第13話
2週間後。
「さあ、諸君!準備はいいか!!」
王国の騎士や魔導士を前に杖を掲げながら高らかに声を上げているのは、魔導士長のオルグ。
「「「「「「おお!!」」」」」」」
その声に騎士たち、魔導士たちは答える。
「今回は初の長距離遠征だ!この近年、魔王軍による侵攻が勢いを増している!このままでいいのか!」
「「「「「否!」」」」」
「その通りだ!ゆえに今回は魔王軍によって失われたわが国の領地を取り戻すため!魔王軍を倒すため!魔獣の森に侵攻を行う!!」
「「「「「おおおお!!!!!!!!!!」」」」」
「恐れるものは何もない!なぜなら我らには!『勇者』様と『聖女』様がいる!!」
「「「「「おおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
勢いを増す騎士団と魔導士団の叫びとともにオルグの横にゆっくりと近づくのは、正義と姫花。
正義は白銀の鎧を身にまとい、自信に満ちている。
姫花は真っ白なローブを身にまとい、金の杖を持っている。金の杖の中心には、大きな紅い宝石が主張している。
二人の鎧とローブには、王国の紋章が刻まれている。
正義は姫花の一歩前に出る。正義は大きく手を天にかざす。
「こい!!エクスカリバー!」
正義がそう叫ぶと、手の先が光り輝く。
そして、光の中から出てきたのは、神々しい大剣。
騎士たちはその神々しさに感嘆の声を上げている。
エクスカリバーを掲げたまま声を上げる。
「この聖剣とともに『勇者』、正義とともに魔王軍を追い詰めるぞ!」
「「「「「おおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
正義のかけ声とともに再び声を上げる騎士たち。
その勢いはすさまじいものだった。
「・・・気合入ってるな、騎士団と魔導士団」
そんな中、それを外側で見ているものもいた。
「初めての遠征ですからね。気合が入っているのでしょう。それにこの遠征で成果を上げれば、報酬や名声もあげられるようですから。それに『勇者』様、『聖女』様にも自分の存在をアピールできるので」
「なるほどな」
外側から見ていたのは、学とシャロ。
学の王城での扱いは相変わらずで、今回も騎士団と魔導士団の士気にかかわるとのことで、先ほどの決起集会のようなものが行われている少し横にいた。
「しかし、本当に学様のことをこのように扱うのであれば、わざわざ呼ばないでいいのですが」
「しょうがねえよ。天月が言い出したんだろ」
「・・・本当に困りますね、あの方」
「それ騎士団の前では言うなよ」
「もちろんです」
「さすが」
相変わらずのクールフェイスでさらりと天月に毒を吐くシャロ。
王城に仕えるメイドがそれでいいのかと少し苦笑いの学。
「まあ、意外なものが見れたから、俺は今回の遠征もあってよかったよ」
「・・・何ですか?」
「いや、シャロの騎士っぽいというか剣士っぽい姿見られるのは新鮮だなと思ってさ」
そう言い、学はシャロの格好を確認する。
今のシャロはメイド服ではなく、上は黒い服の上に、鉄の胸当てがつけられており、腕には肘までを覆い隠すような甲冑風の小手。下は、こちらも色は黒のショーパンツ。あとは、女騎士が履いていそうな甲冑風のブーツ。腰にはロングソードとショートソードを身につけている。
いかにも異世界で冒険者をやっているような剣士の服装であった。
「・・・似合いませんか?」
まじまじと見られて少し心配になったのかシャロはうっかりそう口に出していた。
「え?めちゃくちゃ似合ってるよ」
「・・・」
即答だった。
「今まで基本的にメイド服でも私服でもロングスカートだったから、その綺麗なスラリとした足とか分からなかったしな。スラリとしてるだけじゃなくて、そのショートパンツと足の甲冑?の間から見える綺麗な肌も含めて。いかにも女剣士って感じでかっこいいし。凛々しいっていうのかな。いつもと同じ白黒だけど、普段と違う感じが、むぐ」
「も、もういいです」
珍しく少し動揺するシャロ。表情は変わっていないので、声だけだが。
「それって自前?」
「え、ええ。メイドになる前は、剣士で生計を立てていましたから」
「なるほどな。それは納得だ」
「学様、こちらにいらしたのですね」
決起集会が終わったのか、オルグが学たちの所によってくる。
「オルグさん、どうしましたか」
「いや、学様に今回の配置についてお伝えするために集まってほしかったので連絡したはずなのですが、連絡は行ってないですか?」
「来てないですよ」
「・・・すみません、部下のものに頼んだのですが」
「あーいや、いいですよ。行きましょう」
どうやら、連絡ミスなのか学の所に連絡が来ていなかったようだ。
そして、学はシャロとオルグとともに作戦本部のあるテントに向かう。
「そういえば、今回はどのくらいの数で進軍するんですか?」
「今回ですか?ここまでの大規模進軍は初ですからね。2千ほどですね」
「2千ですか。多いですね」
シャルグラード王国の貴族ギルドの現在の人数は約4千人。要するに貴族ギルドの半分の人数が参加することになる。
「・・・様々な貴族が介入してきてましてね。今回は『勇者』と『聖女』がいるということで安心安全だ、と。その上、断るに断れなかったのですよ」
「オルグさんでも、そういうの融通利かないですね」
「私は、中級貴族出ですからね。上級貴族出の方に強く出られないんですよ」
「国王は特に何も?」
「ええ。さあ着きましたよ」
「・・・」
影を差したオルグの顔が学には少し不安感を感じさせられた。
そして、そんな不安を抱えながらもテントの中に入っていく学だった。
「皆さん、お待たせしました」
「遅いぞ!北野!!」
「正義君、そんなにきつく言わなくても」
そこには、長椅子に12個の椅子。そのうち一つ以外にはもうすでに人が座っている。
その中に、正義と姫花もいた。二人は奥の席で二人並んでいる。
「正義殿、そう怒らないでくださいませ。うまく伝令がいっていなかったようなので・・・カイム殿、部下に伝えるようには言ったのですよね」
「ええ。そのはずなのですが・・・」
そうわざとらしく言ったのは、王城で正義とぶつかりそうになったカイムであった。
このカイムなのだが、王のすぐそばにいたということだけあって、なんと騎士団の団長を務めている。
「もしかしたら、伝令ミスか、うまく伝わっていなかったのですかね。しかし、わざわざ魔導士長に呼びに来てもらうなんて・・・正義様と姫花様のお知り合いだとは思えませんな。正義様の言う通り迷惑ばかりかけてくれる」
「カイム殿、そのような言い方は」
「・・・なにか問題でも?」
「っ!い、いえ」
(あからさまだな。最初天月に突っかかっていたのが嘘みたいだな)
そう、この
その上、上級貴族であり、スキル主義、正義の話や正義に好かれようと、学に対してこのように厳しく、また嫌がらせを行うようになっていた。
中級貴族であるオルグは、上級貴族であるカイムには強く出ることはできなかった。
ここにいる他の騎士団員や魔導士団員も同様であった。
「あ、あの、それよりもお話をした方が・・・」
この雰囲気の悪さを断ち切ったのは姫花。
「・・・うむ。確かにな。『聖女』様の言う通りだ。さあ、魔導士長今回の進軍について確認しよう」
「・・・そうですね。では、全員揃ったところで今回の進軍についてご説明しましょう」
そうして、学たちは今回の進軍についてオルグから説明を聞くことになった。
鑑定技師の歩む道 甘川 十 @liebezucker5
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