42.うさぎ師匠

 ゆさゆさと揺らされ目を覚ますと、でかい兎さんがいる。


「そろそろ、はじめるゆえ、起きるがよい」


 月読様がやめられないエビスナックを食べながら言ってくる。まだ、食べてるんですか……。


 兎さんに連れられ外に出る。社の後ろの原っぱだ。


 靴を脱ぐようジェスチャーされたので裸足になる。兎さんが人差し指? でちょいちょいとしたので近寄るとポカポカ叩かれる。


「なにをしておる。遠慮なくかかって行くがよい」


 えっ!? この兎さんとやりあえってこと?


 兎さんがファイティングポーズを取り、シャドーまで始めた。おや? 思った以上に腕が太い? フットワークも軽快だぞ? あれ? もしかして強いの?


 兎さんがまた俺を見て、人差し指? をちょいちょいとする。月読様も頷くので、やってやろうじゃないか! 勢いをつけ、兎さんに走って行きキック!


 あれ? なぜ、俺は空を見ている? 起き上がり兎さんを見ると、人差し指? を左右に振っている。チッチッ、甘い! といったところだろうか。


 これは、本当に強いのか? 兎さんからうさぎ師匠に昇格だ。そうとわかればうさぎ師匠の胸を借り訓練だ。ついでにモフモフもしたい。


 若干……いや、だいぶうさぎ師匠が小さいのでやりにくい。百二十あるかないかだ。キックはいいが、パンチはし難いな。


 それでも果敢に攻めるが、簡単にあしらわれる。つ、強い!? 強すぎるぞ、うさぎ師匠! 


 うさぎ師匠相手に数時間、投げられ転ばされを繰り返す。うさぎ師匠が可愛らしいモフモフの手のひらをこちらに向けてくる。


「夕飯の支度の時間ゆえ、体を清めるがよい」


 なるほど、俺の服は汚れているし、俺自身汗まみれだ。うさぎ師匠についてくと露天風呂があった。猫やうさぎも浅い風呂に気持ちよさそうに入っている。


 お風呂は後で楽しむとして、食事の用意をするのに体を清める。風呂から上がると、俺の服がなく下着と作務衣が用意されていた。これを着ればいいのか? 初めて作務衣を着たが着やすくていいものだ。部屋着などにいいかも。


 社の奥に行くとうさぎ師匠が頭に三角巾を付け、割烹着を着て待っていた。俺も用意されていた割烹着と頭に日本手ぬぐいを巻き準備完了。


 いろいろと買ってきたが、作るのはカレー。月読様の味の好みがわからないので、甘口と辛口の両方を作る。あとは食在庫を確認するとでっかいハムが丸ごとあったので、マヨを使ったポテトサラダにしよう。ハムを丸ごと奉納するなんて、どこかのメーカーか?


 野菜はうさぎ師匠が皮をむいていく。ピーラーを使ってね。奉納品か聞くと頷いている。誰がこんなの奉納したんだ? 


 俺はお肉を切っていく。肉はブランドものの最高級品ばかり。A5の和牛に希少な豚肉に有名地鶏まで。カレーの甘口には地鶏のモモ肉を贅沢に使い、辛口には海老やイカを使いシーフードカレーにする。


 せっかくなのでA5和牛も分厚く切って、塩、コショウのみで焼くことにした。たんに俺が食べたいから。


 オードブルにとポテサラ以外にジャーマンポテトを作り、大量にあるいろいなチーズを小さく切り分け皿に盛る。


 お酒は白ワインにしよう。日本酒はさることながら焼酎にワインやウイスキー、そして地ビールも選び放題。コルクスクリューも、うさぎ師匠に聞いて見つけたから問題ない。もちろんワイングラスもあった。


 準備が整い居間の座卓にカレー以外の料理を並べる。どれもこれも月読様は初めてのものばかり。チーズもあれだけあるのに食べたことがないそうだ。もったいない。うさぎ師匠に食べ方を伝授していかなければ。


「おおー、豪勢よのう。これは酒かえ?」


「日本酒に見えますが、ワインというお酒でぶどうが原料です」


「酒は嗜むが、そのほかの酒はちと飲む気になれぬゆえ敬遠しておった。聖臣が薦めるなら飲んでみようかのう」


 ワイングラスに注いで月読様の前に置く。知らないはずなのに、ワインの香りを楽しんでから飲む。ものすごく様になている。


「ふむ。果実の芳醇な香りと味わい。酒のきりっとした味わいと違い、飲みやすいが深い味わいの酒よのう。軽く飲むにはよい」


「好みは人それぞれですが、刺身などにはワインはあまり合いませんね。どちらかというとこちらでしょう」


 チーズの盛り合わせとA5和牛のステーキを薦める。


「牛の乳を固めたものよな。昔は蘇という菓子が奉納されておったが今は見かけぬ。あれは甘くて美味であった」


 蘇とかっていつの時代だ? なんかのテレビ番組で古代のチーズ再現とかで見た記憶がある。


 月読様はチーズを食べ、ワインを飲む。


「意外といけるものよ。このチーズのしょっぱさとワインの甘さがまじりあい。なんとも言えぬ味わいよ」


 次は、A5和牛のステーキを食べる。月読様の表情が変わる。


「これはなんぞえ!」


 なんぞえ! と言われても高級な牛肉です。


「今までに食べてことのない、この味わいはなんぞや!?」


「それは胡椒ですね」


「胡椒? 薬かえ?」


 まあ、確かに白胡椒は漢方薬の一つだったはず。ということは、ほかの香辛料も奉納品の中にあってもおかしくないのか?


 探してみるか? うさぎ師匠に聞いたほうが早いかな?


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