87.取り引きの自由
「それで、その異世界人とは連絡が取れるのよね?」
「できます」
「会わせてほしいわ」
「条件次第でしょうか」
というか、あなたが小太郎と一緒に抱っこしてますよ。口が裂けても今は言わないけど。
「取引の自由」
「独占禁止法って知ってる?」
「今まで魂石を独占したいたのは、どこのどなたでしょうか?」
「言うわね。私を脅す気?」
「私としては異世界人を紹介しなくても、正直残念ではありますが困りません。ただ、そうなった場合どちらも大きな商機を逃すと思うのですが?」
どちらかといえば、貴子様のほうは国益かな。だとしても、ここは引くところじゃない、権力に屈しない姿勢を見せなければ舐められる。
「弱者の虚勢は見苦しいわよ」
「窮鼠猫を噛むって言葉を知っていますか? 俺の取引相手は別にこの国じゃなくて構わないです。さて、この情報を欲しがる国はいくらで買ってくれるでしょうか?」
お互い睨み合う。沙羅はオロオロしながら、俺と貴子様の顔を交互に窺っている。
「はぁ…いいわ。譲歩しましょう。ですが、私一人の独断では決められないわ。それと保険は掛けさせてもらうわよ」
「保険とは?」
「取りあえず、あなたたちは宮内庁特別異威対策室預かりにします。それと当分の間は監視付ね」
「わ、私も!?」
沙羅さん、今更ですよ。もう、私とあなたは運命共同体。毒を食らわば皿までだ。
「監視ですか?」
「監視というより、あなたたちのボディーガードね。どこからこの情報が漏れるかわからないから」
そんなにこの組織のセキュリティーはざるなのかと思ったら、地下世界の情報関係で、この国と関係の良い悪い国問わず多くの諜報員がこの国に送り込まれているらしい。
そこにこの話、火に油を注ぐどころかニトログリセリンを投げ込んだようなものだ。もし、情報が漏れたりしたら諜報員がこぞって押し寄せ、それに捕まったら……。
「わかってもらえたかしら?」
沙羅は今度は縦にブンブンと首を振っている。
「話は今度改めてします。ほかのお偉方に根回しも必要だからね。というわけで、持っている物すべて出しなさい」
「出すのは構いませんが、ちゃんとお金払ってください。相手に渡す品物の仕入れなんかもあるんですから」
「鑑定が終わるまで、そのくらいあなたが出しておけばいいでしょう」
これだから金に苦労したことがない人間は……。
「恥ずかしながら、俺は貧乏で苦学生です。お金がないと生活できません。小太郎のご飯だって買えなくなります! 小太郎を飢えさせるつもりですか!」
「うっ、し、仕方ないわね。そうね…じゃあ、この金貨を買い取るわ」
手元に大金貨は十四枚残っている。さっき預けた一枚と更に四枚加えて渡す。貴子様が秘書さんに目配せすると秘書さんが部屋から出て行った。
「ここに全部出していいのですか?」
「ちょっと待って。緊急対策会議室を開けなさい」
今度は全員出て行った。
「準備ができるまでお茶にしましょう。喉が渇いたわ。とら屋の羊羹も切りましょう。私ここの羊羹好きでよく取り寄せるのよ」
宮内庁御用達ってやつか……ブルジョワめ。
まあ、羊羹はうまかったけど……。
貴子様と沙羅がモフモフ談議に花が咲ていると、秘書さんがやって来て俺の前に現金の載ったトレーを置く。五十万あるらしい。確認しろとのことなので確認する、手が震える。こんな現金を触ることなんてあまりない。
枚数を数えて確かにあることを確認する。持って歩くのは怖いので小太郎にしまってもらう。
「収納系のスキルを持っているのも凄いけど、こちらでスキルを使えるのも凄いわね。精密検査受けない?」
「お断りします」
精密検査という名のモルモットにされるのだろう? 御免こうむる。
「それに収納スキルを持っているのは小太郎ですから」
「「コタちゃんって凄い!?」」
会議室の準備ができたので移動。厳重な警備がされた場所に着く。空いている場所に小太郎にマーブルから受け取った品を全部出させる。
「これだけのものを手に入れるのに、どれだけの対価を払ったの?」
ここに集まっている人たちみんなが品物を見て驚いている。
「秘密ですが、まあ、そこそこには。それと運が良かったのも」
なんて言ったけど、ほとんど自腹は傷んでいない。カブトガニ怪獣を売ったお金のおかげだ
マーブルの持ってきた品の価値はだいたい知っている。
なぜ、向こうの取引相手は魂石しか取引しないのだろう? 魂石なんか目じゃないくらい儲けられるのにな。
しかし、競争相手がいないのは助かる。マーブルの世界のものを独占販売できる。正直、魂石なんてどうでもいい。それ以外のもので十分に利益は上がる。
ケット・シー族はマーキングや自由空間のスキルを持つ者が多いとマーブルが言っていたから、マーブルがそういった者を集めて商会を作り、各国に支店を作れば末永くパートナーとなるだろう。
マーブルが商会を興せば、俺も会社を興してもいいかもな。そしたら、貧乏脱却だ!
「もしかして十六夜くんは、会社でも作ってこの品を売ろうなんて考えてない?」
「顔に出てましたか?」
「会社を作っても取引はできないと言っておきましょう」
「どうしてですか? カタログ販売などしてますよね?」
「製造は個人や企業だけど販売は国の機関が一元管理してるの。考えてもみなさい。ここは日本よ。芸術品や骨董品ならいざ知らず、本物の武器を日本で販売できると思って?」
ぐっ、正論だな……。じゃあ、海外に拠点を作るか? おそらく許されないだろうな。強い武器が外国に流れれば、せっかくのこの国の優位性が崩れる。
くっ、貧乏脱却作戦の手前で躓くとは……だが、諦めないぞ!。
その品を手に入れることができるのは俺だけだ。
逆に、国が俺に譲歩しなければならないよに仕向ける必要がある。
よく考えろ! 聖臣。
貧乏脱却がかかっているぞ!
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