3.ファミレスの苦悩(お題:ラストは何か 必須要素:即興小説のステマ)
「どうしても書けないんだ」
深夜のファミレス。男はそう言って頭を抱える。作務衣の上に綿入りの半纏という、妙に時代がかった風貌だが、苦悩の皺が刻まれたその顔はまだ若く、20代後半といったところ。
「どうしたらいいのかさえ分からない。もう終わりだ。破滅だ」
ぐちぐちと男が吐き続ける言葉は重く湿っぽくねちっこく、能天気な店内BGMと絡み合って、不愉快なハーモニーを奏でていた。
男の目の前には、金髪の青年が座っている。ジャンパーとGパンといういで立ち。年齢は同じく20代後半だろうか。ドリンクバーのコーラをストローで飲みながら、みょうに覚めた目で向かいの男を見つめていた。
作務衣の男は、ことさら悲痛な声を――芝居がかってきたのを隠そうともせず――絞り出す。
「なあどうしたらいい? 松山。もうダメなんだ、こんどこそ、ダメだ」
「はいはい、いつものことだろ」
金髪をがしがしとかきながら、松山と呼ばれた金髪男の言葉はにべもない。
「ってか高口さぁ、いい加減グチ言うためだけに俺を呼び出すのやめてくんね? 暇じゃねえんだよ、こっちも」
そう続ける松山の言葉に、作務衣男――高口はまるで、この世の終わりみたいな表情になる。
「グチじゃあない! 苦悩だ! 共有できるのは君だけなんだ。君しかいないんだよ……そんなことを言われたら俺はどうすれば」
「猫でも飼え。じゃあな」
腰を浮かしかけた松山の手に、高口はすがりつく。
「待ってくれ! 行かないでくれぇ! お願いだぁ!」
つかんだ手に全体重を載せ、そのまま机に突っ伏す。
「ちょ、離せって!」
「嫌だぁ! 僕を一人にしないでくれ! 僕の苦悩をわかちあってくれ! そして慰めてくれ! 褒めてくれ! そして一緒に考えてくれ! あとついでにドリンクバーおごってくれ!」
「どんだけ図々しいの!?」
「おおおあう、うわわわああお」
ついに人間の言葉すら放棄した高口。ただでさえ人のほとんどいない店内に、彼の咆哮はよく響く。ウェイトレスが心配そうな顔でこちらを見ている。痴話げんかかしら。男どうしで? どっちが受けでどっちが攻めかしら――と考えているかどうかはわからないが、松山は苦々しい顔で結局席に座る。
「わかったわかったわかったよ畜生め。一緒に考えりゃいいんだろ。小説のラストをよ」
そう言いつつ席に座ると、高口の顔がぱあっと明るくなった。
「ありがとう。やっぱり持つべきものは親友だね」
「俺はお前を殺したいけどな」
松山は机に置かれていたパソコンを恨めし気に見る。
「で、あと何回やればいいんだ、これを」
「そりゃもちろん、僕と君が納得するまでさ」
パソコンの画面には、インターネットの画面が表示されていた。
『即興小説トレーニング』
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