36.錬さんの実力

 研修で行った大宮の駐屯地はここから遠い場所ではない。異界アンダーワールド同士も繋がっていることもあるから、あの地下世界もどこかの異界アンダーワールドと繋がっている可能性があるのではないだろうか? 


 とは言っても、手当り次第に穴を掘ってもその地下道にぶつかるとは思えない。なにかいい方法がないだろうか……。


「キャー!」


 沙羅の悲鳴! なにが起きた! 怪我でもしたか! 沙羅の所に走る。


「はにゃ……」


「はにわくんの手が壊れちゃったよー!」


「にゃ~」


 はにわくんと戦っていた餓鬼と邪気が、急にできた穴に落ちる。小太郎か!? 穴を覗くと意外と深い。餓鬼と邪気が底で折り重なり、次第に消えていく。


 穴は二メーター四方で深さは五メーターくらいだろうか?二十立方メートルもの穴ができたことになる。


「おい、何が起きてんだよ!」


「腕が~腕が~」


 沙羅は空島での大佐のようだ。はにわくんを一旦帰還させ、再召喚。


「はにゃ~!」


 はにわくん魔改造バットを掲げたいつものポーズで現れる。


「腕が元どおりに戻ってる! よかったよ~」


 沙羅さん、泣くほどのことではないと思うのですが……。


「だから、説明しろって!」


「はにわくんは埴輪ですからね。素材は土です。壊れるのは当たり前。召喚し直せば元どおりですよ」


「そっちの穴は!」


「小太郎の力ですよ。そういえば、この穴の土はどこに行ったんだ? 小太郎」


「にゃ~」


 ドサッと音がして穴が埋まる。どこにしまっていたんだ? ん? まてよ、これって使えるんじゃねぇ?


「コタちゃんすごーい!」


「このチビ意外とやるな……」


「にゃ~」


 そんなことより、実験だ! 小太郎、この辺を掘ってくれ。


「にゃ~」


 さっきと同じくらいの穴ができる。じゃあ、土はこっちな。ドサッと指定した場所に土が現れる。


 つ、使ええる、これは使えるぞ! 同じように指定した場所を五回穴を掘らせ、土を別の場所に出させる。


「にゃ……」


 小太郎、疲れたのか、水とおやつのカリカリを要求してくる。目的は達したので要求どおり出してあげた。


 さて、後は選別だけだ。なんと、いつもの半分の時間で鉱石採取が終わった!


「なんて、無駄な力の使い方……」


「コタちゃん、美味しい?」


「にゃ~」


 リヤカーもいっぱいになったので、錬さんが俺がまだ行ったことがないエリアに行くぞと言い出す。


 錬さんがいるから、安全マージンは問題ないだろう。こんな機会はそうないので俺は賛成。沙羅も暴れ足りないようで行きたいと言っている。


 リヤカーをどうするか悩んだが、ここに置いていって怪異モンスターに壊されたら堪ったもんじゃないので、いつもどおりはにわくんに引いて行かせることにした。


 俺が武器集めをしている場所近くまで来た。いつもより、怪異モンスターの遭遇率が明らかに高い。


「それはお前たちが弱いからだ。強くなれば寄って来なくなる」


「でも、ここに錬さんもいますが?」


 沙羅もうんうん頷いている。


「馬鹿野郎。俺くらいになれば、気配くらい消せるんだよ。お前らの指導に来てんだから怪異モンスターが寄って来なくなったら意味がねぇだろうが。怪異モンスターたちはここに弱っちぃお前ら二人しかいねぇと思ってるんだよ」


「むー」


 沙羅が納得いかないような顔をしているが、事実なので甘んじて受け入れる。


 いつもの武器集めをしている場所に来ると、武器を持った怪異モンスターが現れる。


「まずは、俺がやる。ちゃんと見てろよ」


 錬さんはバスタードソードをカートから抜き無造作に振る。ブーンと音がして大気が震える。正直、これだけでも実力の差がわかる。圧倒的な気配が放出されている。


 それでも、怪異モンスターは引くことなく、錬さんに襲い掛かる。先頭に天邪鬼の首を軽く振った剣で落とし、返す剣でこん棒を持った餓鬼をこん棒ごと叩き斬る。残った邪鬼は突きの一突きで絶命した、一分もかかっていない。圧倒的だ。次元が違う……。


「まあ、こんなもんだ。この辺の怪異モンスターは馬鹿だから猪突猛進だが、もっと先に行くと頭のいい怪異モンスターも出てくる。剣技、フェイントなんて当たり前。卑怯な手も平気で使ってくる。一撃必殺が理想。下手に追い込むと手痛い反撃を喰らうぞ。それから、情けは無用。命乞いしてきても油断するな。絶対に目を離さず構えを解くな。お前らの隙を狙う演技だと思え」


 そうだよな、怪異モンスターがこのまま弱いわけがない。怪異モンスターに卑怯も正々堂々もないのも道理。探究者シーカーは基本自己責任。油断するほうが悪い。厳しい世界に足を踏み入れてしまったな。




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