89.次の仕入れの選考

 マーブルと話し合いがあるので沙羅の部屋に移動。マーブルを連れて行くなら小太郎は置いていけとのご婦人から苦情が出たので、言うとおり小太郎はそのままご婦人たちに預けておく。小太郎は気にしてないようなので問題ない。


 沙羅の部屋は女性の部屋に見えなかった……凄く、ドキドキしていたのに気が抜けた反面、沙羅の部屋だなと妙に納得してしまった。


 和室で床の間、違い棚、書院まである。床の間には上杉謙信の飯綱明神の前立ての付いた甲冑(色々威腹巻 兜、壺袖付 伝上杉謙信所用)附 黒漆鎧櫃というらしい。沙羅に熱心に語られた。甲冑の後ろには『毘』と書かれた大旗が……愛はないのか?。


 座卓に座敷机はあれど、女の子らしいものが一つも見当たらない。座卓には『六韜』の和訳本が載っている。読んでいるようだ。


 マーブルがケット・シーの姿に戻り畳の上でごろごろし始める。


「さらっち、お菓子」


 サラがお菓子の載った盆を座卓に置き、俺がお茶を淹れる道具一式を置く。


「本当にお母様たちは……ごめんね。アキくん」


 何に対して謝っているのかわからないので濁して返事をしておく。沙羅が淹れてくれたお茶を飲みながら他愛もない話で談笑。


「マーブル、少し太ったんじゃないか?」


「あ、あきっち!? それは女子に言ってはいけないことにゃ!」


 いやいや、実際にマーブルは少しふっくら……野良猫っぽかった容姿が、毛艶のいい家猫っぽくなっている。俺よりいい物を食べてるからなぁ。


 さて、話を本題に戻す。あの金貨について聞きたい。


「あの金貨はゼギール帝国の金貨にゃ。あきっちの国はゼギール帝国と取り引きしてるにゃ。可哀そうだにゃ。骨の髄までしゃぶられ尽くされるにゃ」


 そ、そこまでなのか? 実際に向こうに住んでいて、商売しているマーブルが言うのだから間違いないか……。


「で、どう思う?」


「アキくんの考えていたとおりでいいと思うよ?」


「取り引きができるにゃら、魂石なんてはした金にゃ!」


 だよな。じゃあ、次は向こうに持っていく品物をどうするかだ。


 資金は潤沢にある。大間の鮪ででも買うか? って言ってら目を輝かせて買うにゃ! って躊躇なく言ってきた。さすがに鮪の仕入れ先を知らないと言うと、サラが天水家御用達の魚屋に言えば買えるかもなどと、本気で言ってるのか冗談で言ってるのかわからないことを言ってくる。


「冗談はさておき、本命は?」


「冗談じゃないにゃ! 鮪を買うにゃ!」


「買ってどうする? 言っておくけど鮪の値段は前回の品物の五十倍くらいだぞ? そんな値段で捌けるのか?」


「ご、五十倍!? 儲けを出すにはそれ以上で売らないと駄目なのかにゃ……」


 マーブルが食べたいだけなら、沙羅におねだりすればいいだけだと思うのだが?


「みんなに食べさせてあげたいのにゃ……」


 沙羅がマーブルを優しく抱きしめる。


 だから一匹丸ごと買わずとも、さくで買ってお土産にすればいいんじゃないの?


「それにゃ!」


 まあ、頑張れ。



 商業ギルドのアディールさんに頼まれたノートと鉛筆、消しゴムは、大学生協でバイトした時に知り合った雑貨問屋に直接注文すればいい。


 俺の部屋に送ると寝る場がなくなりそうだが、小太朗の自由空間に入れておけばいいな。しかし、ノート一万冊ってどのくらいの量になるんだ? 一冊五ミリと考えて五万ミリ、で五千センチから五十メートル!?


 か、かなりの量だな。俺の部屋では無理か? ほかに鉛筆や消しゴムもある、ついでに石鹸も頼もうと思っているけど、どうしよう?


「石鹸は五千個だにゃ」


 ほかにも食器やカトラリーセットも欲しいという。だけど、食器類は一度に持ち込むと需要が追い付かなくなって値崩れするおそれがあると教えると、


「じゃあ、ほかのにするにゃ。アキっち、売れそうなもの考えるにゃ」


 と、素っ気なんく言われる。自分で考えることを放棄した駄猫。それでも商人の端くれか!


 向こうでプラスチック製品を売る気はないので、なかなか難しい。前回はぱっちょんのお店に卸したけど、専門のお店に卸すものとして布生地をそろえるのはどうだろうか?


 安い生地は庶民が着る洋服屋に、高い生地は高級品店に卸せばいい。布ならポリエステルでも誤魔化せる。ナイロン生地のアウターや雨具もいいかも。そうか! ゴム製品もありだな。輪ゴムなんてどうだろう。需要は大きいはずだ。


 布生地に関してはサラに任せる。天水家御用達の呉服屋がいるそうなので……。


「缶詰がほしいにゃ」


 缶詰かぁ。缶切りが必要になるんだよなぁ。手開け式のを選ぶか? 種類が限られるけどどうする?


「缶切りもいっぱい持って行けばいいにゃ。向こうで作るのもありにゃ。それから、桃缶は必須にゃ」


「マーブルは桃缶好きだものねぇ」


 桃缶……またしても俺が食べたことのないものを食べているのか。天水家はマーブルに贅沢させすぎ! 


 しかし、マーブルは缶詰を向こうで普及させる気か? となると大口の取引になる。やはりそうなると食料品の問屋を見つけないと駄目だな。雑貨問屋に聞いてみるか。


 それなら、百均で買っていたものも問屋で買えないか聞いてみたほうがいいな。一店舗で買える量はたかがしれている。


 大量に買えば交渉次第で値段も安くなるはずだからな。





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