6.襲われた村(お題:冷たいゲーム 必須要素:暗黒の瞳)

 蹂躙は一瞬だった。


 我々は何も見えないまま、彼らに打ち倒された。


 

 ※※※



 その見慣れぬ男たちは、昨夜突然、この村を襲ったのだ。


 いや……果たしてあれは『男』であったのかどうかすらわからない。


 やつらは決まった形に定まっていないようだった。


 われわれと同じように歩いているように見えるが、その輪郭は絶えずぼやけて、とげとげしい触手を周囲に撒き散らしていた。やつらが集団になるとその傾向は一層つよくなり、巨大な泥のかたまりのようになって、互いに接続されていた。


 まず襲撃されたのはマーサの家だった。

 悲鳴を聞きつけて私が家から飛びだすと、あの一塊になった集団がマーサの家を呑み込んでいた。

 その中心からは、マーサの苦悶と恐怖にあえぐ声が絶えず響いてくる。


「マーサ! 大丈夫か! マーサ!」


 私は叫んだが、彼女にその声は届いていなかった。やがて断ち切られたように悲鳴が途絶えると、不定形の襲撃者はいくつもの塊に分裂し、次の襲撃にうつろうとした。


 私は家にとってかえし、護身用の武器を準備した。

 サイコ・ガンだ。

 強力な指向性の念波を照射し、相手の精神を丸ごと破壊する。

 

 銃を手に取ったのと、扉が開くのとは同時だった。

 振り返ると、そこには黒い霧に包まれた男が経っている。


 私は撃った。青い光が銃口から相手に向かって伸びていった。


 炸裂。


 閃光。


 そして――


 ああ、なんてことだ。


 彼はぜんぜん平気そうな顔をして、そこに立っていた!


 そんなバカなことがあるはずもない。


 私は何度も何度も引鉄を引く。サイコ・ウェーブが夜の闇を引き裂いて飛んでいく。

 

 しかしすべては無駄だった。奴はその巨大な破壊の渦をまるで気にするでもなくこちらへと近づいてくるのだ。


 私はもう勝てないことを悟った。


 至るところから悲鳴が聞こえてくる。


 ゆっくりと手が伸びてきて、私をつかみ、締め上げてくる――


 薄れる意識の中で、私が最後に見たのは。


 なんの感情もない、彼の目だった。


 まるでぽっかりと空いた暗闇のような。


 ※※※



「駆除は終わりましたかね」


 老人が問うと、エンジニアはうなずいた。


「ええ。これで問題ないでしょう」


「しかしまったく! 農具用ロボットが自我に目覚めるとは」


「あまり集団で生活させないことですな。それがトリガーですから」

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