63.河上彦一郎

 月曜日にマスターギルド長から呼び出しが入ったので、授業が終わった夕方喫茶店ギルドに向かった。


 特異室の貴子様から連絡が入ったようだ。刀について教えてくれえる人を紹介してくれるらしい。


 一度会って話を聞いてくれ、上手くいけば指導していただけるという内容。一も二もなく了承。


 翌日、沙羅に当分の間修行するので探究者シーカーは休むと告げると、沙羅も薙刀の師匠の下で修業すると言っている。お互いに更なるレベルアップ目指して頑張ろう!


 場所は鎌倉。ちょっとした小旅行だ。朝ごはんに有名なシュウマイ弁当を食べたが、噂に違わず旨かった。帰りに加奈ちゃんのお土産に買っていこう。


 鎌倉に着く。季節は夏なのでみなさんサマースタイル。暑いね……。観光客もいっぱいだ。俺も観光で来てみたい。帰りに観光でもと考えるが、自分の荷物を見て諦める。


 旅行鞄に小太郎の入ったキャリーバッグ、そして喫茶店ギルドから借りてきた刀が二本入ったジュラルミンケースを持ている。


 さすがにこの格好で観光は無理。お巡りさんに職質を受けるのが目に見えている。実際に東京駅で職質された……。探究者シーカーの証明書を見せてすぐに開放してもらえたけど。


 メモに書いてきた住所にタクシーで向かうと、山の中腹にある大きな敷地に古風な日本家屋だ。


 呼び鈴がないので門をくぐり玄関前に行くと、豆柴が走って来てじゃれついて来る。可愛いな。しばし、モフモフしてると、


「どちら様?」


 玄関が開き初老の女性が顔を出す。


「十六夜と言います。河上彦一郎さんはご在宅でしょうか?」


「十六夜君ね。話は聞いてるわ。さあ、上がってちょうだい。以蔵ちゃん、あの人を呼んできて」


「わふ」


 豆柴の以蔵くんが走って行く。理解できたのだろうか?


 広い座敷に通され正座して待っていると、作務衣に日本手ぬぐいを頭に巻いた壮年の男性が豆柴を抱いて現れた。


「よく来たな。貴子様から話は聞いてる。まあ、せっかっく来たんだ遊んでいけや」


 河上彦一郎。今は幽斎と名乗っている。御年六十三歳。六十過ぎには全く見えない。探究者シーカーを引退したが、現役含めて最強の剣士らしい。マスターギルド長談。


 ひょろとしたやせ型 強そうには見えないが、探究者シーカー時代は凶人 ハウンド 死神などという二つ名で呼ばれていたらしい。


 玄関で会った女性は奥様。お茶とお菓子を出してくれ、今は小太郎の入ったキャリーバッグを覗き興味を示している。


「子猫ちゃん?」


 小太郎を出してやり、


「俺のマギです」


「にゃ~」


「ほう」


「可愛いわね」


 幽斎さんは目を細め小太郎を見る。小太郎を奥様に抱かせると豆柴の以蔵くんも寄って来て、クンクンと小太郎に興味津々。


「お前、本気で刀で戦う気か? やめとけ。金の無駄だ。刀を使う奴は頭のイカレた奴か金持ちのどっちかだ。お前は金持ちに見えないから頭のイカレたほうか?」


 と言われても、どちらでもない。貧乏だし、頭もイカレていない普通の一般ぴ~ぽぉ~だ。


 ジュラルミンケースの鍵を開け、幽斎さんの目に置く。工業刀と興亜一心刀だ。


 幽斎さんが胸元から懐紙を出し口にはさみ、刀を鞘から抜き二本とも眺め、また元に戻す。


「軍刀だな。たいした刀じゃねぇな。いくらで買った?」


怪異モンスターから奪った刀です」


「!?」



 ☆



「なるほどな。それで刀を習いたいと」


 幽斎さんに武器を奪うに至るまでの経緯を話して聞かせる。


探究者シーカーなら必ず一度は試すことだが、そんなやり方があったとはな……」


 小太郎は豆柴の以蔵くんと仲良くなったようでじゃれあっており、それを奥様が微笑ましく見守っている。


「刀はなあ、武器としてはいまいちだ。効率よく戦うなら、槍や薙刀を使い予備に小太刀を持つのが一番理にかなっている」


 沙羅の戦い方だな。小太刀を使ているところはほとんど見ないが……。


「戦国時代の刀は飾りだ。いわばステータスだな。実際に実戦の武器として使われたのは江戸時代以降だ。理由はわかるな?」


 鎧を着ての戦いがなくなったからだな。鎧を身に着けていなければ、刀は驚異の一言だ。


「居合か剣道の経験は?」


「高校の授業でやったくらいです」


「俺の先祖に腕は立つが屑野郎な人斬りがいた。そいつが調子に乗って腕試しに異界アンダーワールドに行ったそうだ。どうなったと思う?」


 強かったのでは?


「ぼこぼこにされ、逃げ帰ってきた。なぜだと思う?」


「相手が怪異モンスターだったから?」


「そういうことだ。人を斬るための剣術なんてもんは、何の役にも立たねぇ。根本的に違うんだよ」


「だからこそ、あなたの戦う技がほしいんです」


「ふむ……いいだろう。ちょっとばかし教えてやる」



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