&18 変装に使う工芸品

「なんだ。今日はリルが警護か。お前も来ると判ったら、連絡ぐらい寄こすように」

「いや、私も……今日の朝召集された身だったから」


 それは無理だなとウミーリルへ同情を始めるケティ―。

 その後、彼女たちは今からどこに行くかのことをこそこそ話し始める。遊ばれていたリーネもだ。

 しかし、こうして並んでいるところを見ると、確かにケティ―とウミーリルが姉妹であることが分かる。顔もそれなりに似ていて、目つきがちょっと違うくらいである。ケティ―の方が少しうっとりした目であるということだ。そこまで同じなら、双子だと思ってしまうほど。

 彼女たちを観て考えを巡らせていると、横からひじつつかれる。それに答えるように顔を向けると、たくみは小声でしゃべり始める。


[こうして観ると、意外とあの姉さんも美人だよな]

[はぁ。ほんとに、タクはそればっか。ちょっとは他のことを思わない?]

[他のこと? スタイルがいいっていうことか?]


 聞いた方がバカだった。

 何をやっているのかなと、なんとなくだが彼の頭を叩く。


[じょ、冗談だって。そこんところ判れよ]

[タクに言われたくない!]


 起きてから城での、挨拶のことを忘れてはいない。

 そうして話しているとケティ―たちの話が終わったようで、彼女は「ちょっと待っていて」と言い残し、2階への階段を上っていった。

 リーネはこちらの方に帰ってきて、一旦呼吸を落ち着かせる。やっと落ち着けるという様子だ。


「ケティ―さんはどうしたんだ?」

「今から市場に向かうと言いましたら、一緒にお昼を食べようとなりましたので、私の変装道具を持ちに行くと同時に着替えへ向かいました」

「……変装道具って。そのまま出るンじゃないンダね」

「それでは、城門から出ることと特に違いはありませんから。私には、お忍びで街に出るためのがあるのです」


 そう言って、彼女は小さくフフンと決める。

 正装って……そこまで言うものであるのか。面白いことであるのは確かだが、なんとなくそういうものだと受け入れる。

 10分ぐらいして、着替え終わったケティ―が戻ってくる。先ほどまで着ていた白衣とは違い、ピンク色の服と白のロングスカートだった。こう思ってはあれだが、表情ともよくマッチしている。

 そして、彼女の両腕には、薄ピンク色マフラーのようなものと眼鏡がある。まさか、これがリーネの言う……。

 ではではと言いつつ、ケティ―からそれらを受け取った彼女は、装着していく。眼鏡はたぶん度が入っていないものだろう。しかし、問題はやはり首に巻かれたものだった。


「ねぇ、リーネ。その首のって暑くならない?」


 こちらの世界にも四季があるそうで、今は向こうと同じく夏だ。そんな時に首へ巻物っていうのは……。

 そんな疑問を言った先、彼女はニコッとして一旦巻いたものを解く。そして、ハルートの首に巻き付けていく。


「これはルロというもので、この国の工芸品なんですよ。特徴としては―――」

 続きを言う前に、全てを巻き終わる。

 ……あれ?

 マフラーと違った違和感を持ったのはすぐだった。


「気づきましたか?」

「暑くならない。というか、着けてない時よりちょうどいいくらいに感じる」

「……? どういうことだ」

「えっと。例えるのが難しいンダけど……僕の状態に合わせてクーラーがあるみたいな感じ」


 どういう仕組みなのか。まったく分からなく、リーネに視線を送る。


「そのルロには【ダビー】という温度変化できる魔統を特別に付与しています。他にも実現するためにいくつかの魔統を組み合わせているのですが、話が長くなってしまうのでまたの機会に」

「便利なもんだな。そんなことまで出来るなんて」

「タクとハルが来ている服も同じようになっているんですよ」

「「えっ!」」


 特に気になるようなことが無かったので、意識が一瞬に着ている服に行く。

 ……暑くないね。

 改めでだが、驚きであり感動ものである。

 そうやって確かめていると、首に巻かれていたものが外されていき、リーネの元に戻っていく。


「さて、市場はすぐそこです。時間も時間なので、お昼に向かいましょう」


 玄関の扉が少しばかり勢いを持ちながら開き、またリーネが先頭でケティ―を加えた一行は歩き始める。

 全員が目の前の通りに出ると、ケティ―がカギをかけ、扉すぐ横に掛けられた診察しんさつ中とこちらの言葉で書かれた看板を裏返す。

 それを確認したリーネはおしとやかに歩き始める。これまでの行動とは違い、良いところの女性だと思われるように。

 後ろから見ているのでよくわからないが、両手も前に持っていってるようだ。こちらからして、違和感としか感じられない。

 その理由が気になって彼女の少し後ろまで進み、彼女の様子をうかがってみた。


(うぅ……)


 ……。

 彼女の顔は……ちょっと危険なものだった。さっきのいいところの女性というのは撤回てっかいに値するくらいに。

 手を前に持ってきていたのはお腹を押さえるためであって、顔はえていると言っていいのか、それとも堪えているという表情だった。つまりは、空腹の限界。お腹の音が鳴らないようにしているのだろう。

 気づかれないようにと、こっそり巧の横まで戻る。


[女性って大変ダね]

[レディーの前でそんなことを口にするなよ。俺はまだお前の死体を見たくない]


 殺されることなの?

 そこまで女性について巧ほど詳しくないので、彼の言う通りすることを決める。

 こうして、やっと市場がある通りに出たのだった。

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