78.旅猫行商人
二日目も同じことを繰り返す。慣れてきたのと地の力が上がったようで、宵月を使わなくても沙羅が悪鬼を倒せるようになってきた。
こうなると、沙羅無双が始まる。出て来る
することがない……。
そんな時に肩に乗った小太郎が俺にスリスリしてきた。なんだ? 小太郎がチラチラと後ろを見る。
小声で小太郎に
「誰かいるのか?」
と問いかければ、スリスリと肯定の意を示した。
その後も沙羅の無双が続き、観察者もずっと後をつけて来ている。
たまたま、ちらっと姿を確認できたが、子どものように見えたんだが気のせいだろうか? こんなところに子どもがいるわけないよな?
沙羅もさすがに疲れて休憩。沙羅に近寄って小声で観察者のことを話す。沙羅、観察者のいるほうをガン見。
「大きな猫が立ってる……可愛い」
「えっ!?」
わざと見ないようにしていたのに……。沙羅がガン見したのでもういいやと俺も見た。
誰もいない……と思ったら、物陰からひょこっと猫が顔を出す。怯えた様子で、さも、いじめる~? というような表情だ。
「にゃ~」
小太郎が優しく、いじめないよ~とでも返したのか、ニパッと笑顔になって出てきた。
〇旅猫行商人マーブル。ケット・シー。 気配遮断、迷彩、可愛さMAX、剣技、魔術、精霊魔法、猫魔法、自由空間、マーキング(5/9)、好奇心は猫を殺す、猫の九生(残り七生)。
身長百センチほどの、ロシアンブルー似の洋服を着た二足歩行の猫だ。いや、残月によるとケット・シーだな。
「こんにちはにゃ」
「こ。こんにちは」
「にゃ~」
「ここは竜の大回廊かにゃ?」
竜の大回廊? とはなんだ? そもそも、このケット・シーとは何者だ。
「おそらく、違うわよ。あなたはどこから来たの?」
「うちはマーブル、行商人にゃ。ソールリシア王国のクレストの町から来たにゃ」
まったく聞いたことがない地名が出てきた。はにわくんに周囲の警戒を頼み、お茶を飲みながら話をすることにした。
マーブルは行商人で行商の途中で、辺境にある大迷宮竜の大回廊の近くを通った時に、周りにいた精霊たちが竜の大回廊に面白いことがあると騒いでいたので、興味が湧き竜の大回廊に入ったそうだ。
竜の大回廊は広大すぎてレイダー? に不人気でマイナーな迷宮らしく、ほとんど人が入らない場所らしい。レイダーはこちらでいう
なので、精霊たちの案内の下、地下五十階まで降りここに繋がる階段を見つけたそうだ。見つけたと言っても何十階も上がってきた結果らしいが。
異世界と繋がっている!? いや、
マーブルというケット・シーは小太郎とスキンシップをおこなっている。お互い猫科? なので相性はいいようだ。
「じゃあ、ここはソールリシア王国じゃないにゃ?」
「ソールリシア王国なんて聞いたこともないわ」
「そもそも、俺たちの世界にはケット・シーなんて種族はいないな。お伽話の世界なら別だけど」
「おぉー! 精霊の言ったとおりにゃ。ここは異世界にゃ!」
精霊なんてものも見たこと感じたこともない。それこそ、おとぎ話の世界。
「うちは行商人にゃ。この世界のものが欲しいにゃ。誰か商人を紹介してほしいにゃ」
沙羅と顔を見合わせる。お互いに首を振る。無理に決まっている。
マーブルを表に連れて行ったら大混乱が起こる。下手をすれば全世界を巻き込んでだ。俺にそれに挑戦する勇気はない。沙羅もだろう。
だがしかし! 面白い! これこそ摩訶不思議、アドベンチャー、ファンタジーだ!
「取り引はいいとして、移動はどうするんだ? 毎回、竜の大回廊を通ってくるのか?」
「大丈夫にゃ! マーキングがあるにゃ。問題ないにゃ!」
マーキングはマーキングした場所に一瞬で移動できるスキルなんだそうだ、月虹みたいな転移スキルのようだ。
となると、俺の計画が問題なく決行できるな。
この世界の商人は紹介できないけど、代わりに俺たちがマーブルと取引をすればいい。それに、マーキングがあるなら大宮駐屯地の迷宮ではなく、俺たちのテリトリーでやれば情報も洩れずに安心。
マーブルと沙羅に俺の考えを話して様子を窺う。
「うちは取り引きできるならそれでもいいにゃ。小太郎の主なら悪い人じゃないにゃ」
「やる!」
沙羅は目をキラキラさせ元気よく手を上げる。
まあ、言わずと知れたことだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます