30.越えるべきもう一つの壁

 今日は採掘はしないが、リヤカーは持って来ている。小太郎が荷台の上に設置するお昼寝台を気に入っているからだ。


 はにわくんを召喚してリヤカーをセット。はにわくんにも今日は少し先に行って戦闘訓練をすると伝える。


「はにゃ~!」


 はにわくんも魔改造バットを掲げ、やる気満々。俺も新調した前のより一ランク上の四千九百八十円の剣スコを、はにわくんと一緒に掲げて出発! 剣スコは二千円も高いだけあって前のものより更に頑丈そう。そして持ち手部分に滑り止めのグリップ加工が施されている。いい買い物をしたと自画自賛。


 そんな俺たちを余所に、小太郎は眠そうに欠伸をしている。平常運転だな。うん。


 ゲートから離れ餓鬼と邪鬼が現れるが敵じゃない。まあ、異界アンダーワールド最弱の怪異モンスターだから、先日までの俺でも余裕で倒せていた。


 だが、今日は違う。そう違うのだ。今まで感じられなかった、はっきりと相手が格下と感じられる。そして、怪異モンスターの動きがいつもより遅く感じられる。


 はにわくんも俺と同じ感じを抱いていのか、しきりに首を傾げている。


 更に先に進むと餓鬼と邪鬼と共に初見の怪異モンスターが現れた。確かに初見ではあるがギルドのデータで事前確認はしてある。そいつは天邪鬼。餓鬼と邪鬼より強いらしいが、大宮駐屯地で戦った悪鬼に比べると明らかに小物。


 相手が三体になったところで今の俺とはにわくんの敵ではなかった。正直、ここまでレベルアップを感じたのは初めてだ。これがレベルアップの恩恵なのか、死闘を潜り抜けた経験からくるものなのかはわからないが、俺たちは強くなったと手応えは感じている。それほど、悪鬼が強かったということでもある。


 だが、後から聞いた話では悪鬼が異常に強かったらしい。あそこの悪鬼は今の俺たちと同じようにレベルアップして階位が上がった個体のようで、本来はあそこまで強くないそうだ。


 何度か天邪鬼とも戦いはしたが、正直物足りなさを感じる。まだ先に進むか迷う。己の自惚れではないと感じているが、更にこの先に進むべきだろうか? ここで自分の強さの様子を見ながら確実と思われたら進むべきか?


 はにわくんを見る。はにわくんはやる気に満ちている。小太郎を見れば完全に熟睡モード。ということは、小太郎は賢いからここのレベルは自分が手助けするほどの相手ではないと感じているということだ。


 先に進もう。大丈夫。今の俺たちなら今の倍くらい強い怪異モンスターでも十分にやれる。それに、危ないと感じたら逃げればいい。今回はあんなことがあったので、逃走用の秘密兵器も持って来ている。実際に通用するかは後で調べるつもりだったが。


 更に先に進む。この辺になると三体一緒にいるのがデフォルトのようだ。だが、違う点が一つ。それは、武器を持っていること。一体だけだが白鞘の日本刀を持っている。


 なにあれ? 任侠映画に出てくる極道の合計二十さんが持ってるやつじゃないか。なんで白鞘なんだろう? 急いで家から出てきてこしらえを忘れてきたのだろうか?


 取りあえず、武器持ちはやる気十分のはにわくんに譲ろう。怖いからね。はにわくんは痛みを感じないから少しくらい斬られても大丈夫だし。俺ははにわくんが武器持ちを相手にしてる間に残りの二体を始末する。


 倒した怪異モンスターの強さは変わっていない。先に進んだ分強くなっているかと思ったがそうじゃないらしい。武器を持った怪異モンスターもそうなのだろうか?


 はにわくんの魔改造バットが振るわれ刀を持つ邪鬼の腕にヒット。


 ズッサっと音がして飛んできた刀が足元の地面に刺さる。


 あ、危ねぇ……。


 刀を地面から抜いて眺める。魔改造バットと打ち合ったせいなのか、一部刃こぼれを起こしている。もったいない。なんて思っていたら、はにわくんの魔改造バットが邪鬼の顔面にクリーンヒット! しばらくして邪鬼が消えると手に持っていた白鞘の日本刀も消えた。


 残念。淡い期待を抱いていたのだけど駄目だった。日本刀、欲しかったなぁ。


 じゃあ、次は俺が武器持ちを相手するよ。もちろん、一体だけならね。武器持ちが二体ならはにわくんが相手して。


「はにゃ……」


 だって怖いじゃん。武器持ちが三体なら二体ははにわくんで一体は俺が相手する。で、いいよね?


「はにゃ……」


「にゃ……」


 なんかヘタレってハモられた気がしたのは気のせいか?


 少し歩くとすぐに怪異モンスターに遭遇。武器持ちは一体だ。俺が相手だな。


 剣スコを構え武器持ちの餓鬼と対峙する。こいつも白鞘の日本刀だ。鉄でも斬るつもりなのだろうか?


 なんて冗談を言っていられる余裕は俺にない。やり難い。動きはいつもの餓鬼と変わらない。武器を持っている以外はいつもの雑魚の餓鬼だ。なのに俺は攻めあぐねている。


 なんのことはない……武器が怖いのだ。武器を持たれただけでこれほど違うのかと実感させられる。武器は手の延長などと言うのを聞くが、その延長した攻撃範囲が怖くて攻撃できないでいる。


 はにわくんのほうはすでにけりがついている。手を出さずに周りを注意しつつ、傍観してくれている。


 こいつは弱い。弱いんだ。ただ武器を持っているだけ。動きは見えているし、武器の扱いもたいしたことはない。できる。なんら問題ない。と言い聞かせて間を詰める。


 餓鬼が突き出した刀を本来であれば余裕で躱せるはずなのに、刀を躱して剣スコで攻撃すると頭でわかっていても、剣スコで刀を受けてしまう。相手が攻撃してきた時こそ最大の攻撃の機会だとわかっているのに足が竦む。


 その恐怖のせいで剣スコで受ける無駄な動きで次の攻撃に移れない。


 ヘタレだ……自分が思っていた以上に俺はヘタレだった。


 悪鬼と戦い一つの壁を乗り越えたと思ったら、すぐに目の前に超高い壁が現れた……。


 なぜに神は我に苦難を授けるのか……。


 願わくば、我に七難八苦を与えたまえなんて言ってた人もいるようだが、俺はいらねぇー!


「はにゃ……」


「にゃ……」



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