75.世界平和のため……なのか?

 名残惜しいが、今日は帰る日だ。


 昨夜はうさぎ師匠に念入りにマッサージをしてくれたおかげで、すこぶる快調。


 朝食を食べ終わり、今はお土産を物色中。保冷バッグにドライアイスは万全。荷物引き用にカートも買ってきておいた。


 月読様は、砂金やら小判や著名な作者の掛け軸などを持っていけというが、もらっても困る代物ばかりだ。やっぱり、食べ物が一番だな。


 代わりに沙羅のお土産用に、沙羅が好きそうな甲陽軍鑑なる書物をもらった。月読様のお薦めとはいえ、二十三冊もあり嵩張る……。


 保冷バッグには主にA5和牛。空いたスペースにはソーセージを詰めた。段ボールには日本酒もちろん有名なお酒の純米大吟醸を選ぶ。クッション材代わりにチーズを詰める。


「ほんにいらぬのかえ?」


 いりません。金銀財宝はもらっても困ります。今回も日本刀はお預け。準備をしてきてないので捕まる。今度来るときはちゃんと用意してこよう。


「お世話になりました」


「にゃ~」


「うむ。また来るがよい」


 うさぎ師匠が手を振ってくれていると思ったら、月読神社の境内だ。


「さあ、帰るか」


「にゃ~」


 この時、俺は重大なミスを犯していることに気付いていなかった。ミスというよりドジなんだけど。そのことに気付くのはまだ先のこと……。




「あんた、旅行に行ったんじゃなかったのかい?」


「旅先でちょっとバイトを……」


 大家さんに苦しい言い訳だ……。そりゃそうだ、こんなお土産を見たら不審がるだろう普通。お酒類は部屋に隠してあるけど、それ以外でも相当な量だからな。みんなに配る分もあるから特にだ。


「まあ、いいさ。今夜は焼肉だね」


「わーい!」


「にゃ~」


 加奈ちゃんが小太郎を掲げてくるくる回り喜んでいる。今回は喜んでくれたようだ。お肉とソーセージはOK? チーズは渋すぎたかな?


 焼肉は旨かった。



 休み中に少し戦力強化をしようと思う。はにわくんのことだ。最近は俺のレベルが上がったせいか、最初の頃とは見違えるほどに強くなっている。


 はにわくんには攻撃役より、盾役になってほしい。はにわくんは再召喚すればやられたとしても元どおりに復活する。攻撃役は沙羅、盾役ははにわくん、遊撃サポートは俺と小太郎がいいのではないだろうか。


 そのためにもはにわくんの装備を造りたい。魔改造バットを持ち帰れるのだから、鎧なども持ち帰れるのではと思う。


 喫茶店ギルドにお土産を持っていくついでに、はにわくんを召喚して装備品について聞くと、


「はにゃ~!」


 と答えたので問題ないようだ。なのではにわくんの各部を採寸してメモ。後はあいつらに頼もう。


 ちなみにお土産をマスターギルド長と葛城さんに渡したらマスターギルド長は普通に喜び、葛城さんは、


「アキくんはそんなに私を豚にしたいのね!? キィー! 食べてやる! 食べて豚になてやるー!」


 知らんがな……。


 工学部の友人に連絡を入れると実家に帰らず、大学にいるそうなのではにわくんの装備のお願いをしに行く。


「お前はいったい何と戦っているんだ? いや、みなまでいうな。世界平和に裏で貢献できる名誉ある仕事だ。喜んでやろう」


 いや、世界平和なんて大それたことしてないからね。そっちの君たちも、なにをやる気を出しているのかな?


 まあ、やる気を出してくれるなら、それに越したことはない。取りあえず、依頼料として、A5和牛とソーセージ、純米大吟醸酒を引き渡す。


「マ、マジか……今夜は飲むぞ!」


「「「「おぉー!」」」」


 飲むのは構わないが、やることやってからにしてくれよ?


「三日後に来い」


 とのことなので、三日後に来た。


「出来てるぜ」


 胴体、腕。足の部分を総ステンレスSUS316L製で鎧を製作。総重量30kg。材料、加工費込みで七万円。


 図面を描いて、知り合いの板金屋に発注したそうだ。


 各部は金属の留め金と丈夫な革ベルトで留めるようになっている。なぜか頼んでいないのにバイキングヘルメットもある? なぜ 普通の兜ではなくバイキングヘルメットなんだ?


「趣味だ。剣も作るか?」


「いや……また今度で」


 剣の代わりにクロムモリブデン鋼の直径5cmの六角棒2mを渡される・40kg近くの重さだそうだ。これをどうしろと?


「破壊力は抜群だ」


 てかっ、持てんがな! まてよ、はにわくんなら持てるか? もらっておこう。


 気になることがあるのでその道のプロに聞いてみる。


 昔の剣と現代技術で作った剣はどちらが性能がいい?


 単純に材料の質の差で考えれば現在技術で作った剣のほうが性能がいいのは当たり前らしい。だが、職人の技量もなければ個性もない。もちろん込められた想いもない。


 昔の名刀、名剣と呼ばれるものには逆にそれがある。なぜかは不明だけど、現代技術で作ったものを凌駕するものも数多くあるという。


 魂が宿るということなのだろうか?


 逆に多くの技や製作方法が失伝していて、現代でそのような名刀、名剣を造れる者はいないと言っていいそうだ。


 そうなんだ。なんか、探究者シーカーに似ているな。


「世界平和のために、闇の組織を倒してこい!」


「お、おう……」


 総重量70kgの変身道具をリヤカーで引く、正義のヒーローって……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る