79.異世界取引商品

 問題はどうやって向こうまで移動するかだ。普通の猫と言い張るにはマーブルは大きすぎる。


「小さくなればいいにゃか?」


 と言うと、普通の成猫の姿になった……。服やバッグや腰につけていた剣はどこ行った!?


「自由空間にしまったにゃ」


 異世界人って便利なスキルを持っているんだな。


「か、可愛い!」


 はいはい、沙羅さん、話が進まないのでマーブルをモフるのをやめてください。


 取りあえず、ここから早々に引き上げよう。沙羅の目的も達したので、明日はここに来ないで帰るほうがいいだろう。


 迷宮の受付でマーブルを怪訝な目で見られたが、俺のマギと言い張って誤魔化した。


 紗耶香さんに帰ると伝えに行った時は、小太郎のキャリーバッグに隠れてもらった。


「もう帰るの? なにかあった?」


「悪鬼はもう私の敵じゃない!」


「と言っていますので、目的は達しましたので」


「そ、そう」


 若干、強引な言い訳だけど、なんとか誤魔化せた……と思う。


 マーブルは猫の姿のままホテルの俺の部屋に泊まり、翌朝天水家の車で帰った。


 装備が大宮駐屯地から届くのが明日なので、喫茶店ギルドに行くのは明日。今日は沙羅のたっての頼みで、マーブルは天水家に泊まることになった。


 翌日、喫茶店ギルドに集合。そこで、重大発表があると沙羅が言うので聞くと、マーブルは雌猫と聞かされる。正直、どうでもいい話だな……。


 ぶーと頬を膨らませている沙羅をよそに、マスターギルド長たちに見つからないように異界アンダーワールドへ移動。人工ダンジョンへ向かった。


 入口近くに作った保管部屋にマーキングしてもらう。これで気兼ねなくいつでも来てもらえる。


 さて、移動手段は解決。それでは何を取り引きするかだ。


 取りあえず、保管部屋にあるものを見せる。


「たいした物がないにゃ~。どこででも手に入るものにゃ」


 まあ、そんなものだろう。期待はしていなかった。沙羅にあげた緑丹も見せたが、全く興味を示さない。聞けば向こうにはこういった回復アイテムは豊富にあろそうだ。


 そうか、逆にこちらで買い取る品になりそうだ。こちらで一番安いポーションでも一万円する。安く手に入ればリターンも大きい。まあ、売る相手がいないけど。そこはおいおい考えるとして話を続ける。


「じゃあ、どんなものが欲しい?」


「お魚にゃ! 昨日食べたお魚が欲しいにゃ! 淡白だけど美味しいお魚と、脂の乗ったトロっとしたお魚にゃ。おいしかったにゃ~」


 天水家で何を食べたんだ? いや、なんとなくわかるけど……。


「鯛と鮪のお刺身かな? 大トロを喜んで食べてたっけ」


 大トロ……最近、月読様の所で初めて食べた高級食材。それが普通に食卓に上がるなんて……そして、それを食べたマ-ブル、羨ましい……。


「マーブルは魚以外だと何が欲しい?」


「魚、だめなのかにゃ……」


 日持ちしないからなぁ。刺身は難しいと思うぞ。


「じゃあ、生活の役に立つものがいいにゃ」


 生活に役立つものかぁ。百均のものとか文房具辺りが無難じゃないだろうか? それ以外だと、マーブルの世界に無さそうな珍しいものが欲しいとのこと。考えよう。


「本当は帰りたくないにゃ~。さらっちの家に住みたいにゃ。でも一旦帰って商品を集めてくるにゃ。何が欲しいにゃ?」


 沙羅と話し合う。レアメタルなんかどうだろうか? 宝石なんかもいいんじゃない? でもどうやって売る? 異世界の武器防具も気になる、植物の種なんかも面白そうだ。


 頼んだのは金属のサンプルと宝石、武器防具に薬品等をお願いする。


「宝石? 魔宝石じゃないのかにゃ?」


 やばい。話がまたややこしくなる。こちらの常識と向こうの常識がわからない。知識のすり合わせが必用だ。詳しい話はまた今度だ。


 お互いに仕入れるものが決まったので、六日後にお互いに売るものを集めて、またここで話し合いをしようということになった。


 次は少し長く泊まれる準備をしてくるように言っておく。


「六日後だにゃ。またにゃ~」


 手をブンブン振りながらそう言って一瞬で消えた。


「行っちゃたね……また、来てくれるよね?」


「何もなければ来るんじゃない? お刺身を気に入ったようだし」


「にゃ~」


「そうだね!」



 翌日、俺の下宿先で待ち合わせ。マーブルとの取り引きの品を探すため町に出る。


 最初に向かったのは百均ショップ。安くて生活の役に立つものを売っているといえば、ここがすぐに思いつく。今日来たのは街中の大型店舗。


「凄いね。いろいろあるんだね~」


 あっちに行ったり、こっちに行ったり、品物を見て首を傾げたりと大忙しの大はしゃぎ。


 お嬢様育ちだからこんな所に来たことがないのだろうな。支払いもカードを出していたくらいだ……もちろん俺が払った。


 それにしても、百均に半日いるとは……さすがに疲れた。荷物もいっぱいなので、遅い昼食をとって本日お開き。明日はホームセンターに行こう。


 次の日、ホームセンターに行けば、沙羅と小太郎はペットショップコーナーに釘付けで微動だにしない……。


 しょうがないので、俺だけで品物集めをする。


 お嬢様は意外と使えない……。





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