88.天水家屋敷

「取りあえず、この品はすべて預かります。鑑定の後、関係機関との話し合いに入り、その後で関係閣僚及び首相との協議に入ります。早くて三か月、遅ければ半年はかかるとみてほしいわ」


 三か月から半年も……その間マーブルとの取引はどうすればいいんだ?


「取引相手にはなんと言えば? 彼らにだって生活があるんですよ?」


「それを言われるとつらいところね。いいわ。取引は続けなさい。その取引相手と手を切られるのは惜しいわ。資金は私が出します。取引で手に入れた品は後日、必ず買取するから安心して取引をしなさい」


「今回と同じような品でいいですか?」


「そうね。武器防具は必須ね。高くなってもいいから、性能のいい物を手に入れて。ほかは本がほしいわ。異世界言語の解析ができるわ」


 なかなか難しいことを言ってくれる。


「性能のいい物は受注品になると言ってました。相当高くなると思いますが構いませんか? それと、本も貴重品ですので非常に高価ですが?」


「構いません。こちらの世界の品と向こうの世界の品がどれほどの差があるか調べる必要があります。本も印刷技術が遅れていれば当然ね、気にせず集めなさい」


「了解です」


 先ほどの執務室に戻ると、秘書さんに今度は紙を渡される。


 なんだこれ?


「小切手だね。一千万だって。アキくん、お金持ちになったね」


 屈託のない眩しいほどの笑顔で言ってくる沙羅だが、所詮は人の金。俺のものじゃない。しかし、一千万円とは……いったい俺に何を買わせようと? 大間の鮪を丸々一匹買ってもお釣りがくるな。


 ぴくっとマーブルが反応した気がした……。


 後日、連絡をくれるということなので、それまでは普通どおりでいいそうだ。それから、今日のことは黙秘とのこと。


 帰りもサラの車で送ってもらえることになったのだが、途中から見慣れぬ風景に変わる。車はどう見ても高級住宅街に入った。その中でも一際大きなお屋敷に車が入って行った。ここはもしかして……?


「私の家だよ」


 なぜ、そんなに笑顔なのだろうか? 俺の心臓は張り裂けんばかりにバクバクしてきているのに……。


 玄関前に車が止められサラは何事もないように家に入る。


「ただいま~」


「おかえりなさいませ。沙羅お嬢様」


 お、お手伝いさんですか!? 沙羅のお嬢様っぷりを目にして、引き気味な俺。さて、俺はどうすればいいと思う? 小太郎さんや?


「にゃ~?」


「ほら、アキくんも上がって」


「お、お邪魔します……」


 あれよあれよと沙羅とお手伝いさんに案内され、大きな和室の居間に通される。外から見た外観どおり、家の中も純和風だ。


 居間には女性が二人座ていた。


「あらあら、ぼっちの沙羅ちゃんがお友達を連れて来るなんて、それも男の子を。明日は雨でしょうか? お母様」


「沙羅さんもお年頃なのですよ」


「お母様もおばあ様も違うからね! アキくんは探究者のパートナーなだけなんだからね!」


「そこから芽生える恋」


「浪漫ねぇ」


 な、なんなんだ? 俺はどうすればいい? 普通に挨拶したほうがいいのか?


「十六夜聖臣です。こっちが小太郎です。いつもサラさんにはお世話になっています」


「まあ、沙羅ちゃんがお世話してるそうですよ。お母様」


「もう、そんな仲なのね。今夜はお赤飯がいいかしら?」


「だから、お母様もおばあ様も違うから!」


「あら、何が違うの? いつもお昼を一緒に食べてるのでしょう?」


「沙羅さんはどんなお世話を想像していたのかしら?」


「……」


 サラは顔を真っ赤にして口をパクパクしながらフリーズ状態。完全に遊ばれている。


「マーブルちゃん、お帰りなさい」


「みゃ~」


「あらあら、小太郎ちゃんも噂は聞いてはいたけど、可愛らしいわね。抱かせてもらっていいかしら」


「にゃ~」


 俺が答える前に小太郎自らキャリーバッグから飛び出し、お二人にすり寄って行く。


「あらあら、いい子ね~。マーブルちゃんはモフモフだけど小太郎ちゃんはムニュムニュね」


「にゃ~」


「あらあら、ごめんなさい。十六夜くんも座ってちょうだい」


「咲さん、お茶とお菓子をお願いね」


「はい。大奥様」


 サラは顔を真っ赤にしたまま俺の横に座りはしたが、一切しゃべらない。仕方ないので、沙羅のお母さんとおばあさんの話相手をする。


 主にモフモフ談義だ。今まで犬は飼ったことはあるけど猫は家が傷つくと沙羅のおじいさんが許可しなかったらしいが、サラが連れてきたマーブルと接しているうちにマーブルにメロメロになったそうだ。


 ちなみにマーブルはサラの女友達から預かっているという設定だ。なので、今本気で猫を飼う相談を家族会議でしているらしい。猫は可愛いし癒しになる。小太郎が俺の元に来てからは、いろんな意味で充実して感謝しているからわかる気がする。



「にゃ~」





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