&29 駄作の名案

 評議領官ひょうぎりょうかん議会が始まって3時間過ぎ。議題は国の南方で作物の採れ過ぎが起きているという問題。最初は別段困るような話ではなさそうではと思っていたが、聞いていると2つの問題が起きているようだった。要約すると、1つ目は量当たりの価格が低下している、2つ目は売れなかった品が通常以上に捨てられるということで。これについてリーネと農相の判断は一部を国で買い取り、難民や低賃金の家庭、孤児院に寄付という形で配布していくということだった。

 あり過ぎるというのも困ったことだよね。この世界だとよく理解してないが、加工技術が乏しい傾向みたいのがあったし。その辺、僕たちが今後取り組んでいくっていうのもありなのかな?

 頭の中の暇なときにでもリストに追加をしておく。実際に見えているリストじゃなくて、そんな感じで頭の中に作っているものだけど。


「いろんな分野で問題が起こるもんなんだな。農業に商業、政治にインフラってか」

「一国を支えるっていうのは各分野の問題が山積みになるから存在しているって感じるね。問題が見つかるっていうことは、改善・向上をしようと考え至ったからできることダし」


 一歩間違えて見方を変えれば、欠陥だらけとしか言えないけど、それについて意見が交わされ、結論を出していれば無駄な問題ではなくなる。よくテスト勉強でも、復習をするかしないかによって頭への定着内容・早さが変わってくるって言われているし。


「15時11分、一回目の休憩か。聞いていた通り手に入るのは水ダけで、その間も打ち合わせ。表情はまダまダ余裕そうダけど、大丈夫かな?」

「今が良くても、1時間後くらいにはアウトだろうよ。気づいたら一瞬だ。……近衛の兄ちゃん、本当に休憩時間でも食事を採ることが出来ないのか?」

「難しいな。議会中で休息も短いから、退席するのはできないし、出席者たちの前で食事を始めるというのも駄目だ。こりゃあ、どうしようもないとしか」


 普通はそうだろうけど。ただ、このままだとふと気を抜いた瞬間にあの形相が表に出てくる。なんとなくだが、それだけは防がなくては。

 でもなぁー。


「良い策が思いつかない。……タクはどう?」

「いんや、同じくだ。考えれば考えるほど渦の中。この場で食べられないっていう縛りがある以上、差し入れとかの作戦は捨てるしかねぇ。となると、あとは会議が早く終わることをいのるしかねぇよ」

「そうだよ……ね? ……ん?」


 今、タクが言ったことに引っかかることがあった。この場はダメで、ここ以外だったらいい。

 ―――もしかしたら。

 確認のため、近衛の男の人に聞く。


「議会は検討する内容を終えれば、早く終えることができるンですか?」

「出来ますよ。議会開始前に討議内容が挙げられているので、進行具合によって早く終わったり、その逆もなります。大体は長引くばっかりで、参加者全員が疲れ果てるというイメージですが」


 ほうほう。まさかとは思うけど、この考えで防ぐことが出来たりして。2人の意見を聞いて、策と言えるものではないが、1つ出来そうなことがあった。


「できるとはあまり思えないけど。良い策ができた。リーネに、『好きそうな料理を作って待っているよ』って伝われば、早く食べたいがために議会の進行を早めたりして」


 バカバカしいことだけど、意外と効くんじゃないかって思えてくる。だから提案をしてみた。しかし、目の前の2人は「えー」と声を漏らしながらありえないと引き気味の表情を向けてくる。

 なんだよ。


「いや……タクさ。確かに。確かに、あのリーネだったらその作戦で成功する確率はあり得るだろうけどさ……」


 タクにしては、歯切れの悪い言い方だ。いや、他に提案できそうなことないし、ここは試してみるもんじゃない?

 やってみて後悔っていう言葉があるしさ。

 僕が理解できてないと分かったのか、タクは右手を顔の前でぶんぶん左右に振る。


「いやいや! 本当にわかってないのか、ハルさんよ!!!」

「どういうこと? 何も間違ったことはないと思うんダけど」

「間違いがあるだろうよ。よく考えてみろ! 今リーネがやっていることはなんだ?」

「簡単に言えば国政ダね」

「はい正解! じゃあ、次の問題です。リーネの役職はなんでしょう?」

「王女だね。領官たちの前に座っている」

「はい、連続正解! さて、リーチが掛かったハルさんに最後の質問。その仕事の重要さは?!」

「あ……」


 僕は一瞬で彼らから顔を背ける。いや、分かっていたよ。彼女は大変優秀な王様で、今も絶賛お仕事中。国のため、民のため、自分の力ある限りという姿勢で頑張っていらっしゃいます!

 でもさ。ほら、タクも判っているだろ? あの顔になるといろいろヤバくなることが。全体への影響もあるかもなんだよ!

 そんなことを内だけで反論しておいて、笑顔を送る。


「今日の夕食はなンダろうね?」

「逃れられると思っているんかよ! 証人は俺とおっさんがいるんだからな」

「ハル殿。お気持ちはありがたいと思うが、さすがにそれは」


 う、なんか完全アウェー状態。


「まぁ、人にはたまに間違えがあるものダって。ほら、気にしない! それより、今は経過観察ということで。その行く行くで作戦を実行するか決めよう」

「こいつ。……まぁいい、今は2回目の休憩まで待ってみよう」

「じゃあ、私も巡回に戻るので。次の急速に合わせてこちらに戻ってきましょう」


 今後の方針を決めて、1回目の天裏会議をお開きにした。



 それからさらに3時間後。議会を望むホームベースへ僕たちは帰ってきていた。緊張しながらも有意義な討論が出来ればと思っていたが、内容の主賓が変化を遂げようと始めていた。大臣たちの話を聞きながらも変に頬を引きつらせ、水のお代わり速度が倍加されている。2言ごとに1杯ぐらいだ。

 どうしてこうなった。


「俺たちが間違っていたのか。国政だからって、真剣に考えすぎていたのか」


 タクが自分の過去を否定し始めていた。


「いや、間違ってはいないと思われるが……私としても、危険だと」


 近衛の男の人も困惑の表情を浮かべる。彼がその表情を浮かべるのも当たり前だろう。近衛は王の近辺を警護しているから、対象の行動結果をよく理解している。事実、僕たち以外も、ウミーリルやその他の近衛、大臣の一部もヤバいという表情をうっすらと浮かべている。

 これはもうタイムリミットだろう!


「もう悩んでいる時間がない! 一か八か、ハルの言っていた作戦をやってみようぜ」

「リーネへ料理の話をお願いしていいですか?」


 近衛の人にそう言うと、彼は「分かったと」短く返事をして、隊長のウミーリルのところに行ってくると走っていった。

 そして残された僕たち。


「タク、僕たちは反応を見てから行動しよう。効果があるとも限らないし」

「おう。良さそうだったらすぐだ!」


 そうして、走っていった彼がウミーリルに内容を話すと、僕たちの方を見てくる。それに応えるように、僕たちは手を大きく振った。彼女は大きく頷き、リーネの方に向かっていき、大臣たちの邪魔にならないように代わりの水を運ぶメイドに何かを伝言するように指示をする。そして、それを受けた女性は、水を注ぐためにリーネの隣に立つと、王女の耳元で囁きかける。

 期待する反応を待つ。女性が全てを言い終わり、顔を下げようとする。

 ……きた!

 リーネの顔が、プレゼントをもらえることを知った子供のように『ぱぁ!』という効果音が付きそうな明るい顔を見せてくれた。


「よし、作戦開始ダ!」

「腕がなるぜ!」


 僕たちは戦場という名の調理場へ走り出した。

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