48.森のくまさん
花音さんの四駆の車で、郊外の山に到着。
俺のリュックに三人の荷物やお弁当と水筒を入れ担ぐ。小太郎の分もちゃんと入れてある。
クロスボウはベルト付きなので肩に掛けて歩く。小太郎は沙羅が抱っこして、花音さんは何も持たず先頭を歩く。
彼女の武器は縄鏢流星錘の派生形。ワイヤーの先端に鏢、もう方ほうにはトゲトゲのモーニングスターの先端のような物がついている。ワイヤーはビニールチューブで覆われた。見るからに凶悪な武器を腰に下げている。
ほかの装備はブレストアーマーに肩当、手甲、脛あて。見るからに功夫淑女だ。合同新人研修会で会った尊とは、比べられないほどの威圧感がある。飄々としたレンさんとは対照的なレギオンだな。
目撃情報の記載のある地図を見ながらの捜索。目撃されてから、もう数日過ぎている。
「まだ、この辺にいるのでしょうか?」
沙羅が、至極ごもっともな質問をする。
「突発的に異界とつながったのなら、異界に戻ることはできない。人里に下りたならもう騒ぎになっている。なっていないから、奴はまだ山の中だ」
「それより、ここは
「確かに異界でのような力やスキルは使えないが、鍛えた体や技は嘘をつかない。物理攻撃が効くなら問題ない」
なるほど、物理攻撃が効きさえすればなんとかなるのか。ん? じゃあ、効かない場合は?
「では、物理攻撃が効かない場合は?」
「それ専門の部隊が出動する。我々は撤収だ」
「私たちの持つ武器でも攻撃するのですか?」
沙羅がクロスボウをポンポンと叩いて聞く。
「それは、熊対策だ。だが、
けん制程度には使えということか。しかし、本当にこのクロスボウで熊退治!? マジですか? やれるの?
なんて思ったからかフラグが立ったようだ。
「にゃ~」
小太郎が俺たちに注意を呼びかけると、二百メートル先の藪の中から熊が顔を出した。
体長は百六十センチ前後。こちらに気付きゆっくりと向かってくる。見逃してくれないようだ。
「ボルトをつがえろ」
花音さんの指示でクロスボウに矢をつがえる。小太郎は沙羅の肩の上に移動している。
花音さんが武器を構えると、熊が走り出した。完全にロックオンされたな。
「引きつけろ……今だ!」
熊との距離が五十メートルを切ったくらいで、俺と沙羅のクロスボウからボルトが放たれる。俺のボルトは右肩。沙羅のボルトは左前脚に突き刺さる。それでも、熊の勢いは止まらない。野生の熊、恐るべし!
「小太郎、落とせ!」
「にゃ~」
熊が視界から消える。しかし、熊の唸り声は健在。小太郎の穴に落ちたがまだまだ戦意は十分のようだ。
「コタちゃん、ナイス!」
沙羅がそう言って、小太郎にチュッチュッ。羨ましくなんかあるんだからな! 指示したのは俺なのに……。
「何が起きた?」
花音さんポカーンとしているのを他所に、熊が落ちた穴を覗く。深さ三メートルほどの底に、涎をまき散らしながら血走った目で暴れている熊がいる。ボルトの刺さった所からは血が吹きだしているにもかかわらず、戦意は旺盛。野生の熊、恐るべし……。
花音さんも穴を覗き、俺たちの離れるように指示し、武器を何度か振り下ろす。撲殺だね……あの棘々で殴られれば、森のくまさんも昇天するだろう。南無。
「さっきのは何なんだ?」
「小太郎の力です」
「このチビの?」
「にゃ~」
沙羅の肩にいる小太郎の顎を撫でながら、信じられなさそうに見ている。
「俺のマギでギルドには報告してます。特対室の室長からも問題なしと許可をもらっています」
「そ、そうか。世界は広いな……」
気にしないようにしていたようだが、なぜ子猫を連れているのか疑問に思っていたようだ。意外と口下手のようだな。
花音さんが猟友会に電話を掛け、熊の引き取りをお願いしている。熊肉が食えるかも!? ちょっと楽しみ。
目撃情報よりだいぶ山奥まで来たが、気配すらない。十二時を過ぎたので、山の中腹でお弁当を食べることになった。お弁当を食べていると、カリカリを食べていた小太郎が山裾のほうを見てから俺を見る。
何かを感じたようだ。クロスボウに付いているスコープを覗き、小太郎が気配を察知した方向を探すと、いた!
「何かいるね」
「にゃ~」
沙羅も見つけたようだ。小太郎の頭をなでなでして褒めている。
白い物体が山間の沢を麓に向かってゆっくりと移動。花音さんにクロスボウを渡し白い物体のほうを指差さす。
「間違いないな。
ビンゴだな。
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