21.水月

 採取場所で鉱石を掘る。そして掘る。まだまだ掘る。リヤカーに積むだけ積んでも、まだ山のようにどころか本当に山になっている鉱石がある。ちょっとやりすぎた……。


 というのも、魔改造バットを得たはにわくんは水を得た魚の如く、現れる怪異モンスターをその名のとおり血祭りにあげていく。危なくなると小太郎も攻撃に参加してくれているおかげで、鉱石掘りに集中した結果が目の前の山だ。


 帰りもはにわくんがやる気満々なので、俺がリヤカーを引いて帰る。何度か怪異モンスターを倒した時に体が光った。これで三度目だ。拳をグッパしてみるが前回同様、体感的にはよくわからない。だが、体が光るくらいだ、だが何かしらの変化はしているのだろう。


 しかし、今回はそれだけではなく、頭に水月と浮かび上がる。月読様の加護である月彩の英気の力の一つだと直感的にわかった。使い方もどういった能力かも最初から知っていたかのように記憶に刷り込まれているようだ。明日、レベルアップの恩恵と共に検証してみよう。


 日曜、今日は俺の戦闘訓練を優先させる。鉱石採取を最初にすると戦闘訓練で重いリヤカーが邪魔になるので、時間調整して午後からにする。


 そして、ちょっとはにわくんが不服顔で魔改造バットを天に掲げているが、無視してリヤカーを装着。


「はにゃ……」


 ダッシュ、ジャンプを繰り返しながら進むが、これといったレベルアップの恩恵は感じられない。どうなんだろうって感じ。怪異モンスターとの戦闘もいつもどおり。ちょっとだけ力が上がったかな? そんな程度。


 覚えた水月を使ってみる。水月は任意の場所に自分の写し身を出現させることができる。残念ながら、自由に動かすことはできず、俺の動きを真似というかそのままに動きだが、動かさずじっと立たせておくことは可能。出現させれるのは一体のみで、何かに触れられるまで出現させた場所に残る。任意で消すことも可能のようだ。


 実際に役に立つか使ってみる。餓鬼と邪鬼が現れたので邪鬼の視界に入るように水月を使う。俺の動きをさせているせいか、邪鬼が俺から水月で作った写し身のほうへ意識を向ける。写し身の前に着いた邪鬼はなんの躊躇もなく爪で切り裂き、また俺に意識を向けた。


 邪鬼が写し身を攻撃している間に、俺も一体になった餓鬼を余裕を持って倒しているのでけん制にはなっている。だが、微妙。頭の悪い餓鬼や邪鬼だから効いているのかもしれない。頭の良い怪異モンスターに有効かどうかは、そんな怪異モンスターが出てきてからの話だ。まあ、要検証だな。


 さてと、今日の目的だったレベルアップと水月の検証も終わったので、ウズウズしているはにわくんと攻守交代だ。小太郎もサポートよろしく。


「はにゃ~!」


「にゃ~」


 やる気漲るはにわくん。いつもどおり欠伸をして眠そうな小太郎。うん。平常運転だ。


 採取場所に向かい、お昼にしてから鉱石掘り。また一つ山が増えてしまった。これ、リヤカー何台分あるんだろう。当分、掘らなくていいな……。


 そういえば、はにわくんが何も言ってこない。いつもなら、はにゃ……とか言ってひび割れた腕を見せてくるのにな。はにわくんと小太郎のもとに行って、はにわくんの腕を調べるとそれほどひび割れていない。怪異モンスターを倒していないわけではない。いつも以上に怪異モンスターを血祭りにあげているところを見ていた。


「はにゃ~」


 ふんっすと両腕で力こぶを出すポーズをとるはにわくん。どうやら、俺と違ってレベルアップの恩恵を顕著に受けたようだ。羨ましい。


 ということは、小太郎はどうなんだ?


「にゃ~?」


 うーん。小太郎もそれほどレベルアップの恩恵を受けているようではないな。


 取りあえず、もういい時間だから帰ろうか。



 大宮での新人研修会を今週末に控えたとある日のお昼。


 いつもどおり、天水さんからお弁当を頂きその豪華さと美味なるおかずに舌鼓を打っているとき、小太郎をモフモフしていた彼女から驚きの言葉が紡ぎ出された。


「コタちゃんって、尻尾が二つあるよね。希少種か変異種なのかな?」


「「!?」」


 モフモフされて気持ちよさそうにしていた小太郎と俺は驚きで声が出なかった。俺以外いない時などにお腹をモフモフしてやると、気が緩んで隠していたもう一本の尻尾が現れることはあるが、今までに俺以外の人前で尻尾を二つ見せたことはない。


 下宿に帰り寝るまでずっと一緒にいる加奈ちゃんにでさえ、見せたことがないのだ。天水さんと一緒にいる時もそんな時はなかったと思う。


 もしかして、天水さんは特殊能力者なのではないのかという疑念が浮かぶ。一緒に探究者シーカーをやってくれないかなぁ……なんて思うけど、彼女はお金持ちで良い所のお嬢様。残念だが無理だな……。


 特殊能力者は貴重だと言っていた。まさか、こんな身近にいるなんてな。まあ、こればかしはどうしようもない。貧乏人とお金持ちのお嬢様では立場が違うからな。


 本当に残念だ。






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