4
その夜、夜も更けたころ。
「この部屋か!」
外から声がする。
(きた、暗殺者)
ドキドキと恐怖から心臓が高鳴る。暗殺者は、ガシャンと窓を割って入ってきた。
「キャー」
「ちっ、起きてやがったか」
男の人の様だった。黒い服を着ていて、鋭いナイフを持っている。
(あれで刺す気ね)
ガチャンと、カインが入ってきた。
「お前達、我が主人に何をしている」
剣を抜いて、構えた。
「けっ、見張り付きだと! 聞いてないぞ、主人には、嬢ちゃんを殺せとしか言われなかったのに」
「それは、運の尽きだったな」
二人の暗殺者は、一生懸命抵抗するが、カインには、勝てないようだった。
「この男は、無理だ。女だけでも殺す」
カキンガキンと音がする中、カインは、きちんと、ジェシカを守っている。
「らちが明かないな」
カインが剣を振り上げながらそう言う。
「ジェシカ様、あなたは、高いところは平気ですか?」
「苦手です」
「そうですか、わかりました」
カインは、剣をふるいながら、ジェシカに近づいていく、そして、ジェシカを抱き上げた。
「おい、逃げる気か?」
「その通りです」
「カ、カイン、二階から飛び降りるの?」
「はい、私の体は丈夫ですからご安心ください」
「心の準備ができないわ」
「それなら、口を閉じていればいいですよ」
カインは、剣を振り上げながら、窓際へ行く。
「では、カルミナによろしく言っておくといい」
カインは、窓に手をかけ飛び降りた。
(キャー)
下に落ちる感覚がする。だが、それも一瞬だった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
カインは、そのまま、ジェシカを抱えて走り出した。
キャピレット領から、すぐに出なくてはいけない。カインが思っていたのは、それだけだったようだ。
「カイン、カイン、街で、服を着替えた方がいいわ、この服では、目立ってしまうわ」
「わかった」
カインの騎士の格好と、怪しまれないように着ていたネグリジェでは、目立ってしまう。今は、夜、ばれはしないが、日が出たら、すぐにばれてしまう。
そこに明かりのついた店があった。
「こんばんは」
「あらら、こんな夜更けに駆け落ちですか?」
「ええ、まあ」
「お貴族様は、好きなやつと結婚できないからな、見たところ、騎士と嬢ちゃんか、よく見る組み合わせだな」
酒を飲んでいるおじさんがそう言った。
「駆け落ちだと言ったって、道具がないんだろう、それで、この明かりにホタルみたいに寄ってきたと……」
ジェシカは、酒臭い息に少しだけ離れてしまった。
「そうです」
「金目の物は?」
「ドレッサーにあった指輪です」
「こりゃあ、エメラルドってやつではないか? 服と食べ物と道具をくれてやるよ、俺は、困っちゃあいないからね」
「ありがとうございます」
カインが頭を下げた。
早速、店の中で着替えた。ジェシカは、よくある若草色のワンピースで、カインは、黒いチュニックにズボンと言うラフな格好だった。
「お前たち、庶民見たくなったな」
「そうですか?」
「ああ、丁度いいな」
お店のおじさんは、明るくそう言って、また酒に手を出す。
「ありがとうございました」
「おうよ」
二人で、外に出ると、少しばかり明かりがさしこんできていた。
「急いで、キャピレット領を出よう」
「はい」
ジェシカは、走ろうとして転んでしまった。
「あなたは、昔からドジですね」
「えっ? 今、なんて」
「いいえ、何も言っていませんよ、さあ、お手を」
「は、はい」
カインに手を握られて、歩き出した。
しばらく歩くと、キャピレット領から出ることができた。キャピレット領で見つかったらならば、キャピレット家の者に裁かれることになる。たぶん、罪は、カインの誘拐罪だろう。
「ここからは、歩きづらいですよ、気を付けて下さい」
「はい」
道は、だんだんと自然が増えていく。
(森に入るんだわ)
ジェシカは、心の中で、決心を固めた。
逃亡生活の始まりだった。
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