15.リヤカー

 帰り道、この頃よく来ているホームセンターに寄っている。


 はにわくんに荷物を持たせて運べば日給七千円くらい。学生の俺からすれば、なかなかの収入だと思う。


 しかし! 命をかけての日給七千円では安すぎて旨味がない! そこで、考えた。もっと多くの鉱石を運べればもっと稼ぎがよくなると。だが、無理をすれば怪我をしたり、最悪なら命を落とす。


 ならどうするか? そう、車だ! 安全に多くの荷物を運べる車があればいいじゃないか! でも、俺は車を持っていない。そもそも車を買うお金がない! あったとしても、ゲートに行くエレベーターに入らないし。


 そこでだ。エレベーターに入る大きさで、比較的投資金額が安く済む荷運び用の車といえば……そう、リヤカーだ! お金もかからない、燃料はマンパワーのみ。そして、何より自動車に比べ格安、いや激安! そう思っていた時もありました。


 ホームセンターのリヤカー売り場に着いて驚いた。ピンキリとはよく言ったもので、子どものおもちゃのようなの物から本格的なものまであり、俺が欲しいと思っていたサイズの物は三万円以上もする。いい物だと十万円以上のものまで。


 どうするか悩む。サイズと積載重量、頑丈さを考慮すると最低でも五万円以上の物でないと駄目だ。妥協して安いものを買ってすぐに使い物にならなくなるか修理が必要になってしまえば、典型的な安物買いの銭失いになる。


 五万円か。あるていどの投資は覚悟をしていたけど……五万円かぁ。


「なんだい。辛気臭い顔をして。リヤカーなんて何に使う気だい?」


「にゃ~」


 誰かと思えば大家さんだ。


「ちょっと荷物を運ぶのに使いたいと思いまして」


「ふーん。ボロくていいなら当てがあるけど、どうする?」


「本当ですか!?」


「知り合いの家に使っていないリヤカーがあってね、あれならタダでくれると思うがね」


「お願いします! 欲しいです!」


 大家さんとそのリヤカーの持ち主の家にい行く。小太郎はその間、大家さんに奪われた。紹介料だと思えば安いものだ。家だと加奈ちゃんが小太郎を独占してるので、こことぞばかりにモフっています。


 その家は下宿先からすぐ近くで、軒先にリヤカーが立て掛けられていた。大家さんが知り合いの家の方に話すとボロでいいならタダで持って行っていいよと快く譲ってもらえた。


 もらえたが、本当にボロだ。錆々で箱部分の木材は腐り、ほとんど骨組みだけ。タイヤもパンクしている。修理するにはだいぶ時間とお金がかかりそうだ。まあ、形があるなら考えがある。多少のお金はしょうがない。取りあえず、よしとしよう。


 翌日、大学までボロボロのリヤカーを引いて行く。ちょっと恥ずかしい……いや、相当恥ずかしい。大学の構内にある駐輪場にリヤカーを置き、工学部の機械科の友人の下に向かう。


「リヤカーの修理?」


「ボロボロだが一応動く」


「どういう風に直すんだ?」


 友人に俺の理想とするリヤカーを熱く語る。俺の熱意に負けた友人が一度そのリヤカーを見せろと言うので、駐輪場に連れて行った。


「おいおい。ほかの学生の迷惑だろう!」


 そうなんだが……駐車場のほうがよかったか? 友人はなぜか俺を憐れむような目で見てきて、


「お前もご主人様に苦労してんだろうな?」


 などとのたいやがり、小太郎の頭を撫でる。


「にゃ~」


 まあにゃ~と聞こえたのは空耳だったか?


 リヤカーは友人が機械科の倉庫に運んでくれることになり、修理も請けおってくれたんだが、


「魔改造してやるから期待してろ」


 と言葉を残していったのが気になる……大丈夫だよな?


 お昼はいつもどおり、中庭で天水さんと会いちょっとしたデート気分を味わう。まあ、小太郎をモフモフしている天水さんを見ているだけなんだけど。


 それでも、これだけの美人を間近で見られるなんて、なんて至福の時間。美人は三日で飽きるなんて言葉があるが嘘だな。このまま時間が止まればいいのにと思ってしまう。


 午後の講義が終わり機械科の友人の下に行くと、図面が用意されていた。CADで設計図を作ったようだ。その図面を見て俺は顔が引きつる。本当に図面どおり修理? いや、魔改造したら普通に買ったほうが安く済むのでは? ヤバい奴に頼んでしまったのかのも?


 リヤカーの置いてある倉庫に向かうと、四人ほど俺のリヤカーを囲んであーでもない、こーでもないと議論をしている。友人の仲間らしくリヤカー修理……もとい、魔改造を手伝ってくれるらしい。大事になってきてしまった。


 こうして、俺の理想のリヤカーを現実化させる、魔改造が始まったのだった。


 無事に終わるのだろうか?


「にゃ~」



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