26.ちぐはぐ

「十六夜くん! 十六夜くん!」


 ほっぺをざらざらしたものが行ったり来たりしている。うぅーん。ここはどこだ? 背中が痛いんですけど……。


 思い出した!? 天水さんを助けようとして悪鬼にやられたんだ。だよな?


 目を開ければ目の前に泣きそうな天水さんの顔が見える。うん? 今の俺の状態ってどうなってるの? よく見れば俺の顔の近くに小太郎がいて俺の顔をペロペロ舐めている。


「にゃ……」


 小太郎の頭を撫でてやり、周りの状況確認。俺は寝かされている。でも、頭の下はとても柔らかく、女性特有のいい香りが鼻孔をくすぐる。


 そうか、これが膝枕ってやつか……もう少し堪能したいので、寝たふりするか?


「姉ちゃん、こいつ寝たふりしてるぜ」


「お兄さん、やらしぃー! 不潔! 最低!」


 チッ。こいつら……邪魔しやがって。


「十六夜くん。大丈夫? 死んでない?」


「はぁ……痛いけど、死んではいないようだ」


「起き上がれる?」


「背中が痛くてちょっときついかも」


「ごめんなさい……」


 いや、天水さんを責めているわけじゃない。むしろ、天水さんが無事で安堵してるくらいだ。


 しかし、痛い。そうだ、怪我なら治せばいいんじゃないか。


「風月」


 ぽぉーと全身が温かい何かに包まれた感じになり、背中の痛みがひいていく。が、まだ痛みが残っている。もう一回かな?


「風月」


 また、体が温かい何かに包まれ、痛みがひいていく。うん、痛くない。


「よっと」


 名残惜しいが膝枕状態から立ち上がる。


「い、十六夜くん!?」


「治った」


「「「え、えぇー!」」」


 天水さんの膝枕の上に残っている小太郎を持ち上げ肩に乗せると、嬉しそうにスリスリと頬を寄せてくる。愛い奴じゃ。


「にゃ~」


「回復能力持ちのようね。沙羅を助けてくれてありがとう。十六夜くん」


 紗耶香さんが頭を下げてきた。


「気にしないでください。当然のことをしたまでです。怪我したのは俺が未熟だったからですから」


「それでも、妹の命を救ってくれたことに変わりはないわ。本当にありがとう。ほら、沙羅も言うことあるでしょう!」


「十六夜くん。助けてくれたありがとう。反省していますぅ」


 それより悪鬼はどうなったんだ?


「いやー、紗耶香さんが凄いのなんの。戦争映画と怪獣映画を見てるみたいだったぜ!」


 俺が気を失った後、紗耶香さんが携帯していたグレネードランチャーで催涙弾を撃ち込み、悪鬼が怯んだところで天水さんと尊、杏紗で俺を安全な場所まで引きずって移動させたそうだ。


 そこからが凄かったらしい。持って来ていたありったけの対人榴弾を打ちまくり、それでも倒せなかった悪鬼に紗耶香さんのマギの夜刀神を再度召喚して巨大化させてパクんちょして倒したそうだ。


 ははは……それは俺も見てみたかったな。


 そういえば、俺の上半身の防具がない。どうなってる?


「十六夜くんのアーマー壊れたから脱がせたの」


 まじですか!? よく見れば、俺が膝枕されて寝ていた近くに見覚えのあるものが……。


 モトクロス用のボディアーマーの背中部分が粉々に壊れてる……。その下に着ていたステンレス板を取り付けた、なんちゃって防弾チョッキも背中部分のステンレス板がぐんにゃりと曲がって、防弾チョッキを突き破って出ている。


 いや本当、死なずに済んでよかったよ……。短い間だったが、俺を守ってくれてありがとう。いろんな意味で涙が出てくる。主に金銭的理由で。


「あ、安心して。ちゃんと自衛隊うちで保証するから。イレギュラー事態なんだから出すわよ。なんなら今のより良い物を請求してもいいから! だから、その泣きそうな顔やめて!」


「わかりました。言質は頂きましたよ」


「はぁ……でも、剣スコは二千九百八十円だからね!」


 えっ!? 更によく見れば、折れ曲がっている剣スコが転がっていた……。くっ、お前も俺を置いて逝くのか!


 はっ!? はにわくんはどうした? って俺が気絶したんだから還ったよね。


「待宵」


「はにゃ~!」


 いつもの魔改造バットを天高く掲げてのポーズで登場。


「あっ、私を助けてくれたマギ! この子も十六夜くんのマギなの?」


「はにわくんはマギじゃないよ。俺の眷属召喚で呼び出した眷属かな?」


「兄ちゃん、何気に多才だな」


「お兄さんのマギや眷属って強そうじゃないよね。まあ、可愛いから許す!」


 なぜにお前に許されなければならん?


「遠距離攻撃に眷属召喚。それに回復能力に……幻術も使っていたわね。あなたが加護持ちとしても、小太郎ちゃんがそこまでの加護を与える階位には見えないのよね。潜在能力は高そうだってのはわかるけど。能力が高いのに肉体的能力は新人並み。ちぐはぐなのよ。十六夜くんって」


「どういう意味なの。姉さん?」


「考えてもみなさい。あれだけの能力アビリティを使うのにどれだけの理力を使うと思う? どう考えたって新人の域を超してるわ」


 ぐっ、さすが教官なだけはある。よく見てる。


「回復能力もそう。どうみても全治三ヶ月以上の怪我だったのよ? 下手をすれば手術が必要だった可能性もあったと思うの。あまりにも危険と判断したから、非常用に持って来ていた三級ポーションを使ったけど、あの怪我では鎮痛剤程度にしかならない。それなのにこうしてる。なにもなかったように回復している。どれだけの回復能力よ!」


 ちなみに三級ポーションはざっくり裂けた肉が元通りになるくらいのポーションで、なんと一本で五十万もするポーションだ。一番下のランクは五級でそれでも一本一万はする。


「どうなの、十六夜くん?」


 全員の視線が俺に集まる。


「黙秘します。それより、どうやって上に戻るんですか?」


 このまま洞窟暮らしは嫌なんですけど。


「にゃ~」



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