50.決着

「十六夜くん!」


 沙羅が吹き飛ばされた俺を見て助けに来た。が、最初に小太郎を抱っこするのはどうかと思うよ……。


 何度か風月を使うと立てるようになった。


 花音さんを見ると這い出ようとする幽鬼を押し止めるのに精一杯。そこに小太郎が掘った穴に土を戻せば、幽鬼が胸の辺りまで土に埋まり身動きできなくなる。小太郎ナイスアシストだ!


「にゃ~」


 そこから始まる花音さんの猛攻撃。幽鬼、叫び声の衝撃波を放つが、花音さんはことごとく躱しているようだ。凄い戦闘センス、あるいは経験からくるものなのか?


 だとしても凄い。だが、押してはいるが決定打に欠ける。これが異界アンダーワールドとの差なんだろう。しょうがない、もうひと押し手を貸そう。


「小太郎!」


「にゃ~」


 幽鬼の頭が炎に包まれお面にひびが入る。そこを見逃さず、花音の流星錘がクリーンヒット! 幽鬼のお面が砕け黒い煙とつんざくような断末魔の叫び声が上がる。


 痛む体で穴の中を覗けばは砕けたお面の欠片が残っている。さすがに触る気がしないので放置。


 遠くからヘリの音が聞こえてくる。自衛隊の救難用のヘリコプターだ。着陸できないのでロープで隊員が降りて来た。


 花音さんと数名の隊員が話をして、現場確認をしている。その間に花音さんと話をしていた隊員さんの一人が俺の元に来て、要救助者として連れて行こうとされる。いや、大丈夫ですから、ピンピンですから! なんとか説得して離してもらう。


 この場は自衛隊に引き継ぐことになり俺たちは下山。沙羅はwebカメラを自衛隊に没収されブーブー言いながら山を下りている。てっきりギルドから渡されたものとばかり思っていたが、個人のものだったようだ……なにやってんよ、沙羅さん!


 山を下りると猟友会の人から連絡があり、解体した熊肉を分けてもらえた。花音さんはいらないそうなので俺と沙羅で分けた。大家さんにお土産だ。焼肉に鍋楽しみだ。


 喫茶店ギルドに戻り報告。今回は頑張ったので報酬が期待できるそうだ。なのに、沙羅は何もしてないからと辞退。熊肉だけで十分と言う。


 熊肉と聞いてマスターギルド長が欲しがったので、少し分けてあげた。


 花音さんに小太郎ことを詳しく説明。小太郎の大活躍を聞き葛城さんが小太郎をなでなで、マスターはカリカリを出して褒める。


「にゃ~」


「外に出れるマギねぇ……。よし、今回の礼に少し鍛えてやる」


 へっ? 誰も頼んでませんが? マスターギルド長も葛城さんも苦笑いで何も言わない。行けということですね。


 強制的に来週の土日は奉仕活動に参加となった。沙羅は日曜日が駄目なので不参加。意外と残念そうにしている。戦闘狂だからか?


 奉仕活動とは、光明真会の管理するゲートの保守管理員の護衛とゲート周辺の怪異モンスターの間引きをすること。辺鄙な場所にあるゲートは周りが過疎化して探究者が少ない。なので、本部から保守管理員を出して定期的に施設をメンテするのだ。


 そのためにゲート周辺の怪異モンスターの間引きして安全を確保する必要がある。メンテ中も探究者シーカーが見回りするが、何人も行くので俺は花音さんと特訓になるそうだ。日給も支給されるというので承諾。お金は大事だ。



 帰って大家さんにお土産の熊肉を渡すと、


「あんた、今度はどこに行ってたんだい?」


「ちょっと山登りに行ってました」


 と誤魔化した。熊肉は野生味あふれる味がして美味しかった。小太郎はあまりお気に召さなかったようだけど。


 日曜日、さすがに疲れたので休息日にした。代わりに庭で剣術の技法や心法の鍛錬。技法はまだしも、心法はよくわからん。


 翌週の土日は泊りがけになる。なので、金曜日の夕方に喫茶店ギルドに集まり移動。参加する探究者シーカーは俺と花音さんを含め六人。


 目的地に着いてみれば、本当に辺鄙な所だ。限界集落を越えた先にある。ぽつんとこの場所に似つかわしくない、近代ビルが建っている。


 ここに常時ギルド員と探究者数人が常駐している。今回は俺たちが来るので帰省してるそうだ。


「明日は早朝から異界に行く。早く寝ろ」


 メンテ作業が始まる前に、近場の怪異を間引きしなくてはならないから仕方がない。というか、俺だけ特別メニューらしい。


 翌朝、陽が昇る前に叩き起こされ朝食をとって異界アンダーワールドに出発。特訓ということで、壊れても惜しくない刀を何本も持ってきている。


 いつもの装備に着替えて、刀は取りあえず三本持っていこう。うーん。背中に背負うか? 二本を背負い一本は腰に差す。


「お前、どこの現代忍者だよ!」


 そう言われても、これしか持ってないから仕方がない。


 ゲートをくぐり異界アンダーワールドに出るといつもの異界と似たような風景だ。出てくる怪異もほぼ同じらしい。それなのに違う異界なのだそうだ。単にゲートが見つかってないだけなのかもしれないと、花音さんは言っている。


 ゲートから少し離れた北側の場所で、花音さんがおもむろにポケットからなにかを出してライターで火を点け投げる。


 パンッ!パパパパーン! 爆竹がけたたましく鳴り響く。


「気合を入れろよ。死にそうなら手を貸してやる」


 いやいや、死にそうになる前に助けてくださいよ!


 わらわら現れる怪異を刀で斬り伏せていくが、だんだん手が回らなくなる。


 えぇーい、待宵!


「はにゃ~」


 はにゃ~と魔改造バットを掲げて登場、はにわくん、ブンブンバットを振り回し、やる気満々。


 よし、手分けして、やるぞ!


「はにゃ~!」


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