94.貴族対策
商業ギルドを後にしてぱっちょんの店に行くと、店の前に豪華な馬車が並んでいる。店の中に入ると店の中も大賑わいというより罵詈雑言が飛び交っている。何事だ?
「うるせぇ! ねぇもんはねぇんだよ! 一昨日来やがれってんだ!」
凄い剣幕のぱっちょんが貴族の使用人に怒鳴っている。
「プルーネ叔母さん。何があったにゃ?」
「あら、マーブルちゃん、いらっしゃい。マーブルちゃんが持ち込んだ品が貴族の使用人の目に留まってね。そこから噂が貴族中に広まって、この有様なのよ~」
沙羅は小太朗を抱っこしたままフリーズ。あまりにも汚い言葉や卑猥な言葉が飛び交うので思考を停止させたようだ。
前に来た時にノートなどの文具に百均の石鹸や皿、ガラスのコップと洗濯ばさみなどの雑貨をかなりの数を置いていったはず。
「何が品薄何ですか?」
「そうねぇ~。ありていに言えば、全部?」
マジですか!? そんなに売れたのか。
マーブルが悩んでいる。今出すべきか、出さざるべきか、ってところだろう。
「さすがにここで貴族の相手をするには場所が悪いにゃ。仕方ないにゃ、個別で売るしかないにゃ」
ぱっちょんのお店は雑貨屋だけあって広いけど、そのほとんどが品物で埋め尽くされている。そんな場所に貴族の使用人がぎゅうぎゅう詰めで押し合いながら店中にいるので、まともに話ができる状態じゃない。
「品物はあるにゃ! 後日、個別に販売するにゃ。このノートに名前と連絡先をを書くにゃ。訪問順は爵位順にゃ」
新しく出したノートに使用人が記入していく。上は王宮に公爵、下は騎士伯まで三十以上の名が連なっている。
ここは王都ではないのに王宮から人が来るとか……この一週間で何が起きたんだ?
「にゃにゃ! この間から十四日も経ってるにゃ!?」
ん? 二週間も経っている? そういえば前回来た時に時間のズレがあったな。こっちの世界のほうが早く時間が進んでいるのか?
「それより何があったんですか?」
ぱっちょんが俺たちがいない間のことを、詳しく聞かせてくれた。
発端はこの町の領主。領主に仕える使用人がぱっちょんの店に来て自分用に石鹸を買った。その石鹸は俺たちが持ち込んだ石鹸。結構な値段がついていたのだが、自分へのご褒美として買ったらしい。
そして使ってびっくりポン。いい香りに汚れがよく落ち、手も荒れない石鹸。すぐさま上司に報告してその上司が石鹸を買い占めに向かうと、石鹸以外の品物にも気づき更に買い占め。
それを知り合いの貴族に自慢したうえ、一部を国王に献上もしたらしい。
そのせいで、あの有様。転移持ちの王宮の使いや貴族の使いが連日押し寄せる事態になったそうだ。
「そっちの嬢ちゃんは兄ちゃんのガールフレンドか?」
「ガ、ガールフレンド!?」
フリーズしていた沙羅が、また変な反応を示す。
「仕事のパートナーも兼ねています」
「パ、パートナー!?」
パートナーにも反応を示す沙羅。顔を赤くして小太郎をぎゅっと抱きしめながらウネウネしてる。不思議な踊りだ……。
「どうすんだ? マーブル。うちのような小さな店が貴族の屋敷に出入りしたら御用商人に目を付けられるぞ」
「そうにゃんだよにゃ~。あきっち、さらっちなんかいいアイデアはないかにゃ?」
沙羅は……駄目だな。まだ不思議な踊りを踊っている。俺の理力は減ってない、このまま踊らせておこう。
御用商人たちに目を付けられるくらいならいいが、変に恨まれて嫌がらせや、下手をすれば手を出してくるかもしれない。
そうだな、手っ取り早い案がある。権力には更に上の権力を持って制すればいい。
「王宮にはすぐに行けるか?」
「王都はマーキングしてあるから行けるにゃ」
そうなれば、後は行動に移るのみ。マーブルたちに俺の案を説明する。
「そうなるってぇと、うちの店はマーブルの商会の傘下に入ったほうがいいってことだな」
「何言ってるにゃ! うちがぱっちょんの商会の下につくにゃ」
「そりゃ駄目だ。今回の問題の品はマーブルじゃなきゃ手に入らねぇ。それなのに俺が上に立つと問題が起きるのが目に見えている」
「別に今と何かが変わるわけじゃないから、いいじゃないの~。マーブルちゃんなら信用は問題ないし~」
「というわけだ。頼むぜ。マーブル会頭」
「うにゃ~。泥船に乗ったつもりで任せるにゃ……」
いや、泥船は駄目だからね! 絶対に駄目だからね! 豪華客船……も氷山にぶつかって沈んだな。そうだ、不沈艦雪風にしよう!
「泥船は駄目! 雪風に乗ったつもりで任せるにゃ! に修正を求める!」
「雪風ってなんにゃ? まあ、いいにゃ。雪風に乗ったつもりで任せるにゃ!」
おぉー。パチパチパチ。
そうと決まれば善は急げ。王都に向かおう。
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