12.準備と戦闘

 そんな優越感にうかれた俺であるが、ちゃんと考えることは考えている。


 今度の土曜は一人で異界アンダーワールドに行くことになる。取りあえず、遠くに行かなければ問題ないでしょうと、葛城さんから許可がもらえたのだ。


 だといって、 以前と同じ格好や装備で行くわけにはいかない。それなりの準備が必要だ。講義の帰りに小太郎をキャリーバッグに入れて、ホームセンターに来ている。


 必要だと思われる物はピックアップしてメモに書いてきた。この前の異界アンダーワールドの探索が終わってから、葛城さんがギルドのPCを使えるようにIDとパスワードの設定を仮でしてくれた。後日、ちゃんとした手続きをして個人カードが発行されるまでの間だけのIDだ。


 そのPCではいろいろな資料の検索ができ、資源についても見ることができた。植物関係は意外と高値で買い取られるが、見つけるのが大変。群生地などを見つけないと、一日歩き回っても一つも見つけられないこともある。


 鉱物の買取価格はピンキリ。山肌に行けば何かしらの鉱物は見つかるが貴重な鉱物は、深い場所でしか見つからない。それでも、表層に鉱物の層を見つけられれば、一度に大量の鉱物を得られる。価値は低くても量で勝負ってことだ。一度、鉱物の層を見つければ、そこで取り尽くすまで何度でも採取できるのは効率的にもいい。


 なので、俺は当面は採取する物を鉱物にすることにした。運が良ければ植物も見つかるだろう。それに適した装備を整えるためにホームセンターにきたのだ。


 まずは、武器。素手でも倒せるとはいえ、素手で殴りたくはない。そこで考えたのがスコップ。でっかいほうね。関西方面はスコップとシャベルが逆らしい。俺が今回買うのは剣先スコップ。何かの本で剣スコは万能武器と書いていた。いろいろな用途に使えるからだ。鉱物採取にも適しているだろう。金属製の丈夫な物を選びカートに入れる。


 次はリュックだギルドで借りたような、丈夫な布製のリュックを選んだ。大きさは借りていたものより大きめの物を選ぶ。捕らぬ狸の皮算用だが、これに昼食や水、帰りには資源を入れてこなければならない。そのための土嚢袋やビニール袋もカートに入れる。


 最後は服装。怪異モンスターは血を流していた。前回は偃月での遠中距離攻撃だけしかしていなかったが、今回は近距離の接近戦。返り血を浴びる可能性もある。普段着ている私服を汚すわけにはいかない。なので、汚れてもいいつなぎの作業服とスニーカータイプの安全靴、革手袋をカートに入れる。


 ペットボトルも持っていくけど、温かい飲み物も欲しいのでスリムサイズのマグボトルも買った。


 準備はOK。あとは異界アンダーワールドに行くだけだ。



 土曜日の朝、喫茶店ギルドに行き一杯だけ紅茶を飲む。小太郎はマスターギルド長から猫用ミルクをごちそうになってご満悦。それをデレデレとした表情で眺める葛城さん。


「小太郎ちゃん……可愛い♡」


 葛城さんだけでなくほかのギルド員や常連のお客さんからも小太郎は可愛がられ、俺以上にこの場での存在意義を確立している。


 さあ、それを飲んだら出発だぞ、小太郎。


「アキくん。絶対に無理はしないこと。強くなるのに近道はないの。地道に努力した人が強くなるんだからね。自分には特別な才能があるなんて考えちゃ駄目 そんなお馬鹿な人が大怪我してみんなに迷惑をかけるんだから!」


「十六夜くん。探究者の格言に自惚れこそが運の尽きという言葉がある。気をつけたまえ」


 マスター《ギルド長》からのありがたいお言葉を胸に刻み異界アンダーワールドへ出発だ。


 ゲートを抜け、異界アンダーワールドに入る。天気は晴れ。太陽が見えないのに昼間のように明るい。時間になればちゃんと暗くなり夜が来る。不思議な世界だ。


 採取は鉱石狙いなのでゲートから東に見える山に向かう。


「待宵」


「はにゃ~」


「にゃ~」


 はにわくんを召喚すると小太郎は、はにわくんに飛び乗り頭の上に陣取る。辺りは見晴らしのいい草原。遠くに二つの動くものが見える。どうやらこちらに気づいたようで向かって来る。はにわくんは二メートル、俺は百八十センチの背丈があるので、こんな見晴らしのよい場所ではよく目立つ。


 近寄って来たのは餓鬼と邪鬼。いつも一緒の仲良しさんなんだろうな。その、のっぺりとしたひょうきんな顔の餓鬼ときつい目のざんばら頭の邪鬼。異界アンダーワールド最弱の怪異モンスターだが、好戦的。頭は悪いので油断しなければ二体だけなら、手間取るほどではない。はず……。


 今回は万能武器スコップも持っている。武器は持っているだけでは駄目。装備しないと意味がない。というのはゲームの中だけ。ズッシリとした重みはそれだけで、安心感を抱かせる。


 あとは落ち着いて対処するだけ。大丈夫だ。俺は落ち着いている。周りもちゃんと見えている。正直、落ち着きすぎてる自分自身が怖い。


 前回、既に怪異モンスターの命を断つことは経験済み。恐怖もなければ慈悲もない。こいつらは俺の糧なんだ。生きた魚をおろすのと変わりはない。


 はにわくんに餓鬼をけん制するように頼み、俺は邪鬼に偃月で先制攻撃。邪鬼の体に傷ができ、血が流れるが気にした様子はなく、俺を敵として定め走り出す。


 少しはにわくんから離れるように動き、スコップを構える。振り回して剣先で切りつけるのもありだが、それができる経験もなければ距離感もわからない。だから、突く! 邪鬼は俺より背が低いので、若干上からしたに向かって突き出す。


 走って来た邪鬼にカウンター気味に喉元に剣先が突き刺さり血が噴き出し、返り血を浴びる。以外に深く刺さり抜けない。スコップをしっかりと握り、邪鬼に蹴りを入れることで抜くことができた。邪鬼は剣先が喉元に刺さった時点で息絶えたと思う。倒れ込ながら消えていった。


 邪鬼が消えたと同時に俺に付着していた返り血も消える。ありゃ? 作業服いらなかったかも?


 さて、はにわくんと戯れている残りの餓鬼も倒しますか。


 大丈夫だ。俺は探究者としてやっていける。


 こうして、俺はちょっとだけ自信が付いたのだった。




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