77.トラウマの克服

 ゲートを潜り迷宮ラビリンスのある場所まで来ると、コンクリートの壁に囲われた、プレハブ小屋があった。


 プレハブ小屋に入り受付を済ませると地下に降りる階段に通される。今現在、五組が迷宮に入っていて、この後に俺たちを含めて四組入る予定だそうだ。


 入る前に今まで調べられた分の、マップの情報をCデバイスにダウンロードしてもらっている。確認すると相当に広いことがわかる。


 さあ、未知なる世界に出発だ。


 はにわくんを召喚。今回はリヤカーを持ってきてないので馬は呼ばない。


 迷宮内は薄暗い。見えなくもないが、安全のためにライトを点ける。怪異モンスターにこちらの居場所がバレるが、今回は探索ではなく戦いに来ているので気にしない。


 迷宮内を歩いているとさっそく怪異モンスターが現れた。残念ながら悪鬼ではなかった。山姥かなと思ったがちょっと違う。鬼のような表情に角まで生えている。


 残月で見ると、


 〇鬼婆 安達ヶ原に棲み、人を喰らっていたという。人間の女性が宿業や怨念によって鬼と化したものとされ、中でも若い女性を鬼女といい、老婆姿のものを鬼婆という。


 山姥の上位種?


 取りあえず、はにわくんをぶつけてみる。沙羅は待機だ。


「はにゃ~」


 気の抜けた気合を発しはにわくんが魔改造バットで殴りつける。鬼婆は片手で防ぐが、ボキリと音がして腕が折れたね。はにわくん、容赦なく鬼婆に魔改造バットを何度も叩きつける。


「はにゃ~!」


 はにわくんの勝利の雄たけび。あれ? 意外と余裕?


「はにわくん、強くなったわね……」


「にゃ~」


 なら、検証のため今度は俺が戦ってみよう。現れたのは、ボンキュッボンの若い体の鬼婆……いや、鬼女だな。


 はだけている着物で、大事な所が見えそうで見えない若い女性の柔肌。目のやり場に困るというか……逆に釘付け?


「アキくん……最低~」


「にゃ~」


 顔は鬼とはいえ、体形は若い女性。それも、胸の部分がはだけ大きな胸が見え隠れし、大きく揺れ上下にボインボイン。見るなというほうが難しい。


 しょうがないじゃないか、これは男の性なんだ……。


「えぇぃー! 悪霊退散!」


 氣を纏い、すれ違い様に居合の要領で鬼女の胴を薙ぐ。一撃必殺。横を通りすぎた時にいい匂いがしたのは黙ってこう……。


 やはり、幽斎師匠から教わっていた時より強くなっている感じがする。うさぎ師匠との修行の賜物か?


 鬼女が消えた後に小さな袋が残っている。


 緑丹(小) 毒消し効果と怪我の小回復効果あり


「アキくん、鼻の下伸ばしてた~! 最低~」


 まだ言うか……あんな化け物より沙羅のほうが大事だって。口に出して言えないけど……。


 緑丹を沙羅に渡す。俺には風月があるから沙羅が持っていたほうがいいだろう。


「これは?」


「毒消し兼回復薬……だと思う」


「ふーん。なんでわかるの?」


「な、なんとなく?」


 やっちまった……誤魔化しきれたか? いや、疑いの目で見られてるな……。


 どう、誤魔化そうか悩んでいると、向こうから救世主が現れる。沙羅の宿敵、悪鬼だ。


「お目当ての相手が来たよ」


「手は出さないでね」


 そう言って、小太郎を渡してきた。


「危なくなったら手は出すよ」


「にゃ~」


「……」


 何も言わず、目だけで拒否を表し悪鬼に向かって行く。水龍も呼び出して万全の態勢だ。ここの悪鬼は普通の悪鬼より少し強い。


 あれからレベルアップしているとはいえ、普通の悪鬼にも手こずる沙羅には厳しいのではないだろうか?


 しかし、今回は前のように気持ちで負けていない。気負いも十分。気合の声とともに薙刀が振り下ろされるが、悪鬼が素早い動きで、沙羅の間合いの内に入る。


 そのせいで刃ではなく刃の下の柄の部分で悪鬼の肩を打ちつけることになり、あまり効いていない。水龍が水弾を打ち出し、その間に沙羅が間合いを空けた。


 沙羅が考えるスピードより、実際の悪鬼のほうが一歩速い。修正できるか?


 薙刀は威力があるぶん、取り回しが難しそう。間合いの内に入られるとさっきのように、十分な攻撃力を相手に与えられない。


 悪鬼の攻撃は拳撃と蹴撃、否が応でも沙羅の懐に入って攻撃しようとしてくる。それを踏まえたうえで、いかに沙羅の間合いで戦えるかだな。


「にゃ~」


 と思っている矢先に沙羅が悪鬼に押し切られピンチになっている。やはり、どうしても力負けしてしまう。


 先ほどまでは、水龍と協力して防いでいたが捌ききれなくなりつつある。


「くっ……」


 どうやら傍観はここまでのようだな。沙羅に宵月を使用する。


「!?」


 急に自分の動きがよくなれば驚くのも無理はない。宵月を使用したことで沙羅と悪鬼の能力が逆転した。沙羅のほうが若干、悪鬼を上回ったようだ。


 力負けしていたのが嘘のように悪鬼を押し始め、一瞬の隙をつき決定打を与え勝利を掴む。


 こっちに戻ってくる沙羅の顔は不機嫌そのものだな。


「何かしたでしょう」


「した。今のサラでは悪鬼はまだ格上だね。だから、その分の力を埋めた。これで、慣れていけば、俺の力なしでも勝てるようになると思う。それでも不服?」


「……悔しいけど必要。でも、必ず自分一人の力で勝って見せるから!」


 鬼婆と鬼女が出てくると俺とはにわくんで倒し、悪鬼が出てきた場合は沙羅が相手をするを繰り返す。この迷宮ラビリンス怪異モンスター階位レベルが高いようで、帰る時間までに二度レベルアップした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る