69.氣の継承

ハオ


 無表情だった風老師の顔が好々爺の表情に変わった。


「林坊たちはよい弟を持ったな。この老体の力でよければ授けよう」


 どうやら合格を頂けたようだ。これでジミーたちの顔を潰さずに済む。


 だが、どこに合格の答えがあったのかは謎。さっきの質問の回答はいただけないようだな。


 使用人さんが用意したお茶を飲んでから、地面に座り目を閉じ座禅を組む。後ろに風老師が立っているのがわかる。


 しばらくすると、目を閉じているのにぐるぐると目が回り始め、立っているのか座っているのかわからなくなるような浮遊感に襲われる。そして、体全身にに真っ赤に熱した鉄杭を刺されたような痛みに襲われ、意識を手放した……。


 頬をざらざらとしたものが上下する。目を開ければ小太郎の顔のドアップ。舐められるのは嬉しいのだけど、猫の舌で舐めれると地味に痛いんだよね。そんな小太郎を抱き上げ起き上がる。風老師は屋敷の中でお茶を飲んでいる。俺もそこに行く。


「その力。林坊たちの誰かに渡そうと思っておった。しかし、林坊たちは人としては未熟だが、武に関してはみな傑物揃い。この老体の力などなくとも己の力で儂以上の力を身につけよう。正直、あの世に一緒に持っていくにはもったいないと思っておった」


 なんか、風老師が一回り小さくなったように感じるのは気のせいか? さっきまでの風老師とは大違いだ。歳相応になったというべきか?


「坊の中にあった力を消し、儂の力をすべて与えた。与えたが使いこなすは困難であろう。精進しなされ。さて、少し疲れた。休ませてもらおうか」


 使用人の方が風老師を抱えるように奥に連れて行く。その姿を立ち上がり礼をして見送る。


「ありがとうございました」


 風老師は片手を上げて答えてくれた。風老師が体調を崩したのに対して、俺はすこぶる調子がいい。体中に氣が満ちている感じだ……ん? 感じ、じゃなくて本当に満ちているな。体も軽い。これが風老師が言っていた力?


 使用人の方が門まで案内してくれ外に出た。屋敷に向かって一礼して歩き出す。夜にでも今日の出来事をジミーに話をしよう。


 でも、その前にせっかく横浜中華街に来たんだから、食べ歩くぞ!


「にゃ~」


『月読にも忘れるなかれ~』


 なにか呪いの声が聞こえたような気が……。


 小太郎がいるのでお店の中で食べることはできなかったけど、店先や屋台でも十分に堪能できた。


 冗談半分でスイーツを月読様に奉納と手に乗せ捧げると、消えた時には肝が冷えた。誰にも見られていなかったのでよかった。奉納はどこでもできるようだな。奉納する時は気を付けてやろう。


 お土産は朝食べた中華まんが主。沙羅には定番の月餅が無難だろう。中華まんを食べてる姿が思い描けない……。加奈ちゃん用に可愛いパンダのお饅頭。大きな紙袋に入った甘栗は月読様用だ。指先を真っ黒にして食べてる姿が目に浮かぶ。一応、皮むき器付だ。


 帰りに喫茶店ギルドに寄ってお土産を置いていく。マスターギルド長は普通に喜んでくれたのに、葛城さんは


「ちゅ、中華まん!? あきくんは私に太ったブタになれっていうのね!」


 いらないなら、返してください……。


「いやよ! コタちゃんと旅行を楽しんでる奴なんかに返さないわよ! 食ってやる。食ってブタになってやるんだから!」


 葛城さんだいぶお疲れのようだ。マスターギルド長、ちゃんとお休み与えてるんですか? ブラックは駄目、絶対!


 大家さんは中華まんを喜んでくれたが、加奈ちゃんが……可愛いパンダ饅頭に見向きもせず、甘栗を食べている。思考が渋すぎません? 仕方ないので俺の分の甘栗をあげた。パンダ饅頭……沙羅にあげるか?


 その夜、ジミーに電話してことの顛末を話して聞かせると驚いていた。何に驚いているのかわからないが、今度、一度会って詳しく話を聞かせろということになった。夏休みが近いのでどうかと言ったら、ジミーたちが忙しいらしいく、秋頃に会おうということになり電話を切った。



 次の日、大学での昼食時に沙羅に月餅とパンダ饅頭を渡した。パンダ饅頭を見た沙羅は小太郎を抱きながら身悶えしている。


「可愛いぃ……食べるのがかわいそう」


 加奈ちゃんからこれを聞きたかった……。まあ、沙羅でもいいんだけどね。美人はどんなことをしても絵になる。


 来週から大学は夏休みに入る。沙羅に予定を聞くと、前半は軽井沢の別荘に家族で避暑に行くそうだ。お嬢様ですね。別荘かぁ。


 それ以外は予定はまだ入っていないそうなので、時間が合えば異界アンダーワールドに行こうということになった


 俺はどうしようか? 異界アンダーワールドに行ってレベル上げや修行もいいが、せっかくの長い休みなので俺も別荘に行くか。そう、月読様の所に行こう。修行もできて、上手いものも食べれる、最高の別荘があるじゃないか!


 日頃、貢物を奉納しているんだからいいよな?


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