70.ヒエラルキー
「よく来た、聖臣。息災でなにより。少しばかり力をつけたかえ? おうおう、小太郎もよく戻った。ほんに小太郎は愛い奴よ」
「また、修行のほど、よろしくお願いします」
「ふむ。厳しい修行ゆえ、しっかりと励むがよい」
事前に奉納品と共に手紙を送っていた。次の日、机の上に高級アイスと思われ絵がたくさん描かれた紙が載っていた……まあ、そういうことなのだろう。
「聖臣。ほれ、ほれ。はよう、はよう!」
月読神社に来る前に近くのショッピングモールに寄って、賄賂……もとい、奉納品の高級アイスを大量に買ってきている。溶けないように保冷バッグを買い、ドライアイスをたくさん入れてもらっている。
さて、ここで月読様に渡してよいものなのか迷う。渡したら最後。際限なく食べ続け一日でなくなり、明日も買いに行かされる姿が思い浮かぶ。
ちょうど、うさぎ師匠がやってきたので、うさぎ師匠に渡そう。
「な、なぜ!? は、謀ったな! 聖臣!」
いやいや、何も謀ってませんて。たんに、ヒエラルキー的にうさぎ師匠のほうが上のような気がしただけです。
うさぎ師匠、グッジョブとサムズアップ。正解だったらしい。
「おのれぇ、聖臣ぃ~。寝返ったな~」
寝返るとかいう問題なのか? 日頃、この二人はなにを争っているんだ? お菓子なのか!? お菓子の争奪戦を繰り広げているんだな! 勝率はうさぎ師匠が上と見た。
地面にのの字を書いてる月読様の気を逸らすため、桶にお湯を入れて持ってきた。その桶の中に大量のドライアイスを投入。ぶくぶくと白い煙が湧き上がる。
「な、何事! 聖臣、面妖な術を使いおって、何をするつもりかえ!」
小太郎がその煙に飛び込み遊びだすと、周りにいた猫たちも煙で遊びだす。兎さんたちは逆に怖がってか、近寄ってこない。
「面妖な術ではなく、ちょっとした科学の実験。ただのお遊びですよ。面白いでしょう?」
よく勘違いしてる人が多いけど、ドライアイスを水やお湯に入れて出る白い煙は水蒸気で二酸化炭素ではない。だから煙の中に入って吸っても問題ない。密室でこれをやると二酸化炭素濃度が上がて酸欠になる恐れがあるけど、外でやる分にはよほどのことがない限り安全。なので、小太郎たちが白い煙の中に入って遊んでもいる姿を微笑ましく見る。
「下界の者は面白いことを考えるものよ」
月読様が煙を手で仰ぐと小太郎たちが顔を出し、にゃ~と鳴く。見ていて飽きない。そうしていると、うさぎ師匠がお茶の用意ができたと呼びにきた。
当分、ここで修業するつもりなので、小太郎はご両親の所に行って、存分に甘えてきなさい。
「にゃ~」
うさぎ師匠が用意してくれたお茶と羊羹が美味い。某有名和菓子屋の奉納品らしい。こういったお菓子は豊富にあるのに、ジャンクフード的なお菓子がいいなんて、なんて贅沢なんだ!
「この新しい味のポテチは美味よのう~」
寝っ転がりながら新発売のポテチを食べる月読様。まったく神としての威厳がない……。
「その目はなんぞえ。それより。少しばかり力を付けたようだが、詳しく聞かせよ」
「見ていたんじゃないんですか?」
「これでも神ぞ。そんな暇ではないわ!」
本当かぁ? 神様には違いはないが、忙しそうには見えない。それに、お菓子などを奉納すると一瞬の間もおかずに消える。見ていないとできない仕業だと思う。特に横浜中華街での出来事はその主たるものだ。呪いの声まで聞こえたし。
「その目は信じておらぬな? 夜之食国を統治しておるゆえ、忙しいに決まっておろう。どれだけ、苦労しておると……ぶつぶつ……」
「でも、目の前でお菓子を食べていますよね?」
「こうしておる間にも、いくつもの仕事をこなしておる!」
多重思考とか分体とかなのだろうか? 未知の領域で想像がつかない。さすがは神様。……ということにしておこう。
ということなので、幽斎師匠と風老師との出来事を語った。
「氣を譲られたか……それで力がついたか。氣は一朝一夕で達人の域に達するものではない。長い年月、修練してその域に達する。弟子でもない聖臣に、己の生きた証を渡すとは奇特な者よ。されど、感謝しその縁大事にするがよい」
コクコクとうさぎ師匠が頷いている。ということは、そういうことなのだろう。
「聖臣。そなた、この月読を尊敬しておらぬであろう!」
「そんなことはありません! 海より深~く尊敬の念を抱いております。されどこの聖臣、俗人なれば食事を給する者が上位者と心得、体が勝手に反応した次第。どうか、平に、平にご容赦を」
コクコクとうさぎ師匠が頷きサムズアップ。月読様の前に移動したかと思うと、ふんぞり返っています。
「お・の・れぇ、あ・き・お・みぃ~」
ぽんぽんと肩を叩かれ振り返れば、うさぎ師匠が着替えとタオル類を渡してくる。まあ、風呂にでも入って疲れを癒せってこと? なんか、待遇が変わった!?
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