&17 町へお忍びのため
「えっと……。この道はどこまで続いているのかな?」
「あとちょっとですよ。そうしたら、目的地近くです」
「近くになるだけなンだ」
「もう歩き続けて10分以上になるけどな」
城を出発して、この世界観から馬車に乗って移動するかとワクワクしていたのだが、扉を出た後に向かった先は
「どうしてこの道を通らないといけないんだ?」
「今回はお
歩いていく先に光が準備されているような整備された道ではないので、同行している近衛の1人が
「もう少しですよ……ほら! あそこの階段がそうです!」
リーネが指す先、歩いてきた道が登り階段に変化していた。
「あそこを上がっていけば、町一番の市場近くに出ることができます。そして、私お気に入りの食事処にも!」
「お気に入りって、どんな感じなんだ?」
「煮込み料理を専門にしているところでしてね。美味しさが
リーネの口からよだれが垂れそうになるほどキラキラした顔をして想像している。
聞く限りではとてもおいしそうに思える。特に、ちょっと薄めの味にされているということだ。濃いめの料理だとすぐに飽きてしまい、場合によっては飲み物を多く採ってしまう。
そして、一歩一歩階段を上っていくと、扉のような所から光が
「ケティー、いますか? フィオリーネです」
一言、そのようにドアに先に聞こえるであろう声で呼びかける。すると、それに答えるように扉からは少し離れたところで靴の音が近づいてくる。走るようなものではなく、落ち着いている。
そして、ガチャッとドアに掛けられていたカギが開けられる。
「もう、来るのなら連絡ぐらい
「いいでしょ。あなたを信頼しているということですよ」
「随分と聞こえがいいような感じですが……まぁ、いいでしょう。どうぞ、フィオリーネ様」
ありがとうと短く挨拶すると、リーネが入っていく。彼女が部屋の中に入ったことでケティ―という人を見ることができるようになった。逆光であるが、目を細めてみてみると……あれ、髪の色が。
「……はぁ。他のお客様がいるなんて想定外でした」
ケティ―という銀髪の女性は、巧とハルートを見てため息をつく。
彼女には覚えがある。リーネをこちらの世界に運び込んだ時に診ていた医師だ。まさか、彼女の家に出るとは。
「こんにちは。お会いするのはこれで2度目ですね」
「僕たちのことを覚えているンですか?」
「えぇ。この子がお世話になった方ですよね」
「ケティ―は記憶力が凄いんですよ。患者さん全てのカルテを覚えるほどで」
そんなことはないと、優しい微笑みを彼女はする。その対応は、子供連れの母親のようだ。
しかし、彼女の特技はすごい。患者の数がどれほどかは分からずとも、それぞれの状態を頭の中に残しておけるというのは驚きものだ。
巧も驚いたらしく、口から洩れる。
「うへー、便利だな! テストのときにそれがあれば満点を取れそうだ」
「期末の点数があぶなかったもンね」
彼の言ったことに苦笑いする。
そうやって、ケティ―について良い面を言う一方、次には違う面を言い始める。
「ただ、それがたまに恐ろしいことなんですが……」
ハハッと小さく笑うリーネの顔に影に覆われる。
「……なにか恐ろしいことが?」
「お、おい! 失礼ダって。どうして、毎回考えずに言っちゃうかな」
「いやいや、そんなことはないんだけどね。彼女の小さい頃のことで―――」
「ちょーっと! その口を閉じてください。言ってはダメですってば!!!」
先程まで、部屋の中ほどまで歩いていたリーネがケティ―の言葉を聞いて、急いで戻ってくる。そして、彼女の口をどうにか塞ごうと両手を伸ばす。その顔と言ったら、必至である。
その光景を見て、大体の理由が分かった。
「「そういうことか」」
つまり、今口を塞ごうとしている彼女が恐れているのは、自身の過去についてだ。あの時にリーネを診ていたということは、彼女を小さい頃から知っていてもおかしくない。
「言っていいのでは? 今回倒れた罰として」
「そ……それとこれとは、関係ないことです! 絶対に言ってはダメですよ!!! た、タクとハルも、聞いてはいけませんよ」
こちらを一回だけ振り向いてそういうと、改めてケティ―の口を閉じようとする。
そうやって巧とハルートが階段出口で部屋の様子を眺めていると、後ろから声が飛んでくる。
「あの……すみません。そろそろ、前に進んでいただけませんか?」
後ろには、ウミーリルを先頭とした近衛隊3人が待っていた。すみませんと言いながら巧とともに部屋の中に進んでいくと、彼らも入ってくる。
そして、部屋の中で遊んでいるか焦っているかわからない状況を見た彼女は、その光景にあきれ顔になる。部下の方は、それを見て苦笑いだ。
「先ほどから騒いでいると思ったら、何をやっているのですか。リーネ様と姉さんは」
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