&2 似合わない登山コンビ

 さすがは夏だという感じとなる。

 登り始めて1時間つかと思われるとき位で、ザックの横網に差していた500mlペットボトルの中身は空になりそうになっていた。それ以外にも水分を持ってきてはいたが、飲む目安を設けなく消費している。

 そして、運動していることと暑さも加わることで、汗が止まることがない。現在着ている服の背中と首近くなんかは、すごいことになっている。たくみの黒髪は汗でぺっしゃんこになり、藍色あいいろのランニング用長ズボンと白色のウェアーは先程の通り。


「なんとなくかっこいいハルー。随分ずいぶん登ったと思うんだけど……頂上はどこなんだ?」

「なんとなくってなんダよ。ンっとね……ここに41合の石があって、頂上は50ごうダから~。休みなく行けば、あと30分ぐらいで到着するンじゃないかな」 


 数歩先を登っていたハルートは後ろにいる巧に苦笑いながらも、現実をしっかり突きつける。そんな彼も、巧ほどではないが汗を流しており、ハーフである彼の特徴の金髪は輝いている。黒色のランニング用長ズボンと青色のウェアーは汗をしみこませ、なんとなくだが、彼の魅力を高めているようだった。

 彼らは現在、登山中である。周囲からはセミの大合唱が続いており、たまに他の登山者と出会う。夏であり、運動をするには打ってつけの季節ではあるが、普段から登山をするような彼らではない。高校の部活では二人とも陸上部で、巧は長距離、ハルートは短距離&走り幅跳びを専門としている。つい2週間ほど前にも地区大会が行われ、2人とも県大会へとこまを進めていた。

 間違っても登山部ではない。そして、合宿や特別メニューなどで今回のようなことを行っているのではないのだ。


「やっぱり、ボーリングとかにしておけば良かったか。ここまで暑くてつらいとは思いもしなかった」


 巧の足は、踏み出すには登り始めより弱く、ペースも落ちていた。


「まァ、登山で使う筋肉は陸上のとちょっと違う部分があるからね。競技によってもダけど」


 同じ距離を登っているはずではあるが、ハルートの顔は笑顔に、巧の顔はドッとした疲れ顔を描いていた。やはり、慣れないことはしっかり準備をして臨まなければ痛い目にあうということを今回のことで再確認した巧はまた一歩、頑張って右足を次の段に出す。


「ハルさーん? そろそろ休みに入ってみてはどうでしょうか?」

「10分前にも休んダよね? 巧の場合、1回の休みが長いし、乳酸にゅうさんをため込んでいるようなことをやっているからそうなるんダよ。登山のペースも守らないし。長距離でたくわえた知識はどこにいったのでしょう?」

「……関係することはな―――」

「関係する。運動の重要な根幹こんかん部分ダし」


 巧は変に悶絶もんぜつするような声を上げるが、足を止めることはなかった。彼も一応はスポーツマンであり、やり始めたことは最後までやり切ることを決めていたのだ。そんな彼を知っているからこそ、ハルートも甘やかすことはないのだが。

 そんな負けず嫌いな面を持った巧でも、やっぱり頭の中では、小さな後悔が世界一周旅行をしていた。そして、その中でも、今回登るきっかけを振り返り始めていた。

 内容としては次の通りだ。

 昨日まで1学期の期末テストがあり、最近はテスト勉強くしだった。最後のテストである歴史のテストを終えた後の解放感と言ったら心地よいもので、何かをやりたくてはたまらない感覚に陥っていた。そんな巧を見ていたクラスメイトであり、中学から親友のハルートは提案をしたのだ。


 《気分転換に、自然の中とかへ行ってみない?》


 机と問題冊子、ノートが最近までの相棒だったことからも、巧にとってはとても良い提案だった。次の日が天気のいい日であることは、さらに彼の思考を進ませ、その場で実施を決定した。やる内容は、提案したハルートに考えがあるというので任せてしまい、夜に必要なものなどがまとめられたリストがスマホに送られてきたのだった。彼はただ、ワクワクするだけで眠りについていたのだ。

 結果はこのようになったのは、自業自得じごうじとくなのだが。


「さァ、あとちょっと。頑張ろ~!」

「うぉ~」


 低い応答が周囲に聞こえるだけだった。

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