&16 お昼までのタイムリミット
着替えをしてみると、なんともピッタリの大きさだった。夢だと思っていた内容には採寸をしたなんてことがないから、誰かが寝ている間になんと思ってしまうほどに驚く。
持ち物としては、今はスマホだけで十分。机の下には登山の時に背負っていたリュックが置いてあるが、それほど必要なものではないので置いていくことにした。
この螺旋階段は、1周回るくらいに各階に通じている構造になっているそうで、3階ぐらい降りるまでにいくつもの部屋が並んでいる光景を目の当たりにする。事前に城だということを聞いてても、本物の迫力はすごい。そして、4階くらい降りたとき、これまでの通路と部屋の階と違い、広い空間とその先に大きな扉のある所にたどり着いた。
「意外と早かったじゃねーか。
「しょうがないダろ。寝心地良かったンダから」
「ふふっ、よくお眠りになったそうで良かったです」
扉近くの
見るもの見るものが異世界だと思わせる
今日のリーネは、白のワンピースに黒の
「うん、本当に気持ちよかった。今夜寝るのが待ち遠しいくらいダよ」
「おいおい。もう夜のこと考えているのか? 寝ることばっかり楽しんでいてもしょうがないだろ」
「ま、まぁそうだけどね」
あくまでお世辞として言ったことであったが、親友に突っ込みを入れられる。それなりの付き合いなんだから気づいてほしいところである。
「それで、えっと。そこの方々は?」
「今日、私たちの
リーネの紹介があると、1人の女性が一歩前に出てくる。肩ぐらいの長さがある銀髪をした彼女は黒のジャケットのような上着を着ており、下は白のズボンという感じ。
「お初にお目にかかります。
シルバーさん?
髪色が銀色であることが関係あるのだろうか。異世界だから言葉の違いがあるはずだけど。
「よろしくお願いします。僕のことはハルと呼ンでいたダければ。えっと。シルバーさんの、その
「苗字……ですか?」
「はい、シルバーというのが、僕たちの世界では色を表しているので」
「あぁ、家名のことですね。その通りです。シルバー家の者は、この髪色をして生まれてくるのです。他にこのような髪色をした家は無いので、シルバーと」
彼女の言葉を聞いて、ある人を思い出す。
……ということは、リーネを運び込んだ時に診ていた人もシルバー家出身ということか。
「驚いたろ? 俺もさっき聞いて、こんなことがあるんだなって思ったんだ」
「っていうことは、驚いた理由も話したンかな?」
「あぁ。リーネにしっぽり質問されたが……」
巧の横、彼をヘトヘトにさせた張本人はニコニコとしている。向こうの世界について新たな事を知れて、満足のようで。興味があることはいいのだが、リーネの場合、一方的な質問をしてくる。相手にされた者の
そんな彼女は紹介が終わったことを合図に、巧とハルートの間へ分け入ると同時に腕をつかみ、歩き始める。
「では、いきましょ! おいしい物がたくさん待っていますよ」
突然腕を引かれて一瞬は倒れそうになるが、どうにか立て直して引かれるがまま扉に向かっていく。
「あぶな!」
「リーネ、ちょっと待って!」
「急ぐのですよ! お腹空いて、しょうがないのです」
扉前まで行くと、両サイドに立っていた男たちが扉を開く。人が通れるほどまで開くと、引っ張られるまま扉を通過することとなった。
「歩くから、歩くから! 倒れそうダから」
そう言うと、リーネは掴んでいた腕を放す。
お昼がそんなに楽しみなのか。寝る前に食べた食事の時と言い、意外と彼女は食いしん坊なのかもしれない。
同行してくれるシルバーさんたちを観てみると、どうしようもないというかのような顔をする。もうこれは、慣れるしかないのかな。
そう思いながら先頭を歩くリーネに視線を戻す。彼女は満面の笑みで後ろ歩きしながらこちらを見てくる。そして、右手を高く上げ、
「今日は楽しみましょう!」
彼女の可愛さもあるが、本当に魅力的である。
巧の方を向いてみると、彼もこちらを見ていた。たぶん、思っていることは同じなのだろう。
「まぁ、帰れるかはわからないけど」
「異世界を
リーネの横に並ぼうと足を進ませる。
この世界のことを知っていけば、早く帰ることができる方法を思いつくかもしれない。それを含め、満喫・街巡りの始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます