5.面影さがし(お題:記録にない妹 必須要素:即興イラストのステマ)
彼女とのなれそめですか?
ええ、ええ、いくらでも話せますとも。
少々話が長くなりますが、よろしいでしょうか?
わかりました。
ご厚意感謝いたします。
それは本当に偶然でした。
ご存知のとおり、私は似顔絵描きです。
あちこちを旅してまわりながら、道行く人々の似顔絵を描いて幾何かの金を得る――
よく言われます。なぜそんな根無し草のような生活をするのだと。
まだ若いのに、将来はどうするつもりなのだと。
ですがそもそもからして、この仕事を選んだのも、生き別れた妹を探すためだったのです。
私は妹が好きでした。
幼少期、両親に殴られ蹴られする中で、ふたり身を寄せ合って慰めあってきたことを、いまでも時おり夢に見るのです。
ある日、児童養護施設の人がやってきて、私を連れて行きました。
なぜだかその当時の記憶はおぼろげでした。父も、母も、その時はもういなかったように思います。
そして、妹も。
その悲しみをご理解いただけるでしょうか?
私はなんども職員に訴えました。妹はどこにいるのかと。会わせてくれないかと。
しかし彼らは一貫して、「君に妹などいない」と言い聞かせるばかりです。
そんなことはない。そんなことは有り得ないと何度訴えても無駄でした。
彼らは私が妹について触れれば触れるほど、態度を硬化させ、時には私を用具入れの一室に閉じ込めたりもしたのでした。
私は施設を抜け出しました。
そうして似顔絵を描きながら、妹を探し続けているのです。
――今までに見つけた妹の数ですか?
ええ、もちろん覚えていますよ。これまでに24人です。
どの顔も鮮明に思い出せます。なんならここで描いて差し上げましょうか?
でも、不思議ですね。
一緒にいるうちに、みんな妹じゃなくなってしまうんです。
妹とは違う顔、違う表情を見せるようになってしまうんです。
そのたびに私は、新たな妹を探しに行きました。
前の妹を地面に埋めて。
ねえ、刑事さん。
本当の妹は、いったいどこにいるんでしょう?
そういえばあなたも、
どことなく似てますね。妹に。
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