49.ななみ呪面幽鬼

 異界アンダーワールドからこちらに来る怪異モンスターはそれなりの強さを持つらしく、間違いなく俺や沙羅では相手にならない。


 お弁当を急いで食べ、怪異モンスターの追跡に入る。なんとか目視できる所まで追いついた。


「捕獲するんですか?」


「いや、無理そうだ」


 花音さんがスマホを見るが圏外。俺のリュックから衛星電話を取り出して電話を掛ける。応援要請だ。GPSで緯度経度を調べ伝えている。


「一当する。それで駄目だとわかったら撤退だ」


 花音さんが武器が使える場所に先回りして迎え撃つ。俺たちは少し離れた高台からクロスボウで攻撃。花音さんがヘイトを稼いでいる間に、ある程度ボルトを打ち込んだら花音さんが攻撃。後は逃げる準備をして様子をみる。


 場所を移動して、木に隠れて怪異モンスターが射程に入るのを待つ。いつでも撃てる状態だ。怪異モンスターは花音さんを感知したようでゆっくりと花音さんのほうに近づいていく。


 沙羅は用意していたwebカメラを帽子に取付け、撮影開始。体長二メートルぐらいの細身で能面のような仮面と裾を引きずるほどの黒い外套を身に纏っている。


 怪異モンスターの中には、稀に友好的な者もいるというが、この怪異モンスターは友好的にはまったく見えないな。逆に不気味すぎる。


「不気味ね」


 沙羅も同じ意見のようだな。


 あの怪異モンスター、足場の悪い沢なのにまったく気にした様子がなく、淡々と進んで行く。そもそも足があるのかさえ怪しい。俺たちの前をゆっくりと通り過ぎるが、俺たちに気付いた様子はない。あるいは、気付いていても、相手にすらならないと無視しているかだ。


 クロスボウを構えスコープを覗き相手を確認。俺は足、沙羅は頭を狙うようにハンドサインを出す。ハンドサインというより、指差しただけなんだけど。そして、二射目は二人とも胴体を狙うと確認し沙羅が頷く。


 指を立て、指を一本ずつ折る。三本目でクロスボウを構えて心の中で数える。二、一、発射!


 ボルトが狙いどおりの場所に当たるが、沙羅のボルトが弾かれた。俺のボルトは足辺りの外套に刺さるが、血などは出ていない。


 怪異モンスターは何事もないように花音さんに向かって行く。


 二射目のボルトを番え発射。胴体に深々と刺さるが怪異モンスターはまったく意に介した様子はない。もしかして、物理無効なのか?


 仕方がない、残月を使ってみるか。たいした情報を得られないと思うがやるだけやってみよう。


 〇ななみ呪面幽鬼 多くの恨み、妬み、辛み、嫉み、嫌み、僻み、やっかみが宿るお面が時を重ね呪いに昇華し実体化した幽鬼。その昔、阿闍梨が命と引き換えに浄化したと言い伝えが残るが、真偽は不明。


 意外と詳しく出たな。命と引き換えにしないと倒せないのか? それも阿闍梨って偉いお坊さんのことだよな? 某国民的ゲームの使わない呪文ナンバーワンの自己犠牲攻撃呪文を使えと!? そんなの知らねぇし……知ってても使う気ねぇし!


 とはいえ、お面に宿るってことはそこが弱点じゃないのか? 沙羅が放ったボルトが弾かれるくらい、防御力が高いことから十分に考えられる。


 このクロスボウが効かない以上、俺たちにはもうなす術がない。幽鬼は花音さんの攻撃範囲に入り、花音さんの攻撃が始まっている。鑑定内容を花音さんに告げるべきだろうか? 鑑定のことはほかの人に知られたくないんだよなぁ。それに、あの中に割って入る勇気もない。


「全然、ダメージが入っているようには見えないね」


 沙羅の言うとおりだ。布にボールをぶつけているように、衝撃が逃がされているように見える。打撃耐性が高いのかも。ああいうのは斬撃のほうがいいのかも。相性が悪いのかもな。何とかあのお面のことを伝えることができれば、今の状況を打開できるかもしれないのだが……。


「にゃ~」


 小太郎と目が合う。


 なるほど。やってみる価値はあるかもな。少々危険だがやるしかない。小太郎を肩に乗せ、クロスボウも撃てる準備もしておく。隙があれば近距離であのお面を狙ってみるつもりだ。


 沙羅に考えがあるので、危険だがやってみると話す。


「頑張ってね」


 そう言って、小太郎を俺から奪い抱っこする。


「にゃ……」


 悪いけど小太郎がメインの作戦なんですけど……。えぇー、なんでぇーという顔で見られるが、渋々小太郎を渡してくれた。


 よし。小太郎、行くぞ!


 小太郎を肩に乗せ走る。走っている間に小太郎が幽鬼を穴に落とした。ナイス!


「花音さん。おそらくそいつの弱点はお面だ!」


「分かった。あとで理由を聞くからな!」


 理由はなんとなく……直感だ! ってことにしよう。


 穴をのぞけば幽鬼が這い上がって来ている。


 持っているクロスボウと偃月で幽鬼のお面を攻撃。耳をつんざく叫び声が衝撃波と共に俺と小太郎を襲う。その衝撃波をまともに喰らい宙を舞い地面に叩きつけられる。


「ぐはっ…」


 背中に激痛が走り、声にならない呻き声が出る。ふ、風月。幾分か痛みが和らぐがまだ立つことができない。小太郎は無事のようで俺の頬をペロペロ舐めて心配してくれている。


「十六夜。そこでじっとしてろ!私がけりをつける!」


 お任せです……痛くて動きたくても動けません。



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