第12話
「さあ、説明をしてもらおうか」
「え、これなんですか?」
学の目の前にはハンスやケイナ、ゲン、セイなど様々なメンバーが集まっていた。
というかいつも来ている人はほとんど来ている。
仕事はどうした。
「そりゃあ、仕事バカの学が2週間も休むんだぞ」
「仕事バカって・・・俺はそんなに働いてないですよ」
「「「「「「ダウト!!!!」」」」」」
「えー・・・・」
ここにいる人たちに一斉に嘘だと言われ、学は複雑な気分になっていた。
別に俺は仕事しているわけではないのだがと。
しかし、すでにその発言がワーカーホリックであることに学は気づいていない。
「・・・というか俺の知らない人が何人もいるんですけど」
「・・・おまえ本当に言ってんの?」
「はい、宿には何回か来ている人ですけど・・・どなたですか?」
学は特に目立っている人たちを見る。
学の目線の先には少しやつれている初老の男。
その横にはいかにも職人という感じのひげ面の小柄な男。ドワーフだろうか。
ケイナの横にはこの町の
「ふふ、そういえば挨拶をしていなかったね。そもそもお忍びで来ていたからね」
そう言いながらゆっくりと立ち上がったのは初老の男。
「私はメイル・フェイカー。国民領の冒険者ギルドのギルドマスターをやっているものだ」
「え。あなたが」
「ふふ、そう見えないかい」
驚く学に少し嬉しそうな反応をするメイル。
やつれた顔に少し生気が戻ったようにも思える。
「すみません、いつもの様子をみるとそんな感じには見えなくて・・・」
「ふふ、ギルドマスターの仕事で忙しいからね。特に最近は貴族領の冒険者ギルドともめていてねえ・・・ここでこっそりと食べるグラタン?だっけ?あれを食べながらワイン飲むのが僕の最近の癒しだったんだあ・・・おかげで少しギルドの子たちに優しくなれたよ」
「そうなんですか・・・」
この人確かにほぼ毎日昼間にきていた気が・・・というのをぐっとこらえる。
きっと冒険者ギルドはギルマスに優しいのだろう。
きっとそうだと念を押す学。
決して、
「ギルマス?バレてますからね」
とメイルの後ろのいかにも苦労人ような男がメイルに冷たい目を向けているように見えるのは気のせいだろう。
「だが・・・」
「?」
後ろの男のことなど気にしていないようにのらりくらりと楽しそうに話していたメイルが下を向く。
そして、プルプルとしたかと思うと、
「なぜ2週間も休むのだあああああああああ」
「うお!」
メイルは急に顔を上げ、学に迫る。
「君の作るグラタンなしにどうすればいいのですか!」
「ちょ!落ち着いて・・・」
「なにか不満なことが?!改善するのでやめないゲフッ!!!」
さらに迫ってこようとしたメイルだったが、次の瞬間背後からの一撃によりメイルは気絶した。
「すみません、ギルマスが」
申し訳なさそうに苦労人のような男は学に頭を下げる。
「い、いえ・・・」
「あ、申し遅れました。私冒険者ギルドの副ギルドマスターを務めさせていただいておりますクロウと申します」
「・・・」
「前まではギルド管理で追い詰められてはいつもどこに行ったのか分からないようなギルマスが今ではこちらのお店でグラタンを食べて帰ってくるようになって仕事をするように・・・学様には感謝しきれないです」
手を握ってしみじみと言ってくるクロウ。
本当に苦労しているってか苦労するっぽい人だった!!と思う学であったが口にするとまた話がややこしくなりそうだったから言うのはやめておいた。
「そこらへんにしとけって、クロウ。で?本題に戻すぞ?なんでそんなに休む??」
先ほどのメイルのことはなかったかのように話を戻すハンス。
一同の視線が学に向く。
(・・・こんなに大事になるなんて・・・)
正直自分が抜けても問題ないだろうと思っていた学はシャロの方に視線を向ける。
すると、シャロは、
「・・・もう全部話すしかないのでは」
とさっさと言ったほうがいいという反応であった。
「・・・・はああああ、了解」
「やっと話す気になったか」
「ああ、ただそんな大した話じゃないから期待はすんなよ?」
「こっちからしてみたら大事だろうから大丈夫だ」
「おい、どういうことだ」
「いいから話せって」
「分かったよ。実はな・・・」
そして、学は理由を話し始めたのだった。
「・・・・って感じなんだが・・・」
「「「「「・・・・」」」」」
学の話を聞いた街の人たちは唖然としている。
遠征のことも驚きだろうが、何より学が異世界から来たという話が一番驚きだろう。
「つまり、お前は異世界人で最近きた『勇者』と『聖女』と知り合いで?実は王城の中に住んでいると・・・」
そんな中でやっと口を開いたのはハンスだった。
「ま、そんな感じだ」
「あーなにかあるとは思っていたが・・・まさかお前もだとはなあ」
「まあ、俺の場合は巻き込まれたんだけどな」
「巻き込まれたのなら帰ることはできないのかい?」
ケイナは心配そうに学は聞いてきた。
「できていればここにはいないね」
「・・・」
「あーいや別にここの暮らしが嫌ってわけじゃないですよ。ただここのこと知らない最初の頃だったら帰りたい理由が強かったから」
ケイナがさらに心配そうになっているのをみて、学は勘違いされないように理由を説明する。
「しっかし、勇者様も本当に無茶苦茶だな」
「グラドフさん」
立派なひげを触りながらそう話すのは鍛冶ギルドのギルドマスターのグラドフ。
このドワーフも学が来てから常連になっている。
いつもスモークチキンとエールを注文している。
「冒険者ギルドの管轄エリアのミスリル持っていきやがったし」
「ミスリル?」
「あーやっぱり知らんのだな、学坊」
「学坊って」
「わしらから見たら坊だよ。で、話は戻るが、ミスリルってのは魔法耐性の強い金属だ」
「防具によく使われるな」
「おう。それで鉱山地帯で採れるんだが・・・冒険者ギルドの分まで全部持っていきやがった」
「おうぅ・・・」
学は頭を抱える。この世界でも相変わらずのようだなあと。
天月は正義感が強い。それはまっすぐな正義感だ。
そうまっすぐすぎるのだ。
最初に頼られた人間の意見を聞き、影響を受けやすい。
それゆえに不安定だ。
(だから、俺のことも目の敵にしてたからな。最近は収まってきたんだが・・・こっちの世界来て戻ってきた感じだ)
学は今回も含めて、その心配が強くなっている。
だから、今回もそれが悪化しないようにしたいと考えた結果、一週間しっかりと対策を練ろうと思ったのだ。
「つまりは、あの勇者と貴族連中を少し黙らせるために特訓アンド秘密兵器を作るために休むってこと?」
そう言ったのは、キセルを片手にいうのはこれまた綺麗な女性。
この国民領の商業ギルドのギルドマスター兼国民領女の会会長のアセカ。
ここに来ているということは常連である。
「まあ、乱暴に言えば」
「そういうことなら・・・仕方ないわね」
「すみません、お菓子の作り置きは作っておきますから」
「ふふ、それなら嬉しいわ」
それを聞いた他の女性たちがうらやましそうに見ている。
それに気づいた学は、
「大丈夫ですよ、今日他の方の分も作って、遠征行く前にも持ってきますから」
と言う。
すると女性たちは大喜び。
「そんなにいいもんじゃないですよ」
「「「「「いいものです」」」」」
「あはは」
学は女性ってやっぱりたくましいと思った。
「で、ハンスさん?そういうことなので休みたいんですけどいいですか?」
そして、話をもとに戻す。
そんな学をハンスは、
「・・・」
無言で見つめていた。
「あ?あのハンスさん??」
「よし、決めたぞ」
「え?」
「学!おまえを鍛えてやんよ!!」
「・・・は?」
「いやあーそういうことならちょうどいいな!」
「いやいや!どうしてそうなるんだ?!」
いきなりすぎる発言に動揺する学。
「そりゃあ、学がここに来なくなったら俺らにも一大事だし、貴族領の奴らに一泡吹かせることができるんだろ?それなら人肌脱がなくちゃな!」
「え?ちょ」
「ですね!よし!クロウ君、冒険者ギルドに通達!!」
復活したメイルが立ち上がってクロウを指さしそう言った。
だが、
「却下です」
「まだ何も言ってないよ?!」
「大方あなたも特訓に参加するから運営は任せるとかでしょう」
「さすがだね!?」
「まったく・・・」
「そ、そうですよ!ハンスさんも仕事あるで」
「ですが、一日なら許します」
「よっしゃ!」
「クロウさん?!」
「よっしゃー!てめえら学を鍛え上げるぞー!!」
「「「「「おおーーー!!!!!!!!!」」」」」
「学を強くするぞーーーー!!」
「「「「「おおーーー!!!!!!!!!」」」」」
「ちょ、聞いて??」
「無理ですね。あ、プリン食べたいので冷蔵庫に取りに行ってきます」
「・・・」
学の言葉を聞く人はいなかった。
お願いだから聞いて?と思う学であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます