41.奉納

 社の中に案内されると中にも猫や兎がいる。兎を一羽抱っこしてモフモフする。うん、素晴らしいモフモフ具合。モフモフを堪能していると巨大な二足歩行の兎さんがお茶とお菓子を運んでくる。まじ、でかい。


 お菓子は黄色いお団子、美味しそう。ここは俺もコンビニから買って来たお菓子を出そう。


 月読様の目線が、コンビニで買ったお菓子にロックオンされている。左にそぉーっと動かすと、月読様の目線もお菓子を追う。左に動かせばそれに合わせ目線が動く。


「食べます?」


「食べる!」


 コンソメ味のポテチとチョコ菓子の袋を開いて差し出すと、月読様恐る恐る手を伸ばし口に運ぶ。


 驚き、歓喜、そして放心。表情がコロコロ変わって面白いと思ってしまう。神様に対して不敬だけど。


「下界のものは、これほど美味なるものを食しておるのかぇ……」


 兎さんの持って来たお団子も素朴な味でとても美味しい。


「なぜ、これほど美味なものを奉納せぬ!? 聖臣!」


 なぜって怒られても……ジャンクフードだから?


「神様に捧げる供物としては品位に欠ける食べ物ですから……」


「これほどの美味なるものが品位に欠けるのかぇ……」


 大抵のスナック菓子は高カロリーに対して栄養価が低いからね。和菓子なんかは供物に問題ないだろうけど、ケーキやスナック菓子を神様への供物にするのはあまり見たことがないな。


「なんという……自分たちだけ……」


 ヤバい。月読様が暗黒面に落ちかかっている。


「買って来ましょうか? コンビニ、近くにありますし?」


「それよ! 聖臣、これより毎日この月読に対して、これらの至高な供物を奉納せよ!」


「はぁ?」


 どこにどうやって奉納しろと? 毎日、月読神社に来いと?


「別にどこでもよい。この月読に捧げるという気持ちが大事ゆえ。聖臣の住んでいる部屋の机に捧げるだけでもよい。頼むぞよ!」


 それくらいなら問題ないけど……いいのだろうか? 


 ついでにコンビニで買って来たお弁当にも興味を持ち、そして奪われた。いつもどんなものを食べているのか聞くと、各地の月読神社に奉納されたものを、兎さんが調理してくれるらしい。


 聞けば内容は質素どころか超が付くほど豪華なものだが、調味料に香辛料がほとんどない素材の味を活かした料理のようだ。


 マヨもケチャップもない。まあ、日本で育てられている香辛料はたかがしてれている。マヨやケチャップを奉納するのは、メーカーならやるかもしれないが、残念ながら月読神社にはないようだ。


 仕方ない。スマホで調べると少し離れた場所に大きなショッピングモールがある。買いに行って来るか。というか、スマホが使えるな……地球から電波が届いているのか?


 場所がわかったので、月読様に話して買い物に行くことにした。月読様の提案でここに泊まることにもなったので、その間に兎さんに料理指導をすることにもなった。今度、料理本も奉納しよう。


 行きは歩いて向かう。どうせ一人だ。小太郎はここにいる間、両親に甘えるらしい。ご両親に挨拶もしないとな。高級猫缶でも買ってこよう。ほかの猫や兎さんはどうしよう? カリカリでも買っていこうか? 兎さんは何を食べるんだろうか? キャベツでいいのか? それこそ奉納されてるよな。


 なんて考えているとショッピングモールに着いた。最初にペットショップに行って高級猫缶とカリカリの特大袋と、店員さんのお薦めで兎さん用の乾燥フードの特大袋を買う。買い物が終わるまで預かっていてもらう。


 ショッピングモール内の業務スーパーで調味料とお菓子を大人買い。ついでに業務用の特大アイスも買ってみた。ヤバいくらいの量だ。ペットショップに預けた分を考えると歩いて帰るのは無理。タクシーで帰ろう。


「買ってきたのう……」


 確かに買いすぎたかな? 荷物は兎さんがどこかに運んで行った。アイスは溶けるから気を付けてね。兎さんがコクンと頷く。


 取りあえず、昼食にしよう。月読様はコンビニ弁当を自分で温めて食べている。便利だ。俺は兎さんが用意してくれた和食。昼から刺身盛り合わせ定食。俺の好物の鮑の刺身まである。なんとも贅沢。まあ、これを毎食食べていたら飽きるのだろうな。確かにジャンクフードが食べたくなる気持ちもわかる。


 周りや、外では猫や兎もご飯を食べている。俺が買ってきたカリカリや乾燥フードも置かれている。初めて見るものなので、スンスン匂いを嗅いでいたりする。なかには気にせずカリカリ食べているのもいる。


 でっかい兎さんは乾燥フードをポリポリ食べながら、俺を見てサムズアップ! 気に入ってもらえたようだ。


「これも美味よのう!」


 ハンバーグを食べて喜んでいる月読様。凛と正座して座る美しい姿はまさしく神様。後光さえ見えそうなその神々しいお姿……なのだが、持っているのはコンビニ弁当。シュールだ……シュールすぎるだろう!


 食べ終わり一息つくと、みんなお昼寝や顔を洗ってゴロゴロ。月読様もコンビニ弁当に満足して、ゴロゴロしながら青のり味ポテチを食べている。正直、まったく神様には見えない。


 じゃあ、俺も昼寝だ。なんてまったりとした生活……Zzz。



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