33.剣術

 しかし、斬れん!


 武器集めをやめて刀の訓練をしている。リヤカーには武器が山積みになっている。リヤカーの荷台を多く占領しているのはこん棒。見たまんまこん棒。なんの変哲もないこん棒。持ち手の部分を持ちやすいように削っただけのこん棒……これ、売れるのか?


 それはさておき、刀が上手く扱えない。さっきなど、刀を振り回していたら刀身が柄からすっぽ抜け、はにわくんに刺さっていた……。


 はにわくんと小太郎に白い目で見られたのは心が痛い。だが、小太郎じゃなくて本当によかった。小太郎が死ぬのかは知らないが、取りあえず胸をなでおろす。


 しかし、斬れない。いや、斬れてはいるんだ。いるんだが、それが致命傷にならない。何度も斬りつけてやっと倒れる。正直、剣スコのほうが早く倒せるくらいだ。


 原因はわかっている。さっきも言ったが刀の扱い方がわからない。怪異モンスターの喉を狙って突きをすれば、比較的簡単に倒せるのはわかっている。そう、わかっているのだが、これじゃない感で心が萎える。


 刀なのだから、こうもっと、なんというか、シャキーン! バサッ! みたいな? 格好良く戦いたいのよ。


 でも、それをやると必ず怪異モンスターにガードされる。結局、何度も斬りつけてやっと倒すということが、さっきから続いているわけだ。


 試しに、柳葉刀を使ってみる。山賊なんかが持ってそうな武器だ。刀というより大きな鉈って感じ。振り回しているのが楽しくなる武器だ。戦い方も力押しが最も効果的と数回戦ううちに理解した。


 ぶった斬るという言葉がお似合いの武器で、刀と違って爽快感がある。頑丈なので壊れるという心配をあまりしない。たんに刀は高価なものという固定概念があるせいかもしれない。


 槍、日本の槍ではなく中華系の槍なので突くが効果的。


 直剣も槍と同じで突く武器だ。この直剣で斬るというのは刀より無理。


 こん棒。殴るだけ。ある意味、一番何も考えず戦える武器かも。そのうえ、攻撃力も高い。はにわくんの魔改造バットもこん棒の一種だよね。フルスイングで攻撃すると怪異モンスターの腕でごと体や頭を破壊する凶悪な武器だ。こん棒、こん棒と馬鹿にしてごめんなさい。


 こうしていろいろな武器を使ってよくよく考えると、刀って武器としていまいちだと思う。だがしかし! 浪漫なのだ。日本人として生まれた以上、刀を使わずしてどうする!


 とは言うものの、一度ちゃんと誰かに師事すべきなのかもしれない。


 一度、休憩がてらに昼食をとってから、また刀に持ち替えて訓練を再開。正直、心が折れそう……。


 コンパクトに振り抜き、そして引いて斬る。簡単なように思えて、実はとても難しい。刀は大きい包丁。西洋包丁は上からの力を加えれば切れる。日本の包丁は押すか引くかで素材を切る。


 新選組で有名な剣術の流派、天然理心流は剣術だけではなく柔術などを含めた総合格闘技術だったらしい。その中でも棍を使っ棒術を伝える流派でもある。


 何が言いたいのかといえば、新選組の沖田総司は三段突きが得意だったと言われている。高校の授業では突きは危険ということで禁止されていた。突きは外すことのない必殺の剣なのだそうだ。沖田総司は突きだけじゃなく、剣術そのものが強かったのだろうが俺は違う。


 なので、シャキーン! バサッ! という斬る攻撃は一旦置いておくことにした。負け惜しみに聞こえるかもしれないが、素人には無理だ。何かしら、勉強してから再度挑戦したい。


 なので、突きを極めることに変更。


 心が軽くなったこで、サクサク怪異モンスターを葬る。気分がいいと、いいことも起こる。レベルアップだ。


 剣術は諦めたので、武器のドロップの検証を始める。


 奪った武器でダメージをどれだけ与えたかによって、武器の質が変わるのはわかっている。なら、一撃必殺で倒した場合は? 餓鬼と邪鬼より強い天邪鬼が持つ武器の質は、餓鬼と邪鬼が持つ武器と同じなのか? 疑問が浮かぶ。それを検証しよう。


 まずは、これじゃない感があるのは置いといて、気がねなく突きをして止めを刺す。いい感じの武器が残った。まあ、若干だが新品に見えなくもない。次は、こまめに傷を作ってのなぶり殺し。さっきの武器より質が悪そう。中古感がある。


 何度か試した結果、どうやら一撃で倒すほうが質が良いのが出るようだ。


 次は敵の強さによって武器が変わるかだ。これはすぐにわかった。武器集めをしている時には気がつかなかったが、刃を見れば一目瞭然だった。結果は強い敵のほうが良い武器を残すだ。


 一撃必殺で倒したときの武器を同じ種類で見比べると、明らかに強い敵を倒したときの武器の刃が綺麗いなのだ。刀でいえば強い敵を倒したときの刀は鏡のように磨かれ顔が映る。今までの刀はここまで綺麗いに磨かれていなかった。


 答えがわかれば手に入れるのは簡単。帰るまでの少しの間、良い武器を狙って怪異モンスターを倒す。


「集めたわねぇ……」


「頑張りました!」


「そ、そう……言えない、私の口からは言えない……」


 葛城さんがなにかブツブツ言っている。


「待っていました。十六夜くん」


 マスターギルド長が呼んでいるとのことなので喫茶店に行くと、神妙な表情のマスターギルド長が待っていた。


 な、何が起きるんだ?


 心配なんですけど……。



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