&20 王位に就く者

 王位継承けいしょう式を終えてから数日後、ノリアント国より北の隣国りんごくに挨拶へ向かう途中のこと。街道を進んでいると、30人ほどの集団が道端みちばたに控えていて、1人の男が道の真ん中で控えていました。

 先頭を歩いていた兵士たちが何があったのかと様子を聞きに行き、私たちは離れたところで待機することになります。そうして少しすると1人がこちらに走ってきました。


「陛下、お話が」

「どうしたのですか? あの方たちに何か?」

「ペラードからの難民のようです」


 彼の言葉を聞いた途端、私は複雑な気持ちになったのです。ペラードとは私たちが向かう予定だった国よりさらに北にある国で、現在でも戦が続いている国。始まりは今から2年前からですが、主に3つの陣営がいがみ合っており、どこも戦のためだと民に圧を多く掛けている様子でした。その結果、家族や村単位で他国に逃れてようとする者が増え始めたのです。当時出会った方々もこれに当てはまります

 その出会いまでは父がほとんど対応していたことから、私が彼らのような方々とお会いすることがありませんでした。王位に就く際、世界状況の大体は教えていただいていましたが、彼らを見た時、私はとても迷います。

 彼らを助けてよいのかと。

 父からは難民についても聞いていましたが、その際にこう言われました。


《お前ができると思う範囲で決めなさい。出来ない施しは愚王ぐおうの行為だ。目をつむることも時には必要なのだから》


 彼ら難民を助けようとすれば、私が命令するだけで簡単にできます。しかし、助けるのは彼らだけであって、その分掛かる費用などは国民に強いるということになります。さらに、その場で助ける行為をすれば、今後も受け入れていかなければならない可能性がありました。

 そのようなことをしてもいいのか。直ぐに誰かと相談したい気持ちでいっぱいでした。ただ、王としては自分で決めないといけないことなのではとも思いました。

 何もかもが分からない。どうすればいいのか。

 私は浅はかな考えで最初、その兵士に返答しようと口を開きかけました。彼らと会った様子で助けますと。しかしその時、私の心は躊躇ためらいを起こしました。同じ馬車に乗っていたトルヴァのせい……いえ、おかげですね。彼は一言も口を開かず、私の様子を見守っているだけの姿を窓の反射で観ました。

 それで、違うと考え至ったのです。

 開きかけの口を一旦閉じ、トルヴァの方に顔を向けて問いました。


「私はトルヴァやみんなの意見を聞きたいと思います。トルヴァはどう考えていますか?」


 そう言うと、彼は無表情だった顔を少しほころばせて、私にこう言います。


「私に聞かずとも、フィオリーネ様は既に王座に就く方です。命令されないので?」


 この言葉は、今では彼からの試練だったとよくわかります。その場で1人勝手に命令を出していれば、独裁どくさいを行う道、難民が逃れてきた国がしていることとなにも変わらないこと。

 一瞬は心が揺らぎましたが、私は意見を聞くことこそ大事だと決心します。


「私は彼らを助けたいと思っています。しかし、今後を考えれば、1人で決めては。父さまがそうであったように、私は民とともに国を良くしていきたいのです。この国は私だけのものじゃない。……だから、意見を聞かせてください、トルヴァ」


 この時、初めて王としての行動を深く考えました。

 できる限り民に強いることなく、一緒に考えていけるような国のためと。そして、王だから何でもしていい訳はなく、力を振るうときは民に還元されるときだけだと。

 それからは、トルヴァやその場に一緒にいた大臣などと話し合いをし、難民の彼らの対処を決めたのでした。

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