18.バナナはお菓子?

 まだ、実際にお金を手にしたわけではないけど、心に余裕が持てる。


 帰りにいつものホームセンターにより、頑丈なロープ、安全帯用のベルト、荷重1トンのカラビナ等を買い込む。夕食後、加奈ちゃんが小太郎の相手をしてくれている間に、買ってきた物を加工する。よし、いい感じに出来上がった。明日も朝早くから喫茶店ギルドに行こうと思っているので早く寝る。


 なんて健康的な生活……自分のことながら、いまさらながら趣味の一つでも嗜んでおくべきだった。いや、違う! 考え方を変えればいいんだ。そう、俺の趣味は探究者シーカーなんだ! 趣味と実益を兼ね備えた素晴らしいものじゃないか!


 自分で考えておきながら、虚しい……。これも、貧乏が悪いんだ。


 翌日もはよから喫茶店ギルドに向かう。小太郎はまだお寝むで俺の腕の中で寝ている。昨夜は加奈ちゃんと走り回っていて、加奈ちゃんのお母さんから雷が落ちるくらい元気よく遊んでいたからな。


 いつもどおり、お昼ご飯を作ってもらう間、紅茶を一杯頂く。贅沢な至福の時間だ。喫茶店ギルドに着くと小太郎も起きて、みなさんに愛嬌を振るとなぜか常備されている猫用ミルクが出てくる。もちろん、みなさんの奢りだ。羨ましい……。


 準備も済みゲートに向かい、部屋の壁際に立て掛けていたリヤカーを引いてゲートをくぐる。


「はにゃ~」


 はにわくんを召喚してリヤカーの前に立たせて、昨日加工した物を組み合わせて取り付けていく。最後にはにわくんにベルトをつけてリヤカーに取り付けた物を、はにわくんのベルトに付いたD環にカラビナで掛ける。


 はにわくんに歩いてもらうと問題なくリヤカーを引っ張って行く。怪異モンスターが現れてもカラビナならすぐに取り外せる。これで俺が引っ張るより効率的になった。


 午前中は鉱石の採取を行い。午後はせっかくなので、鉱石以外の価値あるものを探し歩いた。残念ながら、そう簡単には見つからなかった。それでも、たまにはほかの価値あるものを探そうと思う。


 なんでかって? そりゃ~、俺は鉱夫じゃないからね。今朝もなぜか喫茶店ギルドでみんなから土竜モグラと呼ばれていた……。鉱石集めは新人探究者シーカーの必ず通る道。その新人探究者シーカー土竜モグラと言うらしい。ある意味二つ名だ。


 正直、土竜という字面はいいけど、実際はモグラ。格好よくない……。


 二週間ほどルーティンの如く採取を続ける。順調に怪異モンスターも倒して魂石が少し紫色に変化してきた。レベルも一度上がっている。いいことだけならいいのだが、俺たちの欠点も見えてきた。


 弱い餓鬼や邪鬼とはいえ、数が増えると対処できなくなり怪我をする。大した怪我でもないし風月で治るので今のところは大丈夫だが、もし強い怪異モンスターが混じったら大した怪我では済まない可能性もある。


 小太郎も頑張ってくれているのだがまだ子猫だし、俺のレベルに依存するマギなので俺のレベルの低さにより、小太郎もすぐ疲れてしまう。レベルの低さと戦闘経験不足に尽きる。


 そのレベルも正直実感が薄い。確かに若干ではあるけど、全体的な運動能力は上がってきているのは感じる。が、10kgを持てるのが10.1kg持てるようになったくらいの感じだ。


 積み重ねが大事ということなんだろう。一朝一夕というわけにはいかないか。そうなると、ほかで対応しなくてはいけない。考えたのは防具をそろえること。


 一度、喫茶店ギルドで武器防具のカタログを見せてもらったことがある。その値段に目が飛び出たね。基本、武器防具は受注生産。どれも性能が良さそうで当然高い。


 銃器類も売っているがお金持ちの初心者用なんだそうだ。銃器には技もなければ肉体的強度も関係なく一定。どんなに使い続けてもそれ以上強くならないのが欠点。銃器自体も高いし弾薬の値段も半端ない。初心者がレベルアップするまでの踏み台的な武器らしい。


 じゃあ、お金のない探究者シーカーはどうしているか聞くと、自前でプロテクターなどを組み合わせて使っているそうだ。ライダースーツにモトクロスのプロテクターが多いと教えられた。


 貸し出しはしていないか聞いても、していないとのこと。そもそも、ゲートの周りでは弱い怪異モンスターしか出ないので、初心者は武器防具を買えるようになるまではゲート近辺で訓練するのが普通なんだそうだ。


 俺が採取してる場所は俺が行くにはまだ早い場所のようだ。だが、ゲート近辺で稼げる場所がない。金のない俺は多少無理しても今の場所で稼ぐしかない。少し防具のことを考えてみよう。お金も大事だけど命のほうが大事だ。


 採取を終えてゲートに戻り荷下ろしを済ませると、葛城さんとマスターギルド長に話があると呼ばれる。なんだろう?


「来月になりますが探究者シーカーの新人研修会があるのですが参加してみませんか?」


「費用はすべて光明真会持ちだし、日当もでるのよ。土曜と日曜の二日間なんだけどどうかしら?」


 本来は探究者シーカーになって半年から一年経った人が参加するらしい。でも、光明真会では俺が久しぶりの新人。ほかの探究者シーカーの組織との交流会も含んでいるので、参加してほしいようだ。


 場所は埼玉県の大宮駐屯地。交通費もタダ。食事もタダ。貧乏で高校の修学旅行ですら行ったことのない俺には、例え埼玉といえど十分に旅行気分を味わえる。


「行きます! お菓子は四百円までですか? バナナはお菓子に入るのでしょうか?」


「「……」」


「にゃ……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る