&12 本物の親睦の『定義』とは

 そんな動きがあった中、ベッドの上に座っていたリーネにはそろそろ限界だった。

 自分の顔が完全に笑っていることを理解し、それの理由も理解している。原因は目の前で話している2人。


(やっと、やっと話すことができる)


 彼女はベッド近くに置いてあったくつを履き、ニナリンゼのそばをスッと通っていく。歩みはまっすぐに話し合っている異世界からの2人へ進んでいく。横を通り過ぎていったリーネをニアリンゼが目視し、彼らに近づいていくのを見ていると、これから何が起こるのか分かった彼女は額と左目が隠れるように手を当てる。

 リーネの行動は、珍獣ちんじゅうを捕まえるかのごとく動き、盗人ぬすっとのようでもあった。近づくにつれて両手を前に出し、狙いを見失うことがないようにする。そしてたくみとハルートの横まで来ると、彼らの自分に近い腕をつかんでニッコリ。


「ど、どうしたンダい?」

「……やっとお話しできますね」


 彼らから見ると、ちょっとうつむき顔になっていた顔が少し少しと起き上がってくる。そこには、笑顔を通り越した顔で目を異様に光る。

 ホラー映画の作中一番驚くシーンに相当する恐怖。腕をつかむ手も力が入って、逃す気はないかのようだった。


「お、おは、お話とは?」

「それは―――」


 今にでも一歩身を引きたいという感じをさせる巧は尋ねてみる。それにリーネは、彼らの目を見ることができるまで顔を上げ、口を開ける。その顔は―――ゴクリッ。


「公的なお話が終わり、体調も元通り! これからは、親睦しんぼくの時間ですね!!!」


 輝いていた。


「あちらの世界についていろいろ教えてください。私があなた方と出会った場所にあった建物は何なのですか? 普段食べているものは? 移動手段は? どのようなことを小さいうちから学ぶのです?」


 彼女の質問はボクサーのパンチように、相手を逃すことなく飛ばしてくる。それに、少し少しとつめってくるので、いよいよ巧とハルートも彼女とは反対側に足を進ましていく。単純に圧倒されて離れるという理由もあるが、可愛い女の子が近づいてくるのである。男としては、無意識に離れてしまっていた。


「あのー。親睦、ですか?」

「どうです、親睦! 互いのことを理解することは真の意味で親しくなることを示しています。さぁ、教えてください!!!」

「えっと―――」


 傍から見ていたニナリンゼは彼女の言ったことと今を比べて、完全に一方通行な状況だとしか見ることができなかった。言い詰められる2人は完全に苦笑いを浮かべている。


「陛下、彼らに興味を持たれることはよろしいですが―――」


 ニナリンゼが助け舟を出そうと口を開こうとすると、一瞬にして彼女の方にリーネの顔が向いてくる。


「いえ、興味があるのは2人ではありません。彼らのについてです。そこは、間違えてはいけないところですよ!」


「「はっきり言われたー!?」」


 なんとなく彼らには分かっていたことだったが、はっきり言われてはテンションパラメータの急降下をせざるえなかった。


「そ、そうなのかよ……」

「まぁ、分かっていたことダったけど……」


 期待と喜びを全面に出す少女と地面に沈んでいきそうなほどの落胆らくたんを浮かべる少年2人。異様過ぎる光景である。もしこれを会話をする環境だと言える者が存在するなら、相手は逃げ出すだろう。

 こうはなると、いつもの状況を知るニナリンゼとしては腕を掴まれている彼らの同情するしかなかった。


「ま、まぁ。そのお話は後程として。彼らもここに来て随分になります。もうそろそろ帰らなくてはいけないのではありませんか?」

「あ、そういえば確かに」

「リーネ。こっちの時間と向こうとはどのくらい違うんだ?」

「えっとですね、1日の長さは同じくらいです。私も驚いたんですが、調べる過程かていで眷属に町の方へ行かせたら、こちらとまったく同じように時間を表すものがあって」


 それを聞いてハルートはすぐにそれが何かを理解する。


「こっちにも時計があるの?」

「あれをトケイというのですか! こちらではタクターと言うんですよ」


 またまたスイッチが入りかけたようで、ニナリンゼが咳ばらいをして話がれないようにする。それにリーネは、彼女の方に向いてほほふくららます。可愛らしいものであるが、苦笑いを継続。


「ということは、こちらも24の時に別れているンダね?」

「そうです! 私がこちらを出た時間が確か……21時40分頃。ニナリンゼ。あなたがタクとハルに会ったのは大体どのくらい?」

「そうですね。こちらに着いたのが23時近くでしたので、そのくらいかと―――」


 ニナリンゼはそう言っていると、上着のポケットに閉まっていた銀色の丸く平べったいものを出す。上に突起物とっきぶつが押されると、上面が開き、中に時計が出てくる。


[確かに、同じだな]

[こんなこともあるンダね]


 彼女の時計に自然と全員の視線が向かう。


「今が0時21分です」


 ニナリンゼから時間を聞くと、今度は巧とハルートにリーネの視線が向いてくる。それにハルートは、時間を聞かれていると判断する。


「ちょっと待ってね」


 そう言うと、ズボンのポケットに閉まっていたスマホに手を伸ばす。そして、手短にホーム画面の時間を確認する。


「僕たちの時間ダと18時21分になっているね。っということは、6時間差。夏ダからいいけど、もうそろそろ暗くなちゃうね」

「おい、それはちょっとヤバいだろ。リーネ、あのゲートは他にも―――」


 リーネの目はスマホに向いていた。この調子では話が終わるのはいつになるのか。彼女以外の全員がため息をついた。

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