バックサイドの無魔力コンビ

桜空みかたまり

人助けがたまに災難

&1 異世界からの"観光客"

「……まったく同じ」


 少女が見つめる先には、大陸の形が表されていた。

 場所は町から少し離れた少し大きめの家。2家族は暮らせそうな広さであるが、今は彼女と50代だと思われる男だけ。金属で造られた物が部屋半分に置かれている中、彼女たちは調べていた結果を見続ける。


 「こんなことがあり得るのでしょうか? こちらの世界と同じような形の大陸が存在しているなんて」

 「あり得るもなにも、この結果が示していることに間違えは無いと思います。私たちが暮らしている以外のところの形も同じだそうですし。でも、見たことがない所も―――」


 その後も静かに見続ける少女。そんな彼女を心配してか、男が口を開こうとする。しかし、彼が言おうとする前に、いきなり彼女は立ち上がる。手にしていた地図を放すことなく左手に持ち、右手を握りしめる。


 「決めた。私、行ってみます!」

 「お、お嬢様!? いけません。向こうの世界がどうであるか、何が起こるかわからないのですよ!」


 男も立ち上がり、少女を止めようとする。しかし、少女は彼に先ほどの地図を見せる。


 「あなたと見た通り、向こうの世界のことを調べました。そして、これまでに何回と使い魔を用いて行き来できるように創り上げてきました。安全であることは明確です!」

 「た、確かにそうですが―――」


 男はなおも食い下がる。いつものことながら……しつこい。

 少女は地図を近くの机の上に置き、男に目を合わせることなく彼の横を歩く。


 「行くって言ったら行きます! そんなに長い間、行くつもりではありません。せいぜい2時間くらいです」


 2時間でも長い気が。男は心の中で何となく突っ込みを入れてしまった。

 少女は男をよそに、事前にまとめていた小さなバッグを持つ。そして、金属でできた物の前に立ち、手を動かしていく。うちに全体が稼働かどうし始めて、左側にあった小さな部屋のようなくぼみに光が大きくできる。それは、人ひとりが通れるくらいまで大きくなり、大きさが止まると先に緑が見え始めた。見た感じ、森が広がっている。


 「ゲートの方は安定してますね。では、行ってきます。少しの間、留守るすをお願いします」

 「お、お待ちく―――」


 よしっと言いながら、男の言うことには耳を傾けず、少女は光の中にワクワクしながら踏み入れていった。入っていくにつれて順々じゅんじゅんに体が見えなくなり、すべてが消えると1分後には光が小さくなる。そいて、リンゴくらいの大きさになるとちぢまりが止まり、宙に浮いているようになった。

 


 光を抜けていく。先程までいた部屋とは一歩で移動できる距離で、肌に伝わる温度はジメジメしていた。

 周りは部屋から見たときと同じく森の中。何やら耳に響く音が多く聞こえながらも、その場にいられないほどではなかった。


 「えっと、ここはどこでしょうか」


 少女はいつも通りというように、指の先に意識を集中させ、指を光らせる。そして、自分の視線の先に四角い軌道きどうを描いていく。描き始めまで戻って指をそこから離すと、それは小さく光始め、部屋で見ていた地図よりは狭小きょうしょう範囲はんいで表示された。

 小さく光り始めた時、よしっと思った彼女は四角いものに集中しようとした。しかし、瞬間的に体が脱力感だつりょくかんとともに、フワッとした感覚をおぼえた。その出来事に一瞬いっしゅん驚きながらも、少し考えることで納得できる解答を出す。


 「この世界には、天然魔力てんねんまりょくが無いのですね。あまり使いすぎると、危険そうです。長居ながいもできませんね。」


 少女は脱力感とともにできた地図を手にすると、周囲を確かめる。地図は彼女が向く方向に合わせて同じように回転し、まずは近くに道がないか探し始める。しかし、生成せいせいした地図は、周囲を確かめるにはまだ範囲が広すぎ、近くにある線が道かどうかも判らないほどだった。彼女は頭に左手を当てる。先ほどと同じように少し考え、たぶん大丈夫ではと思いいたる。

 もう一度、彼女は指先に意識を集中させ、今度は先程出した地図の一部を囲うように四角を描く。すると、地図は瞬間的に光、選択した場所の地図が映し出される。脱力感がもう一度来るのではと考えていたが、先程よりはそんなに増えることがなかった。


「事前にカタチを作っておけば、消費量は少ない。何回か行き来して実験する必要がありますね」


 更新された地図は、近くの通りやすそうな道までの様子を大体だいたい把握はあくできるようになっており、現在いる場所にポケットから出した棒の先が赤色になったもので丸印を付ける。そして、今度こそ彼女はその場から出発する。


(まずは、この世界に話せる生物がいるか調べましょうか。それによって作業量も変わってきますしね)


 怖いという気持ちより興味が引き立てるワクワク感が勝り、彼女の歩みの原動力となる。少し傾斜が強い森の中を進んでいくのだった。

 しかし―――。


「暑いです。服装を間違えたでしょうか」


 今になってだが、彼女は自分の体を見る。今彼女が着ている服装は、灰色の作業用つなぎだ。それは元の世界で、金属でできた物をいじくるときに着るようにしていた服で、毎日洗濯せんたくがされ、さらに出発する日は汚れるような作業をしてない。

 汚くはないはず。

 分かっていても一抹いちまつの不安を覚える少女。


(じーのせいで着替えを忘れてしまいました。……本当なら戻りたいところですが、向こうの蓄積ちくせきした魔力を無駄にするわけにはいきませんし)


 小さくため息が出る。


「まぁ、動きやすいということで」


 異世界からの少女は、森の中をさらに進んでいった。

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