&21 とっておきは後程に

「彼らのその後は?」

「今もこの町内に住んでいると思います。出会ったときは他国に挨拶へ向かう途中だったことから、護衛ごえいを付けてこの町に向かわせていました」


 リーネは僕の方を見ながら話してくれている。そんな時、視線が彼女の後ろに行った。店から1つのグループが出てきていたのだ。

 あれ、もしかして……。

 しかし、リーネは話に夢中で、それに気づくことがなかった。


「帰ってきた私は、まず最初に彼らと会いました。そして、住む場所の提供といくつかの約束をしました」

「手厚くもてなしたンダね。住む場所までなンて」

「暮らす場所が無ければ、何もできませんからね。それに、そこには私たちにとっても利得りとくがありました」

「与えることで利益が出るのか? 自分が持っているものを渡すだけだったら、損しているとしか思えないが」

「そこに秘密が隠れていたのですよ」


 僕とタクは顔を見合わせた。今の話を聞いて、どうやって上手くいくんだ?

 タクも同様に思い当たることが無いらしく、顔がどんどん難しいようになっていく。時が進み過ぎると、腕組みを自然としてしまっていた。まったくわからない。


「お手上げだ! 分かんねぇ」

「僕も降参。魔法としか思えないよ。っあ、こっちでは魔統ダっけ」

「呼び方はお任せにしますよ。魔法が魔統と同じ意味だということは理解していますので。さて、答え合わせなんですが―――」


 彼女がうれしそうな顔で答えを言おうとした。この展開を待っていたかのように。こんな一面も可愛いと思えるところだ。

 そんな彼女の後ろ、また動きがあった。それは2つ。

 1つ目は、さっき店の中で残酷宣言をしてくれた店員さんが外へ出てきて、近くにいた護衛の1人に何かを話していた。話している内容は、あれだろう。

 そして2つ目は、リーネの顔の後ろ。ケティ―の顔が近づいてくる。彼女の顔はとても楽しそうに見える。絶対、良いことをしようとは思っていない。


「彼らに与えた家は―――んんっ!?」


 リーネが言おうとした口が突然、後ろから来た者の手によってがれた。彼女がすぐに僕から目を逸らして後ろにやる。ニヤッとした銀髪女性が……。

 自分の口をふさいでいるのが誰かと判ったリーネは、外そうと暴れるために右手を上げようとする。しかし、ケティ―はタクとリーネの間に分け入って、彼女の肩などを一緒に押さえる。


「その話は食事の席でのお楽しみということだ! ほれ、席が空いたそうだから。お店に入ろうじゃないか。それからの方が話も弾むというものだ」


 彼女はそこまで言うと、リーネの口にやっていた手を離した。


「んもっ! 口を塞ぐことはないじゃないですか。普通に言ってくれる程度という手段は―――」

「食事を終えた客が出てきていたことに気づかなかった方にはこうするしかないかなとね。いつも言っていることだが、少しは周りを気にすることもしなさい。話すのは楽しいことだが、状況を考えてやらないと迷惑でしかない」

「うぅ……はい」


 リーネはケティ―にお小言をもらって縮こまる。しょうがないとも思えるが、みんな笑うことで済ませる。そんなみんなを見て、彼女も笑顔になる。


「では、食べに行きましょう! 楽しい昼食の始まりです」


 勢いよく立ったリーネは先頭で店の扉を開ける。


「話はその途中にでもしましょう。話すことはたくさんありますし」


 リーネは鼻歌をしながら店の中に進んでいく。店の外にまだ残っていた僕とタクは、見合わせて苦笑いをする。


[まさか、違うよね]

[いや、一つの可能性としては残しておいた方が良いだろう。水も多く準備しよう。生き残るために]


 あのが行われるのではと怯えながら店に入ることになった。

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