76.コネクション

ある日、避暑を終えた沙羅から連絡が入る。


大宮駐屯地のアンダーグラウンドワールドが自衛隊以外にも開放されるらしい。自衛隊だけでは探索困難と判断されたようで、探索を希望するギルドを受け入れるそうだ。


そこで、沙羅嬢はあり余るコネを使って、アンダーグラウンドワールドを探索する権利を得たらしく行こうと言ってきた。アンダーグラウンドワールド長ったらしので迷宮ラビリンスでいいや。


打ち合わせがてらお土産を持っていく。甲陽軍鑑二十三冊。正直、部屋に置いておくのは邪魔……。


「すごいね……これ。おそらく相当な年代物だよ。出すところに出せばすごい値が付くと思う」


某有名、お宝探偵団に出せば高額査定間違いなしのようだ。出す気は毛頭ない。


まあ、確かに年代物だと思う。月読様の所で死蔵されていたものだしね。やっと日の目を見れて、その本も喜んでいることだろう。


沙羅からは真っ赤なアロハシャツをもらった……。軽井沢に行っていたんじゃないの?


「アキくんに似合うかなと思って」


おそらく着たら三倍速く動ける気がする。ありがたくもらっておく。ちなみに、小太郎も猫用のアロハシャツをもらっている。俺とおそろいね……。


さて、大宮駐屯地の話をしよう。


沙羅は悪鬼にリベンジしたいらしい。なるほど、その気持ちはわかるけど、俺たちにはまだ早くない?


「無理はしないから。でも、戦いたい。じゃないと、前に進めない気がするの……」


沙羅にとって悪鬼はトラウマの対象。それを己の力でねじ伏せ克服したいのだろう。


まあ、なんとかなるだろう。氣を覚えたし、うさぎ師匠と修行した成果も出ている。今なら、悪鬼なら俺一人でも倒せると思う。


取りあえず、二泊三日で市内にホテルを取ることにした。夏休み中なので予約を取るのが難しいはずだが、そこは沙羅嬢のコネで簡単に取れた……。もちろん、小太郎同伴OKだ。ブルジュア万歳!


出発は明後日、なぜなら喫茶店ギルドに行って装備を送らないといけないからだ。ついでに、はにわくんに新装備を装備させよう。


「はにわくん、格好いいよ!」


「はにゃ~」


総ステンレス製の鎧を着けたはにわくんはピカピカだ。正直、光が反射して眩しい……。囮にはもってこいだ。


そして、俺は持つのも苦労する、クロムモリブデン鋼の六角棒をはにわくんは片手で持っている。魔改造バットと二刀流だ。もしかして、はにわくんって俺より強い?


だが、やはり重くて思うようには振り回せない。両手持ちにすると問題なく振れている。はにわくん、六角棒と魔改造バットを見つめ悩む。


「はにゃ~!」


悩んだ結果、魔改造バットを選んだ。六角棒はもう少し強くなってから使うらしい。


マスターギルド長に頼んで大宮駐屯地に俺たちの装備を送ってもらう手続きを済ませる。コネって凄いでですねと苦笑いしていた。やはり、簡単には行けないものらしい。


葛城さんはあれだけ豚になると騒いでいたのにもかかわらず、A5和牛のあまりの旨さに魅了され、


「豚になってもいい! プリーズ! A5和牛!」


知らんがな……。


当日、沙羅が家までお出迎え。新幹線ではなく、天水家の車で送迎してくれる。至れり尽くせりだ。


たんに、沙羅が小太郎を抱っこしていたいだけのような気もするが。


ホテルに荷物を置いて、大宮駐屯地に向かう。天水家の送迎はここまで、最終日の帰りにまた迎えに来てくれる。その間はタクシーでの移動になる。


「来たわね」


沙羅のお姉さんの紗耶香さんがお出迎え。いつもの戦闘服ではなく内勤用の制服姿だ。


ロッカールームに案内され着替えて外に出ると、


「本当について行かなくていいの?」


「大丈夫、あれから強くなってるから……」


「大丈夫ですよ。俺も強くなってなってますから。沙羅に傷一つ付けさせません!」


「あら、頼もしいナイト登場ね」


「う、うん!」


「にゃ~」


小太郎、お前のことじゃないからな!


「十六夜くん、少し変わったかな?」


「男子三日会わざれば刮目してみよです。このところ、いろいろなところで修業していたので、今日はその成果を出しますよ」


「へぇ、誰に修行つけてもらったのかしら?」


「この前の講習会の報酬で、貴子様の紹介で幽斎師匠に師事しました。弟子にはしてもらえませんでしたが」


「幽斎? まさか人斬りの河上彦一郎先生!?」


あの人、人斬りなのか……驚くより納得してしまう。


「また、凄い人に師事したわね……」


「姉さん。その人、そんなに凄い人なの?」


「引退したと聞いてるけど、現役当時は最強と言われた人ね。偏屈な方らしく、どんなに頼まれても弟子は取らないって聞いているわ」


強い人だとは思っていたけど、最強だったとは……。偏屈は合ってる。


「ねぇ、ねぇ、どんなことを教わったの? アキくん」


「刀の使い方と氣の使い方を触りだけ教わった」


「じゃあ、じゃあ、ばーん! って氣を飛ばせるの!」


無理です。


「沙羅、漫画じゃないんだから……」


いや、俺もそういうことができると期待はしてたんだけどね。残念。


「だとしても、触りとはいえ、達人から教わることができたことは羨ましいわ」


「私も氣を覚えた~い!」


「先生のお許しが出たらね」


沙羅は薙刀の先生から教わることができるそうだ。俺から見れば、ゆっくりじっくり教えてもらえるそっちのほうが羨ましいけどな。


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