27.戦うということ

 全員が上を見上げる。


「そうね。まずは、ここから地上に出ることを優先しましょう」


 グレネードランチャーに弾を装填して、ぽっかりと開いている穴の真下に移動して真上に発射! 発射された弾は穴を抜けターン! という音と共に赤い光を放つ。信号弾だ。


「気づいてくれるといいのだけど……」


 ただ待つしかないこの状況なのだが、モフモフの小太郎がいるおかげで殺伐とした雰囲気や、暗い悲観した雰囲気にはなっていない。女性陣は小太郎をモフりしながらのモフモフ談議。


 そんな女性陣を横目に俺と尊は片方ずつ通路を見張る。また、怪異モンスターが現れないとは言いきれない。


 三十分ほど経ち再度、穴の外に向かって信号弾を放った時にあいつが現れた。


「悪鬼が来た!」


「はにゃ~!」


 みんなに注意を促し、相手にならないのはわかっているが、はにわくんと一緒に折れ曲がった剣スコを構える。


 紗耶香さんがグレネード弾を発射。ポシュっと気の抜けた音を発するが破壊力は本物だ。狙いどおり悪鬼の手前に対人榴弾が落ち炸裂。人間だったら間違いなく生きてはいられない爆発に悪鬼が巻き込まれる。


 だが、ここは異界アンダーワールド。元の世界で恐ろしい破壊兵器のグレネードランチャーであっても、カタログスペックどおりの性能を示さない不思議な世界。


 対人榴弾の爆発の中、悠然と立つ悪鬼の姿に恐怖を感じ、冷や汗が止まらない。あれだけ無双した天水さんや、粋がっていた尊も青い顔して動く気配はない。杏紗などは完全に戦意喪失状態で紗耶香さんの後ろに隠れ震えている。


 爆発が収まれは無傷とはいかない姿だが、悔しいが勇猛果敢な戦士に見えてしまう。


 だが、こちらだってただでやられるわけにはいかない。力で負けていても心まで負けるわけにはいかないのだ。


「はにわくん!」


「はにゃ~!」


 はにわくんもあれだけ無残にやられたにもかかわらず、勇往邁進にリベンジに挑む。


「水月」


 悪鬼の横に写し身をだして悪鬼の隙を伺う。まあ、期待はしていない。その間にはにわくんも悪鬼との間を詰めて魔改造バットを振るう。予想通り、水月で作りだされた写し身には反応せず、はにわくんに対して構えをとる。


 俺もはにわくんの後ろから悪鬼の死角を利用して近づき、今日一の渾身のフルスイング! なのだが、折れ曲がっていた剣スコが力に耐えきれず、ポキっと折れた……なんでやねん!


「十六夜くん! これを使いなさい!」


 紗耶香さんが薙刀を構え走って来て、俺に向かって何かを放ってくる。紗耶香さんは走って来た勢いのまま薙刀で悪鬼を袈裟切り。悪鬼が攻撃を防ごうとした腕を斬り落とす。


 これが現役の探究者シーカーの力。天水さんがほとんどダメージを与えられなかった悪鬼をいとも簡単に斬り裂く。


 俺の手元に寄こされたのは天水さんが腰に帯びてい小太刀。鞘から抜けば美しい刃文が見られる。芸術品といっても過言ではない代物だが、これは相手の命を奪う武器。道具は使ってこそ道具。


 悪鬼の首元を小太刀で斬りつけた。鮮血が噴き出すものの傷は浅い。一旦、間合いを取ってはにわくんと攻守を入れ替わる。紗耶香さんが追撃してくれれば悪鬼を倒せるなと紗耶香さんを見るが動く気配がない。逆に顎で悪鬼と戦えと促してくる。


 まじかよ!


 今の俺は上半身防刃シャツだけの防具なし状態なんですけど……。悪鬼の片腕が斬り落とされているとはいえ、まだまだ意気揚々。


 やるんですね? やればいいんですね? 命懸けの戦闘なんですね?


 や、やったろうじゃないか!


 はにわくんを下がらせ悪鬼と対峙。プロレスラーを前にした感じだこいつに勝てるのか? いや、勝たねばならぬ!


 小太刀を振るうが簡単に避けられ、拳が迫って来る。手甲で払うがまるで大木を相手にしてるかのような衝撃。


 ガツッと足元で音がし反射的に身を引けば、悪鬼の蹴りを薙刀が防いでいる。


「一点だけを見ない! 全体を見て把握しなさい! 悪鬼はあなたの目線で攻撃が来る場所を見定めているのよ!」


 と、紗耶香さんがアドバイスをくれるがホイホイと出来るほど器用ではない。でも、一呼吸置いて考えれば天水さんを助ける時に、目線誘導を行って効果を出していたな。


 ふと、今までがむしゃらに小太刀を振るい、なにも考えず脳筋と言わんばかりの戦い方だった。俺はなにをしていた? これは遊びじゃない生死をかけた戦いだ。ゲームと違い死んでも生き返らない。


 急に全身を死という名の恐怖が襲う。


 俺は負けるのか? こんな所で死ぬのか? 違うだろう? 俺は強くなって月読様と契約するって決めたじゃないか。この一戦はその階段を登る一過程でしかないんだ。冷静になれ熱くなるな。相手をよく見て考えろ。勝つためには手段を選ぶな。最後に立っていた者が勝者であり正義なんだ。


 悪鬼が俺の目線を追うなら、それを利用するまで。目線でのフェイントを仕掛ける。


 構えを取り悪鬼の残った腕をチラ見する。軽くけん制の喧嘩キックを出した後、小太刀を振るう。


 悪鬼はさっと体を捻り躱す動作をするが、俺の狙いは腕じゃない。目線は悪鬼の腕を見ているが、視界の端に映る悪鬼の顔が俺の狙い。小太刀の軌道を変え、横薙ぎに一閃。鮮血が迸る。


 若干、態勢が悪く斜めに斬りつけてしまったが、悪鬼の口端から片目を通り額まで斬り裂く。


 もう、ひと押しだ。


 強敵だが、最後に立っているのは俺だ!





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