38.同格

「十六夜。手を貸してやれ」


 双方、動こうにも動けない状態。どちらも顔を真っ赤にして力を込めあっている。沙羅のマギの水龍は守りは得意のようだが攻めは少し苦手。鬼婆に睨まれるとサラの髪の毛の中に逃げ込んでいる。


 俺は攻撃しやすい横に回り込んで、偃月で鬼婆の顔を攻撃。情け無用。鬼婆の顔を斬り裂き血だらけにする。驚きと痛みとで、沙羅の薙刀を離してしまい沙羅に斬りつけられるが、致命傷には至らない。なかなかにしぶとい。


 一旦、鬼婆が後ろに下がり、俺と沙羅を交互に睨む。武器を持たない俺を狙いに定めたようで、両手の爪を伸ばして走ってくる。俺が相手をしてもよいのだけど、ここは小太郎と沙羅に花を持たせよう。


 小太郎が鬼婆の足元に穴を作る。タイミングはバッチリ。腰の高さまで穴に嵌った鬼婆の首を、走り込んできた沙羅の薙刀を薙ぐ。鮮血が上がり首が落ちた。


「コタちゃん。ナイス!」


「にゃ~」


「お年寄りなのにすごく強かった」


 確かに鬼婆だから年寄りなのか? 歳を取って鬼婆になったのか、怪異モンスターの種族としての鬼婆なのかは俺には判断がつかない。


「鬼婆でちょうどいいな。こいつを訓練相手にしろ。今みたいに、どうしようもないときにお互いに手を貸せばいい」


 じゃあ、次は俺の番だな。少し離れた所に鬼婆がいる。剣スコを近くの岩にぶつけ音を出すと、気づいてこちらに向かって来る。


 戦い方はいつもどおりの戦法で行く。近寄って来た鬼婆に偃月でけん制をかけ、一気に間合いを詰めて剣スコで攻撃。年寄りなのに動きがいい、腕で防がれる。それに固い。岩を叩いているかのような衝撃。


 偃月を出して、今度は足を攻撃。相手の素早い動きを封じる。鬼婆の腕を跳ね上げ、開いた喉元に剣スコを突き刺す。さ、刺さらない!? が、さすがに喉元に攻撃を受けたので転げのたうち回る。


 こりゃ駄目だ。戦略的撤退だ!


「何だ、逃げるのか? 十六夜」


 はにわくんが引くリヤカーの場所に走り、先ほど手に入れた柳葉刀を剣スコと交換。急いで、鬼婆の所に戻る。


「にゃ~」


「まだいい。もう少し一人でやらせてくれ!」


 鬼婆が立上り俺を睨む。周りのことには目も向けず、俺を完全にロックオンしたようだ。望むところ。


 偃月を使い意図的に顔を防御させ、柳葉刀で胴体を斬りつける。肉が裂け血が溢れる、そして内臓が漏れ出す。普通の人間なら致命傷だが、苦痛の表情はみせるが動きは止まらない。化け物め!


 攻撃してきた手を柳葉刀で跳ね上げれば、鬼婆の右腕が斬り飛ぶ。たまに出るクリティカルだ。粘土を斬るかのような感触だけが手に残る。これが毎回出れば楽なんだけどな。


 右腕を無くした鬼婆はもう俺の相手じゃない。何度か首を斬りつけると倒れ込んで動かなくなった。


「まあ、一度いい攻撃があったが、ほかは駄目駄目だな」


 どう駄目駄目なのかは教えてくれない。自分で考えろということか、あるいは全部駄目すぎて教える以前の問題なのか? 両方な気がする……。


 力負けしてるし、動きも向こうのほうが上。偃月があるから何とかなっているが、万能武器の剣スコもこれ以降は威力不足になっていくのだろう。


「もしかして、武器が悪いなんて考えてねぇか? 十六夜。しょうがねぇな、武器が無くても戦えるところを見せてやるよ。俺じゃねぇけどな」


 錬さんがそう言うと変わった鎧を纏った男? が現れる。


「俺のマギの羅刹だ。羅刹、武器を使わずに鬼婆を倒せ」


 皮膚の色が真っ黒、髪の色が赤の羅刹が頷き、自分から探しに行く。羅刹に付いて行くとすぐに見つかる。索敵能力もあるようだ。


 無造作に鬼婆に近寄りパンチ。鬼婆が吹き飛ぶ……。


 お手本にならねぇよ!


 鬼婆がなんとか立ち上がるが、両腕がおかしな方向に折れている。ふらふらの鬼婆の顔にフックが入り、顔が爆散……。


 だから、お手本にならねぇって言ってんだよ!


「まあ、こんなもんだ」


 なにが、こんなもんだなんだよ!


 はっきりとわかった、錬さんは人にものを教える技能が皆無だ! 全く役に立たない。沙羅と顔を見合わせてしまう。地道に行こう……。


 沙羅と交互に何度か鬼婆と対戦していると、あの大宮駐屯地の地下で戦った悪鬼が現れた。沙羅は若干、表情を強張らせている。


「悪鬼だな。この辺で現れるのは珍しいぞ。さすがにお前たちより格上だからこっちで倒す」


「待って! やらせてください!」


 沙羅はあの時の気持ちを断ち切りたいのかも。ならば、俺はそんな沙羅をサポートするだけだ。


「二人でやります。錬さんは見ていて危なくなったと思ったら、援護お願いします」


 はにわくんはリヤカーを引っ張ているので今回はお休み。小太郎、水龍の力は借りる。


 先制攻撃は小太郎の焔。火だるまになったところに偃月で追撃。その間に沙羅が間合いを詰め攻撃。火だるまの状態でも悪鬼はなんのそのと沙羅に攻撃を仕掛けてくる。沙羅が躱し攻撃、躱しきれない攻撃は水龍が水の膜で防いでいる。


 俺は卑怯とはわかっていても悪鬼の背後から斬りつける。それでも冷や冷やもの。背後から攻撃しているのに、大振りするとその隙をついて攻撃が来る。正面で沙羅と戦っているのにもかかわらずにだ。


 できるだけモーションを小さくコンパクトに攻撃しないと、こちらの攻撃の後に反撃までくる。こういう攻撃は柳葉刀には向かない。槍や、突きができる刀や直剣が向いている。武器も一長一短だ。


 うまくいかないものだ。




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