74.修行の成果

 よくわからないので、うさぎ師匠にお手本を見せてもらう。ある程度の氣を放出しているところから氣を断つまで過程を見せてもらう。


 正直、意味がなかった……。


 俺の想像では徐々に放出量を少なくして最終的に断つのだと思っていたのだが、実際は一瞬だった。小さくするのではなくスイッチのように切り替える感じのようだ。


 氣の放出をどんなに小さくしていっても断つことはできない。昨日の夜に薄く氣を纏う訓練したそれだ。断つことと小さくすることは別物だとわかった。


 わかったのはいいが、どうすればいいんだ? うさぎ師匠は両手を肩まで上げ首を傾げる。


「うむぅ。どうやるかと聞かれても、最初からできたゆえ……」


 うさぎ師匠もうんうんと頷く。そう、この方たちはいわゆる天才。凡人の俺とは違うということがよくわかった……。


 実戦で身につけさせることは得意だが、理論的に教えることが不得意。典型的な天才肌タイプだな。


 これは苦労しそうだ……しょうがない、かくれんぼを続けよう。実戦で覚えられるか試そうじゃないか。


 何度、繰り返してもすぐに見つかる。いろいろ試すがよくわからないまま、本日終了。


 身を清め夕食の準備。何にしようか迷ったがグラタンに決定。じゃがいもと魚介類を使って作った。パンも焼いたが、月読様はパンがお嫌いなので、ご飯で食べていた。ドリアにすればよかっただろうか? 皿に残ったホワイトソースを、パンにつけて食べるのは最高なんだけどな。


 露天風呂で体も心も癒やした後。うさぎ師匠と氣の訓練。今日はもう一つ訓練内容が増えた。


 それは、うさぎ師匠の氣に耐える訓練。氣に当てられ戦意喪失したことから強大な氣、殺気、威圧に耐えれるようになる訓練らしい。


 昨日の訓練もやり、結局終われば汗だく。冷や汗に始まり、罰ゲームでの転げまわりでの汗。風呂入って寝よう……。



 そんなこんなで、ここに来て十日が経った。氣功法、気配遮断のスキル、月彩の英気に月兎、月虹が増えている。これが今回の修行の成果だ。


 氣功法は氣の使いかたが上手になるらしい。あまり実感はない。剣術などと同じで異界アンダーワールド限定らしい。これも剣術と同じで頼りすぎるなと注意された。


 気配遮断はその名のとおり、気配を殺すスキル。氣功法を覚えたら一緒に覚えたスキルだ。注意が必要なのは気配を断てるが、体臭などのにおいまでは断てない。要するに、鼻の利く奴にはあまり意味がないそうだ。


 月兎はうさぎ師匠に初めて一撃を入れたら覚えた。それは、本当に偶然の出来事。組み手で疲れてふらふらになり転んだ時に、うさぎ師匠の頭に軽くチョップが入ってしまった……。うさぎ師匠、目をぱちくりと広げ驚いていたな。


 効果は、ちっちゃな兎が出てきて対象の相手に強力なキックをかまし、ノックバック攻撃をしてくれる。俺の眷属ではなく、うさぎ師匠の力の一部が具現化したものらしい。そういえば、なんとなくうさぎ師匠に似ている。


 このアビリティーの凄いところは、その攻撃力もさることながら相手を必ずノックバックさせることだ。うさぎ師匠でさえ万全の体勢にもかかわらず、仰け反り後ろに一歩下がらされたほどだ。これは使いようによっては大きな武器になる。


 そして、月虹。今回与えられ三つの課題の一つの答え。それは、敵わないほどの強敵に出会っても確実に逃げられる術。敵わないほどの強敵に確実に出会わない術も半分クリアはしてるけど、月虹は月読様が驚くほどの完璧なアビリティーだった。


 効果は瞬間移動。そうテレポーテーション、ラノベなのだと転移ってやつだ。知らない場所へは無理だが、曖昧ではなくよく知った場所に転移できる。短距離も可だ。だが、これは慣れが必要だ。とっさに発動させるのが非常に難しい。要訓練だ。


 それと、馬鹿みたいに理力を使う。俺の地の理力だと一キロメートルくらいが限界。そこで、月読様のお目こぼしがあり、この月虹も月読様が理力を肩代わりしてくれることになった。宝の持ち腐れだからだそうだ。そのとおりでなにも言えない……。


 取りあえず、目的は達したので明日帰ることにした。今日はショッピングセンターへの買い出しに出る。その場で奉納もできるので気にせず買い物ができる。人目と監視カメラに注意が必要だけど。


 月読様からはお菓子とアイスを大量に買ってくるように言われ、うさぎ師匠からは調味料を買ってきてほしいとジェスチャーで告げられた。


 ATMでお金をおろさないと駄目だな……。


 前に行ったペットショップで猫用と兎用のカリカリの特大を二袋ずづと、小太郎のご両親ように高級猫缶を買いカートに乗せ、一度駐車場に行き車の陰で奉納する。便利だ。


 お菓子と調味料を買い段ボールに詰め、同じように奉納。アイスは業務用の特大ものを十種類買い保冷バッグにドライアイスと一緒に詰め奉納。


 それを何度か繰り返す。レジで変な目で見られたのはお約束だ。いやぁ、よく買ったね。買った本人が驚く量だ。レシートが一メーターを超えた時もあったからな。



「ようやった、聖臣。褒めて遣わす!」


 特大アイスに囲まれて月読様はご満悦だ。


 夕食は海老とマッシュルームのアヒージョとヒレカツとエビフライ。俺は天ぷらを揚げて、高級ネタによる天丼にしてみた。果たして伊勢海老を天ぷらにしたのは正解なのだろうか? 食べるのが楽しみだ。


 アヒージョはビールにもワインにもあう。マッシュルームも旨い。


 月読様はエビフライとタルタルソースをえらく気に入ったようで、タルタルソースを神のソースと命名していたくらいだ。マヨ偉大。


 そして、伊勢海老の天ぷら……最高です! 旨いものはどんな調理をしても旨いんだな。ほかのネタも申し分なかった。


「聖臣。おかわりを所望する!」


 はいはい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る