65.天空海闊
「アビリティーだぁ! なんでここで使えんだよ!」
「なんでと聞かれても……さあ?」
「お前、もしかして実は凄い奴なのか? そういやぁ、貴子様の紹介だったな……」
俺が凄いのではなく、間違いなく月読様が凄いのだ。
「そのアビリティー禁止な。続き始めろ」
Oh……なんてこったい。だが、この効果が切れるまで後一分ちょいはある。感覚を掴むのにもこのままやろう。
「だから、使うなって言ってんだろう!」
「効果が切れるまではこのままです」
「効果時間付かよ。いいアビリティー持ってやがるぜ……」
何度か効果があるうちに巻き藁を斬ることができた。効果が切れると、体が一瞬重く感じる。
よし、ここからが本番だ。さっきまでの感覚を思い出しつつ、刀を振るう。数回振るうちに、先ほどではないが紙を斬ったような感覚で斬れるようになってきた。
斬り口を見ても幽斎師匠とほぼ同じになっている。
「マジかよ……数時間で身に着けやがった」
どうやら、合格のようだ。
「今日はここまでだ。風呂、入ってこい」
「うぃーす」
奥様に案内され風呂場に行くと、総檜風呂。凄く香りがよくリラックスできる。
月読様の所でもらった作務衣を着て縁側に行くと、幽斎師匠がさっきまで俺が使っていた刀の手入れをしてくれていた。
「使い捨てといっても命を預けるんだ、手入れはしてやるべきだ」
刀の手入れの仕方を教わりながら、質問してみる。
「刀は人を斬ると斬れ味が落ちると言いますが、どうなんでしょう?」
「そりゃ落ちるのは当たり前だ。人を斬れば刃は脂だらけだ。包丁と同じだ」
なるほど、そういえば料理人はよく包丁を布巾で拭いてるな。そういう意味があったのか。
「だが、
そういえばそうだ。
「耐久性はどうですか?」
「刀は縦方向は恐ろしく頑丈だ。反面、横っ
「鉄が斬れるなら鎧も斬れるのでは?」
「アホか。刀で斬られないための鎧だ!」
斬れないけど貫くことは可能だそうだ。まあ、それも相当な腕前にならないと無理らしい。素人がやれば間違いなく刀が折れるそうだ。
「言っておくが、
「十六夜はスキルは覚えているのか?」
「格闘と剣術は覚えました」
「刀は我流か?」
「ほぼ我流です。影目録と新陰流兵法目録事を参考に型は練習してます」
「どこか様になってたのはそういうことか。そのまま続けろ」
幽斎師匠が何か考え込む。
「最低限の基礎はあるってことか……なら、明日からは氣についてだな」
「あれですね。掌からエネルギー弾が出るやつですね!」
「んなことできるかー!」
使っていないほうの刀も習いながら手入れする。刀の手入れの道具を一式もらえた。
「こいつら目釘が一つしかねぇ。本気で使うなら二つ穴にしたほうがいいんだが……使い捨てとなるとなぁ」
沙羅の祖父もそんなことを言っていたな。
「一つだと駄目なんですか?」
「駄目ってわけじゃねぇ。目釘に力が掛かって折れたときに、刀身が柄からすぽっと抜ける」
なるほど、よく見ると柄の所につっかえ棒的に刺さってる。確かに一ヵ所しかない。この一ヵ所で柄と刀身を押えているのか。
「二つ穴にするのにいくらくらいかかりますか?」
「ピンキリだな。開けるだけなら誰でもできる。格好は悪くなるが、柄にも穴を開けて目釘を刺せばいいだけだ」
「うーん。今はいいかな。もっといい刀が手に入ったら考えます」
使い捨ての武器にお金を使うのはもったいないし、そんな余裕は俺にはない。壊れてもいいように予備の武器を持って行くくらいだ。
そんな話をしていると夕食の用意ができたと奥様が呼びに来た。
居間に行くと妙齢の女性二人が食事の準備をしている。座卓のそばには以蔵くんと小太郎がお座りしている。俺を見た小太郎が足元に着てスリスリしてきたので、抱き上げる。
奥様に促され席に着き、尋ねてみた。
「お嬢さんですか?」
「ほほほ……十六夜くんからはそう見えるのね」
なんだ違うのか? 奥様は含み笑いを見せている。
「うっ、おっほん……」
「彼女たちはこの人のお妾さんよ。英雄色を好むと言うけど、困ったものだわ。ほほほ……」
お妾さん……愛人か!?
「ま、まあ、そういうことだ……」
何がそういうことなのかわからないが、笑って許している奥様はなんとも
幽斎師匠には三人お子さんがいるそうだが、誰も
幽斎師匠はムスッとした顔をしているから、同じ道を進んでほしかったのかもしれないな。
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