13.怪我

 はにわくんの胴体を鋭い爪で引っ掻いている餓鬼。一つのことに夢中になると周りが見えなくなるタイプのようだ。そんな餓鬼をはにわくんは虫でも払うようにあしらっている。


 そんな餓鬼の後ろに回り込み首元にスコップの剣先を突き刺す。剣先を抜いた瞬間ぴゅーぴゅーと血しぶきが飛ぶ。映画やテレビのようには血しぶきはあがらない。この現象からこの餓鬼にも心臓と同じような血液を送る器官があると考察できる。


 二撃目を加えよう構えるが無駄に終わった。今の一撃で息絶えたようだ。


「はにゃ~!」


 はにわくんが勝利の雄叫びをあげるが、締まらないな。小太郎ははにわくんの頭の上で欠伸をして悠長なことだ。


 その後、一度も怪異モンスターに会わずに山裾に着いた。山裾沿いを歩き採取できそうな場所を探す。すぐに、山肌が露になった場所を発見。はにわくんと小太郎に周りの警戒をお願いして、俺は山肌の調査。


 山肌は地層がはっきりと見て取れる。その地層ごとの岩をスコップで掘り出してCDで確認。何度も場所を変えて探す。俺の目線の少し上くらいの場所を少し掘ったところから赤い石の層が出てきた。CDで確認。ビンゴ! 価値あり、キロ百円と出ている。キロ百円かぁ。もう少し価値があるものがないだろうか? 取りあえず、キープでもう少し探してみよう。


 午前中いっぱい探してみたが、ほかに価値ある鉱石を見つけることができなかった。それに、探している間にも三度怪異モンスターが現れ戦闘を行っている。夢中になってじっくりと探していると危険だ。


 はにわくんが見張ってくれている間に小太郎と昼食をとる。小太郎にはカリカリを少し用意してきた。小太郎は本当に美味しそうに食べる。夕食の時も大家さんや加奈ちゃん親子からお刺身をよく頂いている。俺の夕食より豪華な時があるくらいだ。小太郎は満面の笑みで頂いたお礼を返すので、毎日美味しいご飯を頂ける。


 天然の誑しだ。可愛いから許すけど。


 食べ終わり、土嚢袋いっぱいに鉱物を詰め込んで空になったリュックに入れて背負う。ヤバいくらい重い。欲をかきすぎたか……。フラフラしながらゲートへと足を進める。


 間の悪いことに、そんな時に限って怪異モンスターに不意打ちをくらう。リュックの重さに気を取られ、林のほうの警戒がおろそかになっていた。はにわくんが怪異モンスターの前に立ち塞がり、危険と判断した小太郎が炎で攻撃してくれる。普通ならこれで余裕で勝てただろう。普通ならだ。


 この時俺は過積載状態でフラフラ。スコップを杖代わりにして歩いていた。小太郎の攻撃を受けなかった邪鬼が、はにわくんの横をすり抜けて俺に凶器の爪を伸ばす。とっさのことでスコップを構えるのが間に合わなかった。なんとか体を守ったが、守った右腕が邪鬼の爪に切り裂かれる。


「がっ……」


 声にならない音が漏れ痛みと燃えるような熱さ、そして血がだらだらと流れつなぎの袖がボロボロになり血で染まる。一瞬、恐怖で我を失いそうになるが、


「にゃ~!」


 小太郎の鳴き声で我に返り、痛みをこらえて邪鬼に蹴りを入れ、はにわくんが怯んでいる邪鬼に拳で攻撃。腕が砕ける……。だが、その隙にリュックを投げ下ろす時間が稼げた。右手に力が入らないため左腕でスコップを構え、右手は添えるだけ。あとは痛みをこらえて邪鬼の首元を突く!


 邪鬼はスコップが首に刺さったまま後ろに倒れ消えていく。


 小太郎がはにわくんの頭から俺の左肩に飛び移り頬を舐めてくる。


「にゃ……」


「はにゃ……」


 正直、俺自身がどうしていいかわからずパニクっていたが、ふと頭に風月という言葉が浮かぶ。そういえば、あったな。


「風月」


 淡い光がだらだらと血が流れ続けている腕を包む。血が止まり、裂けていた肉が少しひっついた。まだ、痛みは引いていない。連続で使用して効果はあるのだろうか?


「風月」


 また、淡い光が腕を包む。光が止むと、あら不思議。薄っすらと傷跡の線だけが残っている。これなら、もう何もしなくても傷跡が残らず完治するだろう。試しにもう一度風月を使うと傷跡も残らず、怪我していたとは思えないほど元の腕に戻っていた。さらに風月を使うが何も起きない。傷がないと発動しないのかもしれない。


 しかし、凄い力だ。病院いらずだな。病気に対しては効果があるのだろうか? それに、風月は月読様が理力を代替わりしてくれているので、使いたい放題。どこまでの怪我に対応できるかはわからないが、大怪我をして死亡する確率はかなり減ったことになる。油断は禁物だけど。


 それでも、月読様ありがとうございます!


 小太郎が俺の顔をペロペロ舐めてくる。くすぐったい。もう大丈夫と、小太郎の頭を撫でて、はにわくんの肩に乗せる。持って来ていたカッターで破れた袖を切り、血で汚れた腕を洗う。綺麗になれば、更に本当に怪我をしていたのかが疑わしいほどだ。


 一度、息を整えてからリュックを背負い直して、ゲートに向かう。ゲートに着くまでに二度ほど怪異モンスターと戦闘をしたが、不意を衝かれることがなかったので難なく倒すことができた。


 ゲートにたどり着きはにわくんにお礼を言って召喚を解く。ゲートをくぐり元の世界に戻ってリュックを降ろしてふと気付く。このリュック、はにわくんに背負わせればよかったんじゃねぇ……?


「にゃ~」





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