゃ!」
「にゃ~」
沙羅がそんなマーブルの頭をなでなでして、小太郎がエールを送る。
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