47.レギオン案件

 俺がこうまでして刀に拘る理由。


 扱い難く壊れやすい、武器としては非効率な刀をなぜ使うのか? それは、浪漫以外のなにものでもない! 


 冷徹でそれていて妖しさを醸しだすその刀身。鞘に収まる姿は優美の一言。使い手を選ぶツンデレ……必ず使いこなしてみせる!


 とは言うものの、この刀で戦っていた幕末の志士ってすごい。師事してみたい。本格的に剣道か居合でも習おうか? 刀スキルか剣術スキルが発現すれば必要ない気もする。スポーツと実戦じゃ違うよねぇ。


 日曜日も同じように刀を使っての訓練。


 帰りに喫茶店ギルドでお茶を飲んでいると、


「来週の土曜日に小太郎くんを見に、宮内庁特別異威対策室の室長が来ます」


 宮内庁特別異威対策室の室長。お国の探究者シーカー機関の事実上のトップだ。この上に防衛大臣や総理大臣がいる。


 室長は女性で皇族。ついでに臣籍降嫁の予定でお相手は沙羅のお兄さん。沙羅から見れば将来の義理の姉になる。沙羅さん…住んでる世界が違いすぎますよ?



 しかし、なるほどマスターギルド長たちが沙羅を歓迎する意味がわかった。宮内庁特別異威対策室と繋がりが強くなることは願ったり叶ったりだったのだろうな。そりゃあ、扱いが違うわ……。


 大学でその話を沙羅に振ると、


「貴子様はとても気さくな方なんだよ」


 ご尊名は貴子様というらしい。皇族というと、お淑やかで笑みを絶やさず、お人形みたいな人たちを思い浮かべるが違うようだ。


 土曜日、当日。


 スーツをビシッとキメているが、細かいおしゃれも忘れない美人の女性が喫茶店ギルドにやって来た。完全に場違いだ。表には要人用の高級車が停まり、SPと思われる黒服の男たちが複数見られる。現在、喫茶店ギルドのドアには貸し切り札が掛けられている。


「この子がそのマギなのね?」


「にゃ~」


「この子、ちょうだい!」


「あげません」


 小太郎の甘い鳴き声と甘いマスクの前では、皇族といえどもイチコロだ。罪作りな男だぜ……小太郎。


「沙羅ちゃんもなんとか言って!」


「私もコタちゃんがほしい!」


「あげません」


「ぶー」


 その後、小太郎の力の検証。検証と言っても、ロウソクに火をつけたり、粘土の形を変えたりするくらいだ。ちなみに小太郎は粘土ではにわくんを作った……何気に芸達者だ。


 なぜか、マスターギルド長が気に入ってカウンターに飾っている。本物見たら欲しがるのだろうか?


 貴子様は調査という名目で、小太郎をモフモフしている。最初は毅然としていたのに、今は完全に職務を忘れ目尻が下がりっぱなし。何度も言うが、罪作りな男だな、小太郎は。


「ゴホン……。この子に悪い気は感じませんでした。逆に清廉な気を感じ驚いています。おさぞや名のある御方の眷属だと思われます 問題なしと認めましょう」


 月読様の眷属だからな。当たり前だ。貴子様はその辺のことがわかる能力者なのかもしれない。


 これで,安堵だ。大手を振って小太郎を連れて歩ける。


 異界アンダーワールドに行きたかったのだが、結局、小太郎を離してもらえず断念。


 明日の日曜日は、加奈ちゃんの学校の運動会に参加することになっている。俺も父兄の部で障害物競争に参加だ。ついでに、借り物競争で借り物の中に猫があり、小太郎も参加となる。借りられる側だけど。


 翌週の木曜の夕方にマスターギルド長からスマホに呼び出しが入る。


 何事かと沙羅と喫茶店ギルドに向かえば、光明真会に国から調査依頼が入ったらしい。それも、レギオン案件だ。そのサポート兼経験積みのため行かないかということだ。


「行きます! ねっ?」


「……はい」


 とある山中で怪異と思われる目撃情報あり。調査、捕縛もしくは討伐となるそうだ。今回出動するレギオンは錬さんではなく、高坂花音こうさかかのんさんという方が行く。まだ、会ったことがない人だ。


 依頼としては、昔からよくある依頼らしい。


 世間で妖怪などと言われているのは、ほとんどがこちらの世界に迷い込んだ怪異とのこと。どこから現れるのかはいまだに謎なのだそうだ。突発的に異界と繋がるゲートができるのではと言われている。山奥に入るので動きやすい服装でと言われその日は解散。


 土曜日の早朝、喫茶店ギルドで待ち合わせ。


 沙羅はトレッキングスタイルで現れた。上から下まで超一流のブランド物……。対して俺はつなぎに安全靴。少し前までの異界探索スタイルだ。


「花音だ。よろしくな」


 二十代後半くらいかな? 年齢は秘密なのだそうだ。身長は百八十くらいで、長い髪を後ろで一本に纏めている。


 出発する前に喫茶店ギルドで一服。


 今回のターゲットは、地元の猟友会の人が熊駆除中に遭遇したらしい。白くひょろとした高い背の人型で山奥の沢をウロウロしていた。猟友会の人たちは怖くなり逃げ出し、警察に連絡。そこから国の機関に行き、光明真会にレギオン出動がかかったわけ。


 俺と沙羅に喫茶店ギルドからコンパウンドクロスボウが貸出される。150ポンドでスコープ付。矢筒にボルトが10本。鏃はブロードヘッド。完全な狩猟用……いや、兵器だな。日本でこんな物を持っていたら即捕まる代物だ。


 準備もできたので出発だ。


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