68.風老師

 帰りに途中下車して有名なシュウマイをお土産に買って帰る。冷凍ものは売っていないので、早めに配って食べてもらうしかないな。


 まあ、鎌倉で有名な鳥のサブレーも買って来た。東京駅でも買えるんだけどね。本場ものってことで。


 加奈ちゃんはシュウマイよりサブレー派だった……。買ってきておいて正解だったな。


 沙羅には両方渡した。喜んでくれたが出来合いのシュウマイなんて食べるのだろうか?


 マスターギルド長と葛城さんにはシュウマイを渡した。思った以上に葛城さんが喜んでいた。


「女の一人暮らしは。ねぇ……ブツブツ」


 聞かなかったことにしよう


 そんなある日、台湾のジミーから連絡が入る。


 日本に住む逍遥派の老師が会ってくれるという。風老師というそうで、ジミーの祖父の師匠らしい。


 もうすぐ夏休みなので沙羅も忙しく、当分探究者シーカーはお休みになった。これで心おきなく行ってこれるな。お土産を期待してると言われたが……。


 今度は横浜。近くていいな。土曜の早朝に出発。電車を乗り継いでも二時間かからず目的地の横浜中華街に着いた。


 まだ、朝だというのに街は賑わいを見せている。朝飯代わりに中華まんを食べたが、俺も小太郎も満足な美味しさだった。お土産候補だな。


 メールに書かれた住所に行くと、そこは異国情緒あふれた場所。本当に日本にいるのかわからなくなりそうな場所だ。


 そんな一画の大きな屋敷の門をくぐり、使用人らしき人に風老師への取次ぎを頼む。


 外に面した居間のような場所の椅子に座り、待つようにいわれたのでおとなしく座って待つ。


 武侠映画などで客人と話をするための場所と同じ造りだ。椅子が四つに小テーブルが椅子と椅子の間にある。


 そういえば、挨拶の仕方なんか知らないし礼儀作法も知らない。ヤバい、だんだん不安になってきた。ちょっとジミーに電話して聞いてみよう。なんて思っていたら、高齢のご老人が現れた。間に合わず……。


 立ち上り頭を下げて挨拶しようとした時に、


「まあ、固くならずに。さあ、お座りなさい」


 と言われる。恐縮です。


 使用人さんがお茶を用意してくれたが、飲んでいいのかわからない。困った。


「自由奔放な坊どもの兄弟と聞いていたが、どうやら性格は違うようだ。作法など気にせずお飲みなさい」


「にゃ~」


 こら、小太郎、お前に言ったんじゃないぞ。小太郎がキャリーバッグから飛び出して、老師の前にお座りする。


ハオ。元気な子だな」


 風老師が小太郎を抱き上げ、膝の上で撫でる。


「ふむ。この坊、この世の者ではないな」


「わかるのですか?」


「万物に氣は宿る。怪異モンスターとて同じ。されど、その者からは清廉な氣を感じる。罔両もうりょうの類ではあるまい」


 なるほど、わかる人にはわかるんだ。この風老師は貴子様とは違って氣を感じ本質を知るのだろう。氣とは奥が深いな。


「さて、時間は無限ではない。まずはそなたの内なる力をみようか」


 内なる力? 氣のことかな? まだ始めたばかりだからたいしたことはないのだけど。


 外に出て風老師の前に立つ。


「かかって来なさい。手加減は無用」


 風老師は強い。身に纏う氣、威圧、風格すべてが幽斎師匠をを上回っている。大海と言うにふさわしい佇まい。幽斎師匠が灘なら風老師は凪。動と静、まったく正反対だ。


 ならば、胸を借りよう。月読流体術、どこまで通用するか試させてもらおう。なんて、思っていたことが俺にもありました。


 実際は手も足も出なかった……。


 月読流体術はどちらかというと打撃主流で補助に柔術って感じ。中国拳法に似ているところがある。少しはやれるか? なんて仕掛けたが風老師、ご老体と思えない動きで片腕一本であしらわれた。正直、唖然。


「これは破掌式という技だ」


 次は武器を使っての手合わせ。持て来ていた怪異モンスターから奪った模造刀の耐久値ゼロ、所謂本当の模造刀で立ち会う。老師は木製の直剣。


 始めてみれば、遊ばれているのがわかる……。すべて直剣であしらわれる。どちらかというと、あえて直剣で受けているようにも見える。意図は理解できないが。


 悔しい。本当に何もできない。せっかくジミーに紹介されたのに、これではなにもないまま終わりそうだ。このまま終わるにしても、なにか残して帰りたい。じゃないとジミーたち義兄弟に会わせる顔がない。


 足掻いてみせる。一寸の虫にも五分の魂! 足掻くと決めた以上やれることをやってみる。


 模造刀に氣を纏わせ攻撃。風老師の眉がピクっと動くか全然相手になっていない。


 ならば、こいつでどうだ。宵月! 体の動きが自分でもわかるほどよくなり手数が増える。風老師の眉がピクピクっと動くか、結局、手も足も頭も出ずに終った。


「破刀式と言う」


 完敗です……。


「では、坊に問う。坊にとって防御とは?」


 俺の攻撃は一撃必殺を旨とする。


「攻撃こそ最大の防御」


 答えが風老師の意に叶っているのかは、その表情からは読み取れない。


「武器とななんだ?」


「手の延長」


「ならば、なんでもよいのか?」


「その道を極めれば、道端に落ちている枝でさえ殺傷力のある武器となるでしょう。私はその域の端にも達していませんが」


 無表情だ。全然、感情が読み取れない。俺は格好いいことを言っているが、どこかで読んだことのあることを自分流に言っているだけ。正直、言っていて恥ずかしい。


「「技、型とはなんだ?」


「その道の指標であり道標」


「道を極めれば不要か?」


「無こそ最強だと考えます」


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