24.マギの名
「おいでませ。水龍ちゃん!」
腕を間に突き出しそう叫ぶ、天水さん。
光の粒子が集まり伸ばした腕に集まりだす。にょろにょろしたものが……。蛇!? いや、ちっちゃいが手足がある。天水さんも水龍と言っていた。西洋の竜ではなく東洋の龍か!
「きゅぴ」
「可愛い~」
「でしょう~」
水龍は腕をスルスルと肩に登り天水さんにスリスリ始める。なんというか……龍というより猫っぽいな。か、可愛いのか……? 見た目は京都嵐山天龍寺の雲龍図に描かれた龍のミニチュア版だ。可愛いというより凛々しい。声は可愛いけど……。
「さあ、水龍ちゃん行くわよ!」
「きゅぴ!」
天水さん、また現れた
「姉ちゃん、バトルジャンキーだな……」
「そうなのよねぇ。普段は虫一匹殺せそうもない子なのに、武器を持つと人が変わるのよ」
天水さんって結構ヤバい人?
そんなバトルジャンキーな天水さんのマギである水龍が先制攻撃を仕掛ける。小さい水の球を邪鬼に向かって発射。三センチほどの小さい球が邪鬼にぶつかった瞬間、球の中に圧縮されていた力が解放されたかのように、邪鬼が吹き飛んでいく。なんてパワー。
この世界の重力は地球と同じだと思う。邪鬼の体重も五十キロはある。それを、
「姉ちゃん、人間やめてるよな……」
「たけるくんの最大パワーでも無理?」
「無理……」
ですよねー。
「それより、あんたほんとになにもしてねぇよな」
ぐっ……本当のことなのでなにも言えない。偃月で援護することさえさせてもらえない。これではコンビを組んだ意味がない。天水沙羅無双……。
「沙羅! あなた一人で戦っているわけじゃないのよ! 少しは考えなさい!」
「ごめんなさい……」
と俺を見て謝ってくる。まあ、俺としては全然気にしてないんだけど。
「じゃあ、十六夜くんやってみて」
「小太郎」
「にゃ~」
「あっ、コタちゃん……」
小太郎が紗耶香さんの腕の中から俺にぴょんと飛び肩に乗る。それから紗耶香さん、そんな恨めしそうな目で見るのやめてくれませんか。小太郎は俺のマギですから。
相手はいつもの餓鬼と邪鬼だ。全くの援護なしで戦うの久振りだ。剣スコを右手で持ち、左手を柄に添える。二体同時に相手するのは初めてだな。でも、いつもどおりだ。気負う必要はない。天水さんのように格好良く無双はできないけど、俺は俺の戦い方でいい。
迫りくる餓鬼と邪鬼。邪鬼の爪攻撃を匙部で受け跳ね上げ、返す刃先で餓鬼を斬りつける。パッと血飛沫の花が咲く。顔面を斬られたたらを踏む餓鬼を無視して、爪を跳ね上げられ体制を崩している邪鬼の喉元に刃先で突く。ザスッと音がし首半分ほどまで突き刺さり、ぴくぴくと痙攣したのち動かなくなった。
まだ終わりじゃない。動かなくなった邪鬼を蹴り剣スコを引き抜き横一閃。ここまで仲間がやられても、のほほんとした表情の餓鬼の喉が切り裂かれ倒れる。ふぅ。まあ、こんなもんだろう。
「にゃ~」
「ふーん。万能武器ねぇ。あんた、やればできるじゃないか」
なぜ、この
「これで全員戦ったわね。時間もいいしお昼にしましょう」
見晴らしのいい丘に登りランチタイム。お弁当は自衛隊の給食小隊が作ったものらしく、重役弁当並みに豪華だ。そしてうまい! 小太郎には用意していたカリカリをステンレスの皿に入れ、もう一つの皿に水を入れてある。女性陣は食事を取りながらも、カリカリを食べる小太郎に夢中。
「コタちゃん、マギなのにご飯食べてるよね?」
「にゃ~」
いつも大学で天水さんの用意した高級猫缶食べてるじゃないですか。
「じゃあ、水龍ちゃんも食べるかな?」
天水さんがお弁当のから揚げを水龍に食べさせようとするが、水龍はするっと躱す。食べたくないようだ。小太郎は喜んで食べるのにな。
「そういえば、なんでみんなはマギに名前付けないんだ?」
「うーん。なんでだろう? 姉さんどうなの?」
「そうね。名前を付けている
どうなんだろう? だからこそ名前つけるんじゃないだろうか。俺は小太郎をマギとしてだけではなく、両親や祖母を亡くした俺にとっては大事な家族だと思っている。
「にゃ~」
小太郎が何かを察したか俺の手にすり寄ってくる。だが、大事な家族故、残念なことが一つある。
小太郎の名を付けたのが俺ではなく、加奈ちゃんってことだ……。
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