次の日、ケリーが仕切りに、ジェシカが狙われている事を心配していたので、護衛が付くことになった。

「私は、騎士団の男だ。カイン・マイトと言う、ジェシカ・キャピレットの護衛を任された。今日からよろしく頼みます」

 その男は、美しい金髪に宝石のような青い目をしていて、名前を忘れた王子様のようだった。

(落ち着いて、そういう人は、この世界には、たくさんいるのよ)

 人違いだったら、迷惑だろうとジェシカは思っていた。

「ジュリエット孤児院の出だと聞きました」

「ええ、それが、何か?」

「いえ、孤児が貴族になるのは、大変なことでしょうと思いまして……」

「そうね、大変ですよ」

「そうですか、では、外にいるので、いつでも呼んでください」

「はい」

 カインは、正直に言うと、好みのタイプだったのでドキドキした。

(私の王子様、ごめんなさい)

 ジェシカは、心の中で謝っていた。そこにケリーが現れて。

「ジェミナ様が騎士を手配してくださりました。よかったですね。これで、嫌がらせの悪党をつかまえられますね」

「ええ」

「では、そろそろ、キャピレット一族とご対面するのはどうですか? 皆さん、お待ちしておりますよ」

「一応、血のつながった家族ですものね」

「はい」

 ケリーは、ニコニコしてそう言った。しかし、本当にキャピレット家の人が歓迎してくれているのか、正直分からないので、少しばかり怖かった。

(ううん、大丈夫、キャピレット家だもの)

 あれほど、本で憧れた、ジュリエットのもとになった家なのだから。

「こちらの部屋は、客間です。皆さんこちらに集まっておいでです」

 ケリーがそう言って白い花模様が入ったドアを開けた。

「あら、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 部屋に入ると、白い家具がたくさん置かれていた。金色に縁どられた立派な物が多く、本が並んでいる棚には、カラフルな背表紙で何冊も本が並んでいる。机に乗っている、陶器の卓上ランプは、花模様で美しい。

 目の前に立っている女の人は、肩までかかった黒髪が美しい女だった。妖艶な雰囲気を纏い笑っている。

「カルミナと言います。あなたの叔母に当たる人よ」

「叔母ですか、よろしくお願いします」

「ええ、あなたは、キャピレット家の一員ですもの、大事にいたしますわ」

 カルミナがウインクした。すると、後ろにいた、背の高いきれいな男の人が手を差し伸べてきて。

「カルミナは、わがままだから、仲良くしない方がいいよ、私は、ジェミナと言う、あなたの叔父にあたる人だ」

 美しい銀髪に、年の割に若く見える顔をしていたので、少し見とれてしまった。

「叔父ですか、よろしくお願いします」

 失礼のないように頭を下げた。

「あら、ジェミナ、私がわがままなんて言いがかりよ」

 カルミナが怒っている。

「事実だろ、いつも執事のフェドムさんを困らせているのだから」

「ふん」

 カルミナは、そっぽを向いて、テーブルの飲み物を取った。

「ジェシカさん、ここの暮らしはどうだい?」

「素敵ですよ、孤児院とは、まったく違うのですもの」

「一応、貴族だからね」

 ジェミナがウインクした。

(キャピレット家の人って、ウインクする癖があるのかしら?)

 そう思って、見つめていた。

「大体、ジェミナは、ジェシカに騎士を付けるなんて間違っているわ」

 カルミナが酔っぱらっているのか、大声を出した。

「カルミナ、昼から酒はだめだと言っただろう」

「置いてあったんだもの仕方ないでしょう」

「フェドムさん、あなたですね」

 そこには、フェドムと言われた、だいぶ年を取った男の人がいた。白髪と白い髭を見た限り、苦労していそうだと思った。

「すみません、カルミナ様には、逆らえなくて……」

「仕方ない、カルミナは、ベッドに運んであげなさい」

 ジェミナがそう言うと、たくさんの人が入ってきて、カルミナを連れて行ってしまった。

「ちょっと、ジェミナ~!」

 カルミナの遠吠えのような声だけが響いた。

「さて、ジェシカさん、騎士の方の名前は聞いた?」

「はい、カインと名乗っていました」

「そう、彼は、カインと言うんだ。身分は高くないが、腕は確かだから、安心してね。彼は、特に騎士道精神が強いから、主人にかみついたりしないからね」

ジェミナは、またウインクした。

「そ、それは、よかったと思います」

「うん、うん、仲良くするんだよ」

「は、はい」

「それでは、ジェシカさん、君の服をあつらえなければね、いつまでも、庶民の服と言うわけにもいかないからね」

「そうですよね」

「お金は、心配しないで、一応貴族だから」

ジェミナは、嬉しそうにそう言った。

「ケリー、君は、今日暇かい?」

「は、はい」

「では、買い物に行こうではないか、もちろん、ジェシカさんも行くんだよ」

「は、はい」

 ジェミナに言われるままだった。

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